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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第三章:鋼鉄剣武-Super sonic samurai-
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第三十四話


 アニィとプリスはゆっくりと降下してきて、パルとパッフの横に並んだ。

兵士達は半ば呆然と4人を見ているが、列の中から隊長らしき壮年の男が前に出て、アニィ達に握手を求めた。


 「助かったよ、我々だけでは対処しきれなかった。本当にありがとう!」


 握手に答えて手を握り返しつつ、アニィは尋ねる。


 「いえ…それより、皆さんはヴァン=グァドの兵隊さんですか?」

 「うむ、ヴァン=グァド専属騎士団だ。もしかして、我らが街に御用かな?」

 「はい、必要なものがあるのですけど…こちらでないと手に入らないと聞いて」


 なるほど、と隊長と彼が騎乗するドラゴンが顔を見合わせ、鷹揚にうなずいた。

ちなみに彼が乗っているドラゴンは、他の隊員達のドラゴンと比べて顔のしわが目立ち、もだいぶ高齢であることがわかった。

パルとパッフのような関係であろうか、隊長が手綱など引かなくともドラゴンは応え、羽ばたいた。


 「わかった。では城門までご案内しよう。ついてきたまえ」


 隊長とドラゴンがアニィ達を先導する。ついていく4人。


 「ありがとうございます…!」

 「そうだ。あたし達、厄介事引受人協会の会員なんだけど。協会支部ってここにある?」

 「うむ、あるよ。話はそこで通しておくと良い」


 パルの質問に、隊長はやはり鷹揚に答えた。

ふとプリスが振り向くと、さらに後を付いてくる隊員の反応は様々だった。

年若い少女達に対して物珍し気な視線を送る者、疑いの目を向ける者。

怪物を見るような眼差し、明らかに馬鹿にしている者までいた。何しろ人類初の光の魔術の使い手を見たのである、ある意味当然の反応だ。。

アニィ達の活躍を素直に賞賛しているのは、隊長だけのようだ。やれやれ、とプリスは内心でため息を吐いた。


 都市全体をぐるりと囲む外壁は、ドラゴンすら小さく見えるほどの高さで聳え立っている。

プリスの目測では高さ9ドラフラプ(450m)ほどあるように見えた。

城門は、そのおよそ半分ほどの高さにあった。

広場の上は海上より風が強く、黒雲が強風に押し流されていくのが見えた。

門の前の巨大な広場…城壁との間に斜めに突っ張った柱で支えられている広場に着地、隊長が門番に事情を説明する。

だが隊長は門番の返答を聞いた瞬間、顔をしかめた。すぐアニィ達の前に戻り説明する。


 「どうやら他の隊がまだ戻っていないらしくてね。すまないが、すぐに門を開けることは出来ない」

 「他の隊って、さっきの隊長さん達みたいに防衛に出たの?」


 パルに問われ、うむ、と隊長はうなずいた。

と言うことは、邪星獣は他の方角からも襲ってきたということだ。

アニィ達は顔を見合わせ、広場の縁から周囲を見回した。

巨大な翼が羽ばたく音が聞こえてきた。しかも広場に接近してくる。


 「来るぞ! 総員構えろ!!」


 隊長の声で兵隊、そしてアニィ達が身構えると、その上空に邪星獣の巨体が表れた。

邪星獣は広場を揺るがして着地し、身構えたアニィ達と向き合う。

指揮官を担当しているのではなく、ただ1体のみで行動しているらしい。


 『VWOOAAAHH!!』


 威嚇の咆哮。全長は1と4分の3ドラゼン(26メートル強)、協会のリストにあった大型と同程度のサイズだ。

これまでの邪星獣とは顔が異なり、左右に伸びた頭部の中心に1本の角が生えていた。目元には斬られたと思しき傷跡がある。

また全身が筋肉質で、四肢の指先の爪は硬く短い。体格と爪、そして角から、高い格闘能力を持つことがわかる。

単独での戦闘に特化した個体だ。これもまた新種であった。


 「隊長さん、他の隊が相手してたのってこいつ!?」

 「そうだ。我らが騎士団長の隊が迎え撃っていた筈だ…まさか…!」


 パルに答えた隊長の額に汗が流れた。

海中からの集団、そして単独で襲撃してきた大型。それぞれが別々の方面からヴァン=グァドを襲撃したわけだ。

そしてこの角付きの大型は、迎え撃った騎士団長の隊を撃破したのであろう。


 『VSSHHHH……』


 角付きが息を吐く。体内の温度が高いのか、息は湯気の如く白くなった。

アニィ達が構え、角付きが姿勢を低くする。あわや激突かと思われたその時、また新たに足音が聞こえた。

四肢が走る足音…だがここは、高度220ドラゼンに作られた広場である。

振り向くと、何と壁を走るドラゴン、そして大きな騎兵槍を持ってその背に乗る騎士の姿があった。


 「ハイヨーッ、シルバァーーーッ!!」

 「ギシャアアアアッ!!」


 騎士がドラゴンの手綱を引くと、銀の鱗を持つドラゴン…シルバーが壁から跳躍し、身をひるがえして角付きの前に着地した。

角付きはシルバーと対峙するように足を止めた。シルバーも険しい表情で角付きを睨んでいる。

隊長を乗せたドラゴンがシルバーの横に駆け寄る。


 「騎士団長どの! ご無事でしたか!」

 「すまぬ、途中で空から怪物が現れてな。そ奴らの対処をしているうちに、こ奴を取り逃がしてしまった」


 そこまで言うと、騎士団長はアニィ達の方を振り向く。


 「隊長、あの娘たちは?」

 「我々を助けてくれた娘たちです」

 「ほう…」


 騎士団長はアニィ達を横目で見る。アニィ達はわずかに警戒の意志を感じた。

一方、角付きは流石にドラゴンラヴァーとドラゴンのペアが2組も現れては不利と見たか、それともただの様子見だったのか…

少しずつ後ろに下がり、翼を広げ、空へと飛んでどこかに姿を消した。

プリスが前肢を一歩踏み出したところで、騎士団長は


 「……とりあえず、危機は回避できたか…」


 騎士団長が騎兵槍を下ろす。

シルバーがプリスとパッフの前に歩み寄ると、騎士団長は槍をシルバーの鞍にかけ、兜を脱いだ。

隊長より幾分か若い。恐らくアニィの父、オンリと同年代であろう。

精悍で、しかし落ち着きのある眼差しがアニィ達を見つめる。


 「私はヴァン=グァド騎士団長、ダナイト・オーサーだ。こいつは我が友、シルバー。

  先ほど君たちと話したのが、第一小隊長のダディフ・キャップ。

  我が騎士団を救ってくれて、本当にありがとう」

 「キシャア」


 アニィとパルは、順にオーサー、そしてキャップと握手を交わした。


 「パル・ネイヴァです。こっちはあたしの相棒のパッフ」

 「クルル!」

 「アニィ・リムです…と、プリスです」

 「君たちも、ドラゴンとは仲が良いようだな」


 オーサーは穏やかな笑みを浮かべている。

アニィとプリス、パルとパッフのそれぞれの距離感に、一種のシンパシーを感じたようだ。

 そこへ遅れて騎士団がやってきた。恐らくオーサーが率いていた方の部隊だろう。

アニィ達が助けた方の部隊より人数が少ない…先ほどの角付きとの戦闘で負傷したか、命を落としたか。

オーサーは騎士団全員に被害状況を聞き、沈痛な面持ちでうつむく。

アニィ達には詳細は判らないが、どうやら決して被害は小さくなかったらしい。

報告を聞き終えたオーサーは、シルバーの手綱を引き、再びアニィ達に歩み寄った。


 「ダディフに聞いたよ。どうやら、我が街に用事があるそうだね」

 「はっ、はい。魔術の補助器具が必要で」


 アニィがそう言うと、騎士団の何人かが首をかしげた。

隊長が率いていた方の兵たちは、アニィの魔術を素手に見ている。あれで補助器具が必要かという懐疑的な視線だ。

一方でオーサーの隊からは、何だ何だという疑問の声だけが聞こえてきた。

懐疑と困惑という、今までに経験の無い視線を向けられ、アニィは戸惑っていた。

それを察したオーサーが尋ねる。


 「判った。なら、入城許可証はもうお持ちかな?」

 「えっと…会員証が」


 アニィとパルが『厄介事引受人協会』の会員証を見せた。

オーサーと隊長はそれを確認し、門番の兵士に伝える。その顔がわずかに不機嫌そうになった。

協会に対してあまりいい感情を抱いてはいないようだが、アニィ達が善良故に信用した、というところか。

両者が確認を取ったことで、ヴァン=グァドへの入場許可が採れたようだ。


 「では行こうか。ようこそ、城塞都市ヴァン=グァドへ」


 オーサーがアニィ達に道を譲った。4人は門をくぐり、城塞都市を見下ろす。

堅固な要塞、防壁、地対空の設置型大弓、一般市民向けの避難所…その間に、決して大きくない商店街があった。

アニィ達は高い位置にある門の前から街を見下ろし、無機質な建築物の数々に目を見開いた。

その横でオーサーが説明する。


 「ここには軍事施設が多数ある。城門がこの高さにあるのも、敵軍を容易に侵入を許さぬためだ…

  …だったのだが、邪星獣には全くの無意味だ」


 オーサーを乗せたシルバーが羽ばたいた。説明していたオーサーが言いよどむ。

彼は邪星獣の名を知っているらしい…つまり、協会は既にその名を発表したのである。

海のど真ん中にある都市の、全方位を囲む城壁の半ばにある小さな門。

確かに侵入は容易ではない。しかし、あくまでそれは人間相手に限った話だ。


 邪星獣はドラゴンとよく似た身体機能を持つ―――すなわち空を飛び、膂力は地上のあらゆる生物を凌駕する。

上空から容易く襲撃できる上、その気になれば防壁さえも破壊できる。

さらに、海中に適した形態を持つ一群まで出現した。対処が遅れれば、この都市は崩壊する可能性がある。

それを示唆するように、都市内部の施設は幾つか破壊されていた。邪星獣の攻撃によるものだろう。


 「他の大陸への避難は……?」

 「既に始まっている。だが、この都市の機能を移転するとなると、困難か…あるいは不可能か」


 アニィの問に、オーサーは苦々しい顔で答えた。

これだけの都市を維持する労力は、並大抵のものでは無かったのであろう。

それを他の大陸に移転するなど、容易にできることではない。

オーサーと同じく、この状況を憂えているダディフがアニィ達に尋ねた。


 「もし長期滞在するのであれば、君たちにも避難者を助けてほしい。どうだろう?」

 「悪いけど無理。あたしたち、行かなきゃいけないところがあるから」

 「だと思った。すまない、今の話は忘れてくれたまえ」


 パルの即答に、しかしダディフは不満も言わず、穏やかな顔で答えた。

その一方、背後の兵士達は苛立ちながらつぶやいていた。


 「…子供に任せられるものかよ…」

 「…だな…」


 アニィ達の耳にもそのつぶやきは届いていた。

彼女達を見る視線と言い、どうもここの兵士の雰囲気は刺々しい。

アニィは特にその刺々しさを感じていた―――街全体が、どこか息苦しい。

常に誰かに監視されているような息苦しさだ。


 必要なものを手に入れたら即刻出るべきだろう、とアニィ達は考えていた。

騎士団に案内され、アニィ達は『厄介事引受人協会』のヴァン=グァド支部の前に降り立った。


 「ここだ。街の地図も置いているから、必要なら持ってゆくと良い」

 「ありがとうございます…」


 アニィが礼を言うと、オーサーを始めとする騎士団は要塞へと戻っていった。

ドラゴン達ともども、恐らくは次の襲撃に備えるためだろう。

それを見送ると、アニィとパルはプリスとパッフの背から降り、協会の入り口をくぐる。

プリスとパッフは外で待機することにした。



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