表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第二章:邪星討つ光-The Crystal savior-
20/386

第十九話


 翌朝、朝日の光が差し込む部屋。アニィはとても心地よく目が覚めた。

隣のベッドのパルは、まだ枕に関節技をかけたまま眠っていた。

窓から隣の大部屋を覗くと、ちょうどプリスが目を覚ましたところだった。ふたりの目が合う。

アニィはつい気恥ずかしさから目を逸らしてしまったが、すぐに再び目を合わせる。


 「おはよう、プリス」

 《おはようございます。よく眠れました?》

 「うん。おかげさまで」


 自身が言う通り、アニィの頭の中は思った以上にすっきりしていた。

昨夜の空の散歩のおかげだろう。醜く薄汚い村への憎悪と怒りは、大地から高く離れ、月を眺めることで、いつしか消えていた。

ぐっすりと眠ったおかげで、体の疲労もほぼ全て失せていた。こちらはマッスルサーモンの疲労回復効果だ。

と、隣のベッドで気配が動いた。パルが起き上がり、ぼさぼさ髪で大きく伸びをしていた。

同時に、大部屋ではパッフが目を覚ました。眠たげに目をこすり、ゆっくりと頭を起こす。


 「おー、おはよーみんな。よく寝たねぇー」

 「クルル~」


 パルとパッフが揃って朝の挨拶を交わす。アニィとプリスは、その息の合い方にクスリと笑った。


 「それでパル、今日は具体的にどうするの?」

 「うん。まず、金属加工業者のお店かな。それから武器を売ってるお店。

  新しい弓とか、アニィの武器とか買おうよ」

 《服も買っておいた方いいんじゃないですか? 出てきた時の一着しか持ってないでしょ》


 そういえば、とアニィとパルは今の服装を改めて確かめた。

宿の備え付けの寝巻だが、普段着る服は全て洗濯に出してしまった。

このままではいざという時に心許ない。ただ、ここにいられるのは1ディブリス(1日)のみだ。

サイズを測る時間が惜しいし、荷物として持っていくには嵩張る。


 「うーん…そっちは後でいいかなあ。着てきた服は洗ってもらったし」

 《じゃあヴァン=グァドに着いてからですね》


 全員でそう決めたところで、部屋のドアをノックする音が聞こえた。パルが返事をすると、続けて店主の声。


 「お嬢さんたち、二人とも起きてるかい? 洗濯物と朝ご飯、ここに置いておくよ。

  洗濯料は後で払ってくれればいい。朝ご飯はサービスだ、遠慮なく食べておくれ」


 それだけ言うと足音が遠ざかっていった。

パルが扉を開けると、布袋に入った服一式、そして朝食のバルカンボアスープと焼きたてのパンがワゴンに置かれていた。

二人の腹の虫が盛大になる。ワゴンごと朝食と服一式を運び込むと、二人は朝食を食べ始めた。

柔らかな肉をとろけるほどに煮込み、それでいてバルカンボア独特の体温の高さが体を温めてくれる、朝食向きのメニューだ。

野菜もみずみずしく、柔らかなパンを浸すとスープが程よく沁み込み、味わいに深みが増す。

小食であるアニィの分は、昨夜の件から少な目になっていた。


 《ところで、私ら(ドラゴン)もお店についていっていいんですかね?》


 そこで疑問を呈したのがプリスだ。何しろドラゴンの巨体故、人間の店舗には入れない。

昨日の厄介事引受人協会でも外から眺めるだけであった。

それだけではない、プリスはこのように会話ができるのである。

ドラゴンが人語を話すことなど、ドラゴニア=エイジにおいても史上初の出来事であろう。

日常的に会話しているだけのことを驚かれるのは面倒臭い、そう気にしているのだろう。

が、アニィは特に気にしていないようだった。


 「うん。むしろ、プリスにはついてきて欲しい」

 《いいんですか》

 「だってわたし、プリスの『ドラゴンラヴァー』なんだもの、一緒にいたいから。

  パルも、パッフが一緒の方がいいよね?」

 「もちろん!」

 「クルっ!」


 パルとパッフは最初から連れ立っていくつもりでいたらしい。

プリスは苦笑し、アニィの願いを了承した。


 《わかりましたよ。ついてってあげましょ》

 「ありがとう、プリス…」


 話が決まった所でアニィとパルは朝食を食べ終え、歯磨きに洗顔を済ませ、服を着替える。

センティと子供達が縫ってくれたマントも洗濯されて、すっかり清潔になっていた。

 朝食の食器とワゴンを受付の店主に返し、パルが洗濯代を支払って部屋の鍵を預けた。


 「昼過ぎくらいに一回戻ってきます。出るのはその後で」

 「はいよっ。楽しんでおいで、二人とも」

 「いってきます…!」


 アニィが店主にぺこりと頭を下げ、二人は宿から出て、大部屋のドアの前に立つプリスとパッフと合流した。

最初に向かったのは、最初に決めた通りに金属加工業者の工場だ。

パルは村から持ち出した輝ける鋼(グローリーメタル)の袋を持っている。これを鏃に加工してもらうのである。

ここでは持ち込まれた金属を加工し、客の注文通りの武器を作っていると、街のマップには書いてある。

いわゆる鍛冶屋である。看板には『スミス工房』と書かれていた。


 「おじゃましまーす」

 「お邪魔します…」


 二人は恐る恐る薄暗い工房に乗り込んだ。分厚い鉄の床を踏みしめると、僅かに温かい。

プリスとパッフは入り口からのぞき込み、工房内を見回した。

金槌が硬い金属を叩く音。炎が燃える炉や熱された鋼鉄の温度。薄暗い工場はしかし、静かに熱気に満ちている。

熱源は工場の奥の大きな炉だ。防火用の革マスクで顔を覆った男女が、その前でかがみこんでいた。

熱して赤く光る金属の棒を金床に乗せ、大きな金槌で交互に叩いて均等に伸ばしている。金床、そして二人の金槌は高熱を発して赤くなっていた。炎の魔術を応用し、金属棒に絶えず高熱を与えながら叩いているようだ。刀剣類を作っていると一目で見て分かった。


 「あら、お客さん?」


 女の方がアニィ達に気付いて顔を上げ、男の肩を軽く叩いた。男はマスクごしでもわかる藪睨みで二人を見る。

わずかにおののくアニィとパル。それを見て、女の方が笑いながらマスクを外した。


 「ごめんごめん、こんなんじゃただの怪しい人よね。ほらアニキも、マスク外しな」

 「ん」


 女に促され、男もマスクを外した。二人は兄妹らしい。柔らかい表情の妹に対し、兄は仏頂面だった。


 「いらっしゃい。今日はどんなご用件?」

 「ああ、はい。これで(やじり)を作って欲しいんです」


 パルは抱えていた袋を二人に手渡した。兄が片手で受け取ると、予想外の重さにわずかに目を見開いた。

見た目は普通の少女パルが片手で持っていたことで、そう重くないと思ったのだろう。

兄妹は袋の中を覗き込み、目を丸くした。ここまで大量の金属片を受け取ったのは初めてのようだ。


 「これは輝ける鋼(グローリーメタル)だね。この量なら10万本分くらいはできる。

  普通の獣や怪物を射る普通の矢なら、だけど」


 兄妹は袋を作業台に置いた。重量に台が軋みを上げる。

妹の方がいぶかしむような顔でアニィとパルを、ついでいつの間にか窓の外から見ていたプリスとパッフを見た。


 「作るのは構わないけど、まずどんな矢を使うのか聞かせてよ。

  こんな大量の輝ける鋼(グローリーメタル)、商売を始めるのでもない限り持ち込まないよ、普通」


 パルとアニィ、プリスとパッフは顔を見合わせた。迂闊に邪星皇と邪星獣の事を話していい物かと、4人は決めかねている。

しばし考える4人。そこで決めたのはアニィであった。


 「ちゃんと話そう。誤魔化して通じない矢を作ってもらうより、そっちの方がいい。プリス、いいよね?」


 アニィに視線を送られ、プリス、パルとパッフがうなずく。


 「そうだね」

 「クル!」


 兄妹は4人の会話を怪訝そうに見ている。パルは意を決し、アニィと視線を交わすと、説明を始めた。


 「ドラゴンみたいなカッコしたバケモノ、お姉さん達は知ってる?」

 「あ…うん。協会で定期依頼が上がってる奴だね。聞いたことがある。それがどうかした?」

 「わたしたち、その親玉を斃すために旅をしてるんです」

 「親玉! あれよりもっとでっかい奴!?」


 アニィは妹の言葉に首を振った。


 「正体は分からないんです。けどたどり着くまで、あの怪物と何回も会う筈ですから」

 「…本気? おっそろしいバケモノらしいけど、そいつらと闘うってこと…?」

 「うん! あいつら、絶対普通の矢は通じないからね。一発で何頭かぶち抜けるような奴が欲しい」


 パルの必要とする物に、妹の方はすっかり目を丸くして驚いていた。

一方の兄は既に作り方を考えているようで、袋から金属片をいくつか取り出しては覗き込んでいる。

発想力と切り替えの早さは兄の方が優れているらしい。

すると兄は工場の奥へと突然向かった。戻って来た彼の手には、かなり太く長い矢が一本握られている。

彼はそれをアニィとパルに突き出した。


 「ん」

 「これは?」

 「向かいの武具専門店に持ってって、これを見せると良いよ。これが引ける弓があると思うから…だって。

  …アニキ、ホントにこの子の鏃を作るの…?」


 アニィとパル、プリスとパッフは妹と兄を交互に見比べる。

なるほど、兄は無口なだけで善意の人であるらしい。そして妹は、通訳ができるほどの兄の良き理解者のようだ。

そして兄は、パルの宣言が本気だと、そして怪物…邪星獣退治ができる人物だと信じたようだった。

パルはありがたく受け取った。


 「ありがとうございます!」

 「アニキが決めたならしゃあないか…じゃあ鏃の方はまかせておきな。

  あたしは妹のシィル・スミス、こっちはアニキのランス・スミス。よろしく」


 妹のシィルがパル、兄のランスがアニィと握手した。


 「あたしはパル・ネイヴァ。外のピンクのドラゴンがあたしの相棒、パッフだよ」

 「アニィ・リムです。白い方のドラゴンが、私の……相棒の、プリスです」


 アニィのややためらった言い方を、しかしスミス兄妹は特に気にしなかったようだ。

シィルが窓の外の2頭に向けて手を振ると、パッフが嬉しそうに手を振り返した。

一方で兄のランスは、アニィの手を取り上下左右から見ている。


 「どしたのアニキ、何か気になるの?」

 「ん……」


 ランスが悪ふざけやナンパなどの目的でないのは、その目の真剣さから明らかだった。

不安になってアニィはランスに尋ねる。


 「あの……わたしの手、何か…?」

 「ん………」


 ランスはアニィの手を放し、作業台の上で何かメモを書くと、アニィに手渡した。

掌らしき形と共にそこに書かれていたのは何かの材料のようだ。その上に書かれた店名は…


 「……アムニット服飾店?」

 「手袋の材料だね。アニィちゃん、あんたの魔術を上手く使うのに必要な道具じゃないかな」

 「わたしの、ですか?」


 ランスが重々しくうなずいた。もう一度アニィがレシピをよく見ると、その中に顕現石(ルミナスクォーツ)の名もある。


 「これを見せて、作ってくれるように頼めってさ。多分魔術行使の補助器具だ。

  アニキ、この子の魔術がどんなのか判ったの?」

 「ん…」


 ランスは再びうなずく。ただ確信は持てないらしく、眉をひそめて小さな声で唸っている。

一方のアニィは、自らの魔術がまだ安定しきっていないことを知っている。

ランスの武具を作る者としての直感が、恐らくはそれを知らせたのだろう。

 アニィはプリスの顔を見た。プリスもランスの直感を信用したらしく、首肯を返す。

その返答を確かめ、アニィはスミス兄妹に向き直る。


 「わかりました、後で行ってみます。ありがとうございます!」

 「ん」


 ランスが今度こそ納得したようにうなずいた。

そしてパルが料金を一括で前払いし、協会で会員証を受け取ってからまた来る旨を告げ、二人はスミス兄妹の工房を出た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ