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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第二章:邪星討つ光-The Crystal savior-
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第二十四話


 「こンの野郎ぉぉっ!!」

 「グルォアァアア!!」


 パルが身体強化魔術を自身に掛け、パッフと共に邪星獣たちに飛び掛かった。

魔力を通した短剣が頭部を貫き、鋭利な爪と牙が怪物の体を引き裂く。

一方、アニィは地上に降りて避難する人々を護っていた。

左腕をかざし、反射機能のある盾で怪物を跳ね飛ばす。


 「―――行けっ!」


 かざした掌の上に、輝く三日月形の刃が数本生まれた。アニィはそれを投げ飛ばし、手を動かして操作する。

刃が目の前に迫った怪物の首を刎ねると、死骸は地上に落下し、すぐさま溶けて消え去った。

プリスが翼を発光させ、輝く糸で縛り上げて、邪星獣の動きを止める。

その間にアニィは光の盾を出しつつ、避難する村人たちを促した。


 (魔術がちゃんと使えれば、もっと早くやっつけられるのに…!)


 市街地の中心部だけあって、ここには住民が多数いる。

迂闊に大規模な魔術を使えば巻き込みかねないのだ。

だからこそ、パルは新調した弓矢を使えず、パッフも水の弾丸を吐き出せないでいる。

その一方、邪星獣は好き勝手に暴れていた。地面に倒れ伏した人々を蹴飛ばし、投げ飛ばし、踏みつぶしている。

そのたびにプリスとパッフが邪星獣を押さえ込み、パルが避難を促す。


 「あっち、アニィのトコに行って!!」


 逃れた人々はパルに礼を言い、すぐにアニィの後方へと走っていった。

逃げる人々の背に向け、邪星獣たちが無数の鉄の弾丸を吐きだす。

アニィは左腕をかざし、光の盾を発生させて弾丸を跳ね返した。

だが飛んできた弾丸をそのまま跳ね返し、危うく逃げようとする人々を巻き込みかける。


 (だめだ、このままの盾じゃ使えない…なんとか、何とかしなくちゃ…)


 飛んできた弾丸を跳ね返すのではなく、少なくともこの場にいる住民に害を及ぼさずに片づけるには…。

そう考えていると、光の盾が突如丸みを帯びた。当たった弾丸は回転を加えられて弾かれ、速度を失って地上に落下する。

顕現石(ルミナスクォーツ)がアニィの意志を反映し、光の盾が弾丸を「捌く」形に変形したのだ。

周辺への被害が大幅に減る。その間にプリス達が邪星獣を片づけていく。


 『VSSHHAAAA!!』


 だが、邪星獣の一頭が光の盾を跳び越え、逃げ行く人々に飛び掛かった。


 「しまった…みんな、逃げて!!」


 だがアニィの叫びもむなしく、何人かが邪悪な爪に引き裂かれ、路上に倒れ伏した。

絶望の叫び、恐怖の悲鳴がアニィの耳に突き刺さる。

牙で噛みつぶし、拳で殴りつけ、鉄の弾丸で粉砕し、強靭な両脚で踏みつぶし、邪星獣たちは人々を肉塊へと変えていった。


 「ぎゃあああああ!!」

 「いやああ! 来ないでぇ!! うぎゃああああ!!」

 「痛い、いだぁあいいだぁあい!!」


 裂かれた体から血しぶきが飛び、千切れた手足が路上に散らばった。

その光景にアニィはすくみ上り―――同時に、激烈な怒りが沸き上がった。


 「…お前らぁああっ!!」


 平和に暮らしていた人々を、一瞬で恐怖と惨劇の真っただ中に叩き込む邪星獣を、許しては置けない…

怒りのままに盾を解除して駆け出そうとした時、パルの叫びが聞こえた。


 「だめ、アニィ! 逃げてる人に当たる!!」


 我に返る。アニィの後ろには、邪星獣の爪や牙から逃れ、避難している人々がまだいるのだ。

それを狙った鉄の弾丸も止まない。仮に盾を解かないとしても、アニィが迂闊な行動に出れば彼らが危機に陥る。

せめて少しでも人々をこの場から遠ざけねば…だが、周囲では逃げ損ねた人々が殺害されている。


 《アニィ―――今助けます!!》


 プリスの翼が輝き、アニィの盾を跳び越えようとする邪星獣たちを光の糸が拘束した。

さらに、空中に跳んだ邪星獣をプリスが小さめの光弾で撃ち抜き、着地する前に消滅させた。

だが、それでもすべてを屠れるわけではなかった。何頭かはプリスの光弾を逃れ、避難民に襲い掛かる。

膨れ上がる怒りと無力感が、アニィの精神を苛み始めた。かき回されたように頭の中が混乱し始める。


 「どうしよう、どうしようどうしようどうしよう…!」


 呟きは、幸いにも周りの物には聞こえない。と、周囲から足音が聞こえた。

新手かと思われた時、崩れかけた店を跳び越えてやってきたのは、数体のドラゴンとそれに乗る屈強な男女。

厄介事引受人協会の中でも荒事に長けた者たちが、自らの相棒のドラゴンに乗ってやってきたのだ。


 「ふゥゥンッ!!」


 二本足で軽快に走るドラゴンの背に乗って、男が巨大な金棒を振り回す。不定型の凹凸は土の魔術で金棒に付着させた岩石だろう。質量を増しつつ、尖った部分で打撃の破壊力を上昇させるためのものだ。

邪星獣はまとめて数体吹き飛ばされ、他のドラゴンと乗り手たちが、地に倒れ伏した邪星獣の頭を砕く。

身体強化魔術を行使したパルにも劣らぬ剛力、そして見事な連携だった。

他の荒くれ者たちも同様に邪星獣を吹き飛ばし、頭を砕いていった。

二本足の竜に乗った男がアニィの横に立った。

山賊のような顔の男、先ほど似顔絵のモデルになってもらったバンダルだった。


 「すまん嬢ちゃん達、遅くなった! ケガは無いか!?」


 その声にどれほど安堵したことか。一瞬、光の盾を支えるアニィの腕の力が緩みかけた。


 「バンダルさん―――わたし、わたしは大丈夫! 街の人たちを逃がして!!」

 「わぁってらぁ、まずあいつらを少しでも遠ざけねえとな!

  頑丈な奴らは避難民を先導しろ、力自慢の奴らは嬢ちゃん達を助けろ!!」


 バンダルの指示により、荒くれ者たちは二手に分かれた。

本人もドラゴンも大柄な者達、あるいは頑強な鎧に身を包んだ者達は、避難民を左右から守って誘導した。魔術を使える者は水の防壁を作り、邪星獣の攻撃を防いでいる。

行先は協会の建物だ。強固な地下室もあるらしく、住民たちが逃げ込んでいく。

 残った者達、特に戦闘能力が高い者達は、先ほどのように連携して邪星獣を斃していった。

パルやドラゴンのような一撃必殺の破壊力こそ無いが、数に任せてかかることで確実に撃破していく。


 「おじさん、たすかった! ありがと!」

 「クルル!」


 避難民の大半がいなくなった所で、パルは着地して弓に矢5本をつがえ、一気に放った。

拡散した矢が邪星獣数体の頭部をまとめて貫通し、消滅させる。

パッフも空中から水の散弾をまき散らし、邪星獣の頭を吹き飛ばしていった。


 「モフミちゃんに聞いてきたぜ。こいつらが『邪星獣』だな!」


 彼と仲間達は、どうやらモフミーヌから説明を受けたようだ。

通りすがりの小娘の、真実味のまるでない話を信じ、荒くれ者たちは駆けつけてくれたのだ。

そして彼らは初めて実物の邪星獣を見たはずなのだが、恐怖も油断もせず、極めて冷静に対処している。

 バンダルに迫る一頭の頭部が、岩石を纏った金棒の一振りで逸らされ、牙が砕け散った。

直後に他の荒くれ者たちが集まり、動きを止めた瞬間を狙って頭部を攻撃。突き刺され切り刻まれ、消滅した。


 「野郎ども、残ってる奴はいるか!?」


 荒くれ者たちはいない旨を答えた。彼らが駆け付けたことで、生き残った住民は全員が避難したようだ。

残る邪星獣を心置きなく片づけられる。アニィが安堵した、その瞬間。

崩れた店舗の下に、一人の子供と小さなドラゴンがいた。

先ほど通りがかりに挨拶をした親子連れの、子供とそのペットのドラゴンだった。

アニィは駆け出し、彼らの体に積み重なる瓦礫を軽々と投げ捨てる。

パルほどではないにしろ、『ドラゴンラヴァー』の腕力で、その程度のことは軽々とできた。


 「き、きみたち、しっかりして…!」

 「いたた……あ…お姉さん」

 「ぷぎゅぅ…」


 少年とドラゴンを助け起こすアニィ。それを察し、プリスが着地して彼らを護る。


 《アニィ、その子達を連れて行きなさい。急いで》

 「うん!」


 アニィは少年を背負いドラゴンに肩を貸し、走り出した。

協会に母親がいるはず―――そう予想して、急ぐ。

だが、少年の母はすぐ近くに倒れていた。片足ゆえか転倒し、逃げ遅れてしまったらしい。

 アニィが駆け寄って母を起こし、子供達の手を取らせた。

住民が殆どいなくなったことで、プリス達が遠慮なく地上で空中で邪星獣を蹴散らし始める。

その間を縫って、アニィは親子3人をバンダルの仲間の元に届けた。


 「お母さん!」

 「ぷぎゅぎゅ!」

 「良かった…! ふたりとも大丈夫ね、怪我は無いわね!?」


 少年と仔ドラゴンが母親に抱き着く。母も2人を強く抱きしめた。

わずかに羨望を感じるアニィ。母親と子供達の仲睦まじい姿…親とは本来このように、我が子のことを想う存在なのだ。


 「はやく、協会に行ってください…ここは危ないです」

 「わかりました。ありがとうございます!」


 礼を言う母に軽く頭を下げ、アニィは戦場に戻ろうとした。その瞬間。

真上に黒い影が差した。


 「おかあさ」


 ぼっ、と重く生々しい音で、少年の声がかき消された。

びしゃ、びしゃり、とアニィの足元に赤い何かが飛び散った。

プリスが自身の名を呼ぶのに気づかず、アニィは背後を振りむいた―――


 少年の頭部が消し飛び、ドラゴンは胴体を真っ二つに両断されていた。


 赤い肉片はアニィの足元に、そして地に倒れた母親の顔に、いくつも付着していた。

両者の間に邪星獣…恐らく指揮を担当する大型個体…の姿があった。

巨大で扁平な顔が、アニィの方をゆっくりと振り向く。邪悪な3対の目がアニィを見た。

口元と片方の前脚が血にまみれている。少年を噛みつぶし、ドラゴンは爪で斬ったのだろう。

そして血にまみれた口元が歪み、笑いの形を作った。


 「あ」


 アニィの声が震える。状況を理解し、その脳裏では先ほどの無力感、そして憎悪とない交ぜになった怒りが沸き出した。


 「あ―――あ―――」


 対する邪星獣は、果たしてそれが心底からの笑みなのか、それともアニィを挑発するための動作なのか。

明らかに、嘲りの笑みを浮かべている。

乱杭歯だらけの口が開閉され、醜くたどたどしい声で、言葉が紡がれた。








     ザ マ ア ミ ロ









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