表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第三章:鋼鉄剣武-Super sonic samurai-
42/386

第三十九話


 地図を広げ、ヴァン=グァド西側の広大な海の上をアニィ達は飛んでいく。見渡す限りが海、岩礁すら無い。

ふと海面を見ると、一般市民を乗せた船が南方向へ向かっていた。恐らく避難船だろう。

ボルビアス島に辿り着くまで、太陽が真上に昇るほどの時間がかかる。

朝のうちに出て正解だった、とアニィ達は全員が思っていた。


 「来た時も気になってたけど、プリス達は疲れない?」

 《体の方はそんなに疲れないんですけどねえ。気持ちが疲れるというか、飽きるんですよ。

  何が楽しくてだだっ広いだけの海を眺めねばならんのかって》

 「怪物(モンスター)どころか、魚の一匹もいないものね…」


 アニィは静かな海面を見下ろした。彼女の発言通り、魚一匹どころか波の一つも立たない。

周辺大陸からの海路が確立されていることから、恐らく騎士団によって滅ぼされたのでは…と、考えることもできる。

ドラゴンを上回る超巨体のタイダルホエール、海中から獲物を狙う甲殻類型のシーアラクネなど、危険な海棲モンスターは多数いる。

海路上のモンスターの駆除だけならともかく、一匹も見当たらないとなれば、人為的な影響は充分考えられる。


 「この辺は海底火山が多いみたいだけど、環境に適応したモンスターもいないもんね」

 「クルル…」


 地図を見ながら、パルも海面を見下ろしていた。

モンスターは人類や普通の生物が生息できない環境にも適応できる。

海底が高温になったり有毒物質が充満しても、なお生きていけるモンスターはいるはずなのだ。


 《まあ人災にせよ何にせよ、今は気にすることも無いでしょ。

  パッフ、少し急ぎましょう。だらだら海の上を飛んでるのはヒマでかないません》

 「クルルっ」


 パッフはプリスの意見に同意し、2頭は飛行速度を上げた。

風を切って静かな空を飛ぶ感覚。時折、巨大な鳥や飛行型モンスターがすぐ近くを通り過ぎていく。

アニィ達と目を合わせては、ドラゴン2頭の威容に怯えて逃げ、あるいは警戒の鳴き声だけ上げて飛び去る。

プリスは退屈だと言うが、加速するドラゴンの背で感じる風圧は、アニィにとって新鮮な感覚だった。

ふと、飛んできた鳥類のふわりとした毛並みに触れようとして、手を伸ばす。

指先が柔らかな羽毛を掠めると、鳥は驚いてバランスを崩し、慌てて体勢を整えた。

心の中で謝りつつ、アニィは指先に残る柔らかさを思い出す。


 「鳥の羽って、やわらかいんだね…」


 ふとしたアニィのつぶやきは、プリスにだけ聞こえたようだ。


 《鳥に触れたのは初めてでした?》

 「うん。村にいた頃は、服や髪飾りの羽毛にこっそり触ったくらいしか」


 姉や母が行商から買った装飾品にこっそりと触れ、それがバレて蹴り飛ばされたことがあった。

肩や腹、顔まで蹴られた。痛みはさほどでもなかったが、それ以降、家族が買った物に手を出すのはやめた。

今でも服やアクセサリーなどに興味が無いのは、その影響だろう。


 「綺麗な景色…」


 ふと横を見ると、遥か彼方の島から何羽もの鳥が飛び立っていった。

この広大な海を渡って、どこへ行くのか…アニィ達とはまるで異なる方角へと、鳥の群れは飛んでいく。

朝の太陽に照らされる海の上を、陸の一つも無い海の上を、生き物たちが飛んでいく。


 「カゲサキさんも、この景色を見たのかな…」

 《修行に来たって言ってましたっけ。見る暇は無かったんじゃないですか。

  それに鳥や飛行型モンスターが飛ぶなんて、日常茶飯事でしょうし》

 「そっか…」


 修行のために渡ったというのなら、他の物に夢中になることは無かっただろう。

この景色の美しさに触れられぬのはもったいないと、アニィは思った。




 何ジブリスか後、プリスとパッフが速度を上げて飛行したおかげで、当初思っていたよりも早くボルビアスに到着した。

真っ先にアニィ達が感じたのは、気温を含めたあらゆる温度の高さだ。

念のために島内に誰もいないことを確認し、4人は降り立った。

地面に降りたアニィ達が地表に触れると、土はぬるま湯程度に温かく、周辺には植物がわずかに生えている程度。

プリスが地面に顔を近づけ、土の匂いを嗅いだ。


 《火山から出る物質のせいですね。植物が生育しづらい土です…

  恐らく有毒物質や金属が、土に混ざっているんです》

 「有毒…じゃ、わたし達もすぐに出た方がいい?」

 《皮膚接触なら害はありません。しかし、この成分が染み出した水は飲んだり触ったりしないように、念のため。

  洗顔なんかも、小隊長殿が持ってきてくれた水で済ませてください》


 なるほどとアニィは納得した。少ないながら植物がある。土に水分が含まれている可能性もあるのだ。

そして有毒物質を含んだ土から染み出した水と言うことは、この島の地下水のみならず、それに適応した植物も、人体にとっての毒である。

パルが荷物を改めて確認すると、大きい水筒は7本、小さな水筒は3本入っていた。

少女3人で飲むには多いが、洗顔や体を拭く分も含めれば、このくらいあった方が良い。


 「無くなったらパッフに出してもらうしかないか。そん時はお願いね」

 「クル!」


 アニィ達はプリスとパッフの背から荷物を下ろし、テントを組み立てた。

完成後に軽く手で押し、強度を確認。軍用とあって頑丈であり、ドラゴンラヴァーの腕力でも動かなかった。

内部もアニィとパル2人で寝泊まりするには広い。騎士団の殆どが成人男性なので、充分なスペースを取っているのだろう。

小さい水筒に水を移し、腰に下げる。


 「さて。じゃあ大空洞とやらに行ってみようか」

 「うん…!」


 荷物の中には島内の手書きの地図もあった。地図に沿って4人で歩き、山のふもとに辿り着く。

そこには大きな洞穴が口を空けていた。内部は入り口から1ドラフラプ程度まで見えるが、その先は闇。

地図にはこの洞穴にカゲサキ=ヒナがいると書かれている。この中で彼女は修行しているのだろうか。

何の音も、あるいは動物や怪物の声も聞こえてこない。


 「…行こう」


 アニィの一言で、全員が意思を固め、洞窟に踏み込んだ。

周辺と同じく、内部も気温が高い。空気中に有毒物質は無いらしく、プリスとパッフからの警告は無かった。


 《照らしますね》


 プリスが翼を輝かせる。暗闇の洞窟が明るくなり、5ドラゼンほど先までは見えるようになった。

地面は溶岩が冷え、冷えては溶けて変形し…を繰り返したらしく、滑らかな曲面と凹凸が無数にある。

天井まで十分な高さがあり、プリスとパッフが首を上げていても充分に歩ける。アニィとパルは、安全のために相方の背に座った。


 「この先でその、カゲサキって人が修行してるんだよね。

  地図だと…一番奥が広くなってるらしい。多分そこだ」


 パルが地図を見ながら説明する。有難いことに、地図にはダディフの手書きの洞窟内部図解もあった。

洞窟の地面は、奥に向かって緩い下り坂になっている。

磨き上げられたような滑らかな地面と合わせ、迂闊に走れば滑って転びそうだ。

アニィを乗せたプリスが前を歩き、4人は奥へと向かった。

湿気が強く、高い気温と合わせ、たちまちのうちにアニィとパルの服や髪がべたつく。

軽く手で仰いでも、顔にかかるのは蒸れた空気だけだった。


 「空気が籠ってる…外より暑い…」


 アニィ達が着ている服は、安全のために頑丈な長袖長ズボンで、更にマントまで羽織っている。

汗が出るのも道理である。


 「修行以前に脱水症状とか起こさないのかね、カゲサキさんとやらは」

 「亡くなってたらどう説明しよう…」

 「そりゃ、そのまま言うしかないんじゃない?」


 こんな洞窟に住んでいるのなら、確かにその可能性が無いわけではない。

アニィは僅かに青ざめ、パルも不安そうに顔をしかめる。


 歩いていくと、地面のひび割れの隙間に、溶岩の赤い光が見えるようになった。

高温で地面の岩石が溶け、ところどころが溶岩と化している。迂闊に人間の足では立てない温度だ。

それに合わせ、洞窟の天井も高くなっていった。同時に、天井からも時折溶岩がしたたり落ちるようになった。

当然温度も高くなる。代わりに水分が失せ、空気が猛烈に乾燥している。毒性のガスなどは漂っていないようだ。

アニィ達が『ドラゴンラヴァー』でなければ、この暑さには耐えられないだろう。最奥部が近いことがわかった。

果たして、4人は大きく開けた地点…最奥の大空洞に到着した。


 空洞の中央には、直径1ドラフラプほどの溶岩の湖がある。

その中心部―――溶岩の真ん中に、人が立っているのが見えた。

否、よく見るとその人影の足元に黒いものが見える。左右対称に1対の光り、後方に伸びるいくつかの円錐が見えた。

形状から、角が生えたドラゴンの頭部だと判った。光っているのは目だ。


 その人物は背筋をピンと伸ばし、僅かに反った長大な片刃の剣を構え、ドラゴンの頭部に立っている。

一方のドラゴンは顔以外を殆ど溶岩の中に沈めていた。

プリスとパッフでも、そんなことをしては全身が溶けてしまうだろう。

だが、そのドラゴンは余裕しゃくしゃくで溶岩に浸かっていた。


 溶岩の輝きを受けて、僅かに赤く光る黒髪。ゆったりしつつ動きやすい、東方の国特有の装束。

黒いドラゴンを連れ、修行のために大空洞に入った少女。人相書き通りの人物、カゲサキ=ヒナであった。


 「生きてた…」

 《良かったですね。じゃあ早速連れて―――》


 行こう、とプリスが言いかけた直後。ヒナの目の前で溶岩がうごめいた。

何が起こったかと見守る4人の前で、溶岩の中から巨大な怪物が飛びだした。


 「あれ、先生に聴いたことある! 溶岩の中に生息する怪物、マグマザウラーだ!」

 「クルル!」


 センティが若い頃に旅の道中で出くわしたという、溶岩内部に生息する巨大な爬虫類だ。

余りの熱で脳の機能に異常をきたしたらしく、似た種類の怪物と比べて極めて凶暴かつ攻撃的だという。

その体躯の大きさ、そして戦闘能力もドラゴンに匹敵する程だ。

マグマザウラーは飛びだし、ヒナに襲い掛かった。思わず、アニィは叫びそうになる。だが。


 「―――ハァッ!!」


 アニィ達の目には、銀色の弧が一瞬だけ映った。ドラゴンラヴァーでなければ見逃す一瞬だ。

直後、大上段からの一閃でマグマザウラーの体は真っ二つに両断され、再び溶岩に没したのである。

早さ、威力、精緻さ。どれをとっても極めて高いレベルまで鍛えられている。

ヒナは恐るべき剣技の持ち主であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ