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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第三章:鋼鉄剣武-Super sonic samurai-
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第四十話


 「すごい……!」


 その妙技に一瞬見とれるアニィ。と、ヒナが剣を下ろし、アニィ達の方を向いた。


 「誰だ」


 凛とした立ち姿に良く似合う美しい声で問われ、アニィは我に返った。

その声には幾分か敵意が含まれている。


 「あの…わたし達、厄介事引受人協会からの依頼で来ました!」

 「………またか」


 ヒナの深いため息が聞こえた。どうやら何度か、アニィ達と同様に訪れた協会員がいるようだ。

相当嫌そうな、不機嫌さをあらわにした声だ。何しろ修行中に邪魔されたのだ、良い顔をするわけがない。

一度プリスの顔を見ると、無言で促され、オドオドしながらアニィは再度呼びかけた。


 「…お話だけでも、聞いてもらえませんか?」

 「断る。また騎士団に入れという要請であろう」

 「いえ…その、そうではないんです」


 その言葉に顔を上げ、ヒナはしばし考えると、何か問うように足元のドラゴンを見下ろした。

彼女もまた、ドラゴンと以心伝心の関係にあるようだ。

しばしヒナとドラゴンが見つめ合ったのち、ドラゴンが動き出した。

首より下を溶岩から出し、地面に上がったのである。

黒く金属質に輝く鱗、筋肉質ながらもどこか優美に伸びた四肢。

首はやや短く、強靭な筋肉に覆われていた。


 ドラゴンが首を下ろすと、頭頂部に立つヒナの顔がここで初めて見えた―――

否、全貌が見えたわけではない。彼女の目元は、金属板を張り合わせただけの無機質な覆面に覆われていた。

覆面の下から頬まで、痛々しい傷跡が覗く。


 「なら何用だ。返答によっては斬るぞ」


 修行の邪魔をされた苛立ちからか、彼女の声は刺々しい。

間違いなく怒らせた…アニィは不安を抱きつつ、尋ねた。


 「少し、お話しを聞いて欲しいんです…時間がかかるかもしれませんけど」

 「ほう」


 それこそ、その一言で切って捨てられるかとアニィが恐怖した時。

ヒナは剣を鞘に納め、ドラゴンの背に跳び移った。どうやら話を聞く気にはなってくれたらしい。


 「外で聴こう。ここは暑いだろう」

 「………あ、ありがとうございます!」


 だがアニィの感謝を彼女は無視し、ドラゴンの首筋に触れた。

ヒナの意志を理解し、ドラゴンはプリスとパッフの間を通り抜け、洞窟の外へと向かう。

それを追ってプリス達も後に続いた。


 外に出ると、幾分か涼しい風がアニィ達の首筋を撫でた。

アニィとパルは汗だくだが、ヒナは大空洞の温度になれているのか、涼し気ですらあった。

木陰に集まると、3人で地面に降り、足元の木の根を椅子代わりにして座る。


 「で、勧誘でないなら何用だ」

 「あっはい、ええと、……」


 ヒナに尋ねられたアニィは応えようとしたが、いざ説明しようとするとパニックになり、回答が出てこない。

混乱と羞恥で汗をかくアニィを見て、ヒナはしばし待った者の、やがてため息を吐いて立ち上がろうとした。

すっかり呆れられてしまったらしいと知り、アニィは慌てて止めようとした。


 「あっ、あの、あの、あの」

 「…用事が無いなら帰れ」

 「あーあー、ちょい待ち。ちょい待ち」


 剣を手に取り、ヒナは黒いドラゴンの背に乗ろうとする。

が、パルの発言がそれを阻んだ。ヒナは苛立ちを募らせ、剣の柄に手を掛ける。


 「何だ…私は修行しなければならんのだ。邪魔立てするなら今度こそ斬るぞ」

 「ちょっと依頼がややこしいことになっててさ。アニィ、説明してやって」


 パルに軽く肩を叩かれ、泣きそうになっていたアニィは正気を取り戻した。

依頼内容に関して、オーサーとダディフの両者の意見がすれ違っていることの説明が必要と気づく。

ヒナもある程度それを汲んだらしく、剣を置いて再び座った。少なくともアニィの話を聞く意思はあるようだ。

アニィは深呼吸して心を落ち着け、オーサーからヒナへの入団要請、対してダディフが入団すべきでないと考えていること。

当のアニィ達はヒナの回答を聞くためにここに来たことを説明した。

そして思った通り、ヒナは即答したのであった。


 「入る気は無い、ここもしばらくは出ない。依頼は失敗したと伝えろ」


 冷たい一言だった。これまでの会話から、判り切っていた返答である。


 「それで? 他に何かあるか?」

 「わたしの個人的な質問、ですけど…」


 修行に戻られる前にと、やや慌ててアニィは手を挙げて質問した。


 「カゲサキさんは、どうして修行してるんですか?」


 アニィがそう尋ねた途端、ヒナは黙り込んだ。

苦渋に満ちたその表情から、過去の辛い記憶を思い出しているのがわかる。

禁句であっただろうか…アニィ達はそんな不安を抱きつつ、ヒナが答えるのを待った。

やがてヒナは、己の目元を覆う覆面を外した。面の下の素顔に、アニィ達は息をのむ。

両目は傷跡と化し、完全に塞がってしまっていた。獣の鋭利な爪で引き裂かれたのだろうか。

桜色の唇や白い頬、艶やかな黒髪と、整った容貌の中で、大きな傷跡だけが痛々しい。


 「3マブリスほど前のことだ。故郷の里が怪物に襲われた。

  父と相棒の竜がその怪物の長に挑み、そして―――殺された」


 ヘクティ村が邪星獣に襲撃されるよりだいぶ前だ。邪星皇の影響でモンスターが活発化していたのだろうか。


 「私以外の村の民は全て、怪物どもに引きちぎられ、肉片と化した。

  生き延びた私の目もこの通り、最早見えぬ。気配と音、明るさと触覚で周囲の環境はわかるが。

  医師にも見せたが、眼球の組織そのものが死滅していて、治療は出来ぬそうだ」

 「………」

 「里の民の仇を討つ。私の目的はそれだけだ。

  だが、まだ必殺の技が完成しない。このままでは奴を討てぬ…」


 ヒナは再び鉄の覆面を目元に着けた。先ほどもちらりと見えたが、覆面だけでは傷跡が隠せていない。

彼女の怒り、悲しみ、悔恨を宿した涙にも見える傷跡は、頬にまで走っている。

見られたことを恥じたのか、ヒナは今度こそ剣を手に取って立ち上がり、相棒のドラゴンの背に乗った。


 「騎士団にはそれだけ伝えてくれ。…ついでに、騎士団自体も好かんとな」

 「……」

 「私は修行に戻る。さらばだ」


 そう言って大空洞へとヒナは戻っていく。だが、彼女が乗るドラゴンは―――


 「ゴウゥ…」


 名残惜し気に振り向き、小さな唸り声を上げた。何か伝えたいことがあるようだ。

このままでは良くない、とアニィは直感的に考えた。何がとは判らないが、何かが良くないと。

思わず立ち上がり、ヒナの背に声をかけた。


 「あ、あの!」

 「何だ」

 「………手伝います!」


 プリス、パル、パッフ、そしてヒナが驚きの表情を浮かべた。

アニィ自身、自分がこのような発言をしたことに驚いている。

村を出る以前なら、間違いなくこのまま帰ってしまっただろう。

言い終えた今も、ヒナに断られないか、プリス達に余計な世話と言われないか、不安だった。

だが振り向いたヒナから帰ってきたのは、意外にも疑問の言葉だった。


 「………何故?」


 誰かの助けを得ることなど全く考えていなかったのだろう、呆然とした声だった。

彼女の疑問に真摯に答えるべく、アニィは応える。


 「あなたの剣の技…わたし、剣のことは詳しくないけど…とても綺麗な技で…

  多分、本当に必殺の技になるところまで、来てると思います」


 マグマザウラーを一刀両断した瞬間、ヒナの剣が描いた銀色の弧は、本当に美しかった…

だからこそもっと先があると、アニィは思っている。

同時に、完成させるには人手が必要と思ったのだ。


 「…でも、手伝ってくれるのがドラゴンさんだけじゃ、限界があると、そう思っただけですけど…」


 黒いドラゴンへの悪口になっていまいか。アニィは気になって一度口をつぐんだ。

だが黒いドラゴンは、むしろ感謝するかのように、穏やかな眼差しでアニィを見つめ返した。

ヒナはそのドラゴンが醸し出す気配に戸惑っていた。

常に彼女を支えてくれたドラゴンがそんな雰囲気を醸し出すのは、どうやら初めてらしい。

その後押しをするかの如く、続いて助勢を申し出たのは、こちらもまたドラゴンであるプリスだった。


 《じゃあ私もやりましょ。手伝う人数は多い方が良いんじゃないですか?》

 「………ドラゴンが喋った…?」


 答えるより前に、プリスが会話したことには驚きの声を上げるヒナ。

続いてパル、パッフが手を挙げた。


 「あたし達も何か手伝うよ。アニィの注文のこともあるから、時間に余裕はあるし」

 「クルっ!」


 全員の申し出に、ヒナはしばし考え込んでいた。

見えぬ目で助けを求めるように黒ドラゴンを見つめると、黒ドラゴンはゆっくりうなずいた。

2人だけでは鍛錬に限界がある。ドラゴンにはよく判っているらしく、ヒナ自身もうすうす気づいていたのだろう。

ドラゴンとうなずき合うと、ヒナは顔を上げ、4人の申し出を受け入れた。


 「……頼む」


 ぎこちない頼み方から、彼女が人に助けを求めるのが苦手なのが、アニィ達にも伝わってきた。

アニィは全員の顔を見回し、ヒナが助力を受け入れてくれるものと確認した。


 「はいっ…!」

 「改めて名乗らせていただく。私はカゲサキ=ヒナ。名を呼んでくれて構わん。

  こいつは私の相棒のクロガネだ。よろしく頼む」

 「ゴオゥ!」


 アニィはヒナと、プリスはクロガネと握手を交わし、その後全員が自己紹介を済ませた。

テントや食料はヒナも持ってきていたので、洞窟前の木陰の1か所に集めた。

相棒のドラゴンも含めた6人で、2・3ディブリスほど共同で生活することになった。


 なおアニィ達の食料は、騎士団が遠征に持っていくものと同じ、不味い携帯食であった。

栄養は豊富、保存も効くのであろう。

だがパンとひき肉と野菜を練り上げて固めた結果、見た目も味も乾燥しきっていた。

味わい度外視の携帯食に、アニィとパルはげんなりした。


 とりあえず食料のことは後回しにして、6人は早速特訓を始めた。

洞窟の前で、まずはヒナの剣術の動きを確かめる。

ヒナ自身が剣を何度か振るい、それをアニィとパルがやや離れた位置から見ている。

ヒナが得意とする剣術は、真上からの唐竹割、左右の水平斬りによる一撃必殺の剣であった。

 時折憎悪が見え隠れするその剣筋と表情に、パッフが不安そうな顔になる。

恐らくもともと鍛えていた剣術で、「怪物」とやらを叩き斬るべく磨きをかけたのだろう。

独特な反りを持つ彼女の剣も、そのために作られた物のようだ。

気になったパルは尋ねてみた。


 「ヒナの剣、変わった形だね?」

 「そうか? ―――ああ、こちらで一般的なのは直線的な両刃の剣か」


 そう言うとヒナは一度手を止め、刃をアニィ達に見せた。

パルはヒナを呼び捨てするようになっていた。既に友達だと思っているようだ。

そしてヒナも、それを咎めることは無かった。


 「(カタナ)という。地域によってはソード・オブ・サムライとも言うそうだ。

  この刀は、帯刀を許された幼子の頃から持っている。私にとっては己の手のような物だ」

 「サムライ…」

 《ヒナ、あなたのいた地域の剣士のことですね》


 うむ、とヒナはうなずいた。その表情は暗い。

彼女の里にはたくさんのサムライがいた、と自己紹介の後で聞いたばかりだ。

そのサムライ達が惨殺されるのを、彼女は目の当たりにしたのだ。挙句、彼女自身も光を奪われた。


 「……私の里のサムライ達は、魔物の討伐を生業としていた。それがあそこまで…」


 ヒナが唇を噛む。覆面の奥に隠された失われた瞳が、憎悪に暗く光っているように、アニィには思えた。

と、そこでふと思いつき、バッグから画用紙と画板、色鉛筆を取り出した。

ヒナとクロガネが首をかしげる一方、パルとパッフ、そしてプリスはその意図を理解していた。


 「ヒナさん、その怪物ってどんなのだったの? 絵にして確かめてみたいんだけど…」

 「そうだな…集団で来て、殆ど同じ姿だったが……

  ドラゴンに似た体形、左右に扁平に伸びた頭部、そこに左右3対6個の目が並んでいて…」


 アニィが画用紙に描く絵を覗きながら、プリス達は気づいた。


 「そして長だけは体格が良く、頭に一本の太い角を持っていた。父が斬り付けて、目元に傷が残っているはずだ」


 ヒナの証言を聞きながらアニィが描いたのは邪星獣…そして、先日ヴァン=グァドで遭遇した角付きだった。

覗き込むパルの顔がわずかに青ざめる。遭遇した時は闘いこそしなかったが、恐るべき敵であることは判っていた。



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