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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第二章:邪星討つ光-The Crystal savior-
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第十五話


 「魔力で押印…そういうこと、できるんですか?」

 「はい。魔力を少しだけ集中した指先で、プレートの中心部に触れていただければ。

  魔力を扱えないのでしたら、他の手段もございますが…ただ本人確認のために、一番都合が良いのが魔力押印なんです」


 モフミーヌはあくまでも懇切丁寧に説明する。入会希望者の全てが魔力を扱えるわけではないと、彼女は理解しているのだろう。

仕事と言うこともあろうが、嘲笑しない彼女の心遣いが有難い。

とはいえ二人とも魔力の操作はできるため、押印を選ぶことにした。


 「あっいえ、二人とも大丈夫です。ね、アニィ?」

 「う、うん…多分」


 僅かにためらうアニィ。魔術を行使したのは、先刻の邪星獣との戦闘が初めてであった。

最初から最後まで全力を振り絞ったため、コントロールはまだ身に着けていない。

少しだけというモフミーヌの言葉を繰り返しつぶやき、控えめに控えめに人差し指に魔力を集中する。

逆にパルはといえば、幼いころから『ドラゴンラヴァー』だったこともあり、魔力の操作も余裕であった。既に押印を終えている。


 アニィはパルとモフミーヌ、そして外のプリスとパッフに見守られながら、そっとプレートに触れた。

プレートには白い斑点が数ブリス(数秒)間残り、表面全体に広がって消失したかと思うと、触れた個所に多角形や円を重ねた紋章ができた。

モフミーヌの説明に曰く、押印でできる紋章は一人ひとりで全く異なるらしい。


 「う、うまくいった…っ!」


 初めての魔力コントロールを成功させ、アニィはどっとのしかかる疲労からテーブルに突っ伏した。

やったぜ! と拳を握るパルとパッフ、何故か偉そうにうなずくプリス。

事情を分からないながら、モフミーヌも拍手してくれている。善人である。


 「お疲れ様でした。ではこちら、お預かりいたしますね。

  明日には正式な会員証にしてお渡ししますので、お昼頃にいらしてください」

 「わかりました! アニィ、じゃあ宿取ってこよう」

 「う、うん…」


 疲労困憊のアニィにパルが肩を貸し、二人が立ち上がろうとすると、モフミーヌがそれを止めた。


 「もしよろしければ、口座を開設されませんか?」

 「口座? お金を預ける?」


 二人は座り直し、口座についての説明を受けた。会員は自由に金銭を引き出せる口座、および所持品を預ける金庫を開設できるという。

口座に手持ちの金銭を預けたり報酬を振り込んだりすれば、多額の金銭を持ち歩かずとも済むようになる。

引き出しや振り込み、報酬受け取りなどを行う場合、1回毎に専用の押印台への魔力押印と会員証の両方の提示による本人確認が必要で、それ故他人によるなりすましはまず不可能ということだ。

なお共同名義の口座は作れず、一人につき口座は必ず一つとなる。


 「ただ、お二人は協会の保護対象となっているため、仮に死亡した場合は全額協会のものとなります」

 「わ…わたしは、それでいいです…家族になんて、ドラケル1枚(1円相当)もあげたくないですし」


 アニィの自棄な言い草にモフミーヌは何か想う所があったのか、僅かに眉をしかめた。

苦笑するパルと目が合うと、モフミーヌは事情をおおよそ理解したらしく、承諾して書類に口座開設用の書類も差し出した。


 「かしこまりました。では開設にあたって、お預けする金額をご記入ください」

 「……そうだな。どのくらいにしたものか…」


 パルはバッグから大きな袋を取り出し、テーブルの上に置いた。すさまじい重量にテーブルがきしむ。

ふくろを開けると、中にはすさまじい数の貨幣が入っていた。


 「とりあえず宿代と武器の代金、食費、もろもろだけ手元に残して…」

 「……パル、よくこんなに貯めたね?」


 袋の中を覗き込んだアニィとモフミーヌが、驚愕に目を見開いた。

大まかに数えただけで、ドライズ硬貨が100枚弱、ドラホーン硬貨が2000枚ほど、ドラスク硬貨が5000枚、ドラケル硬貨は…数え切れないほど。

(各貨幣1枚につき、ドライズ=1万円、ドラホーン=1000円、ドラスク=100円、ドラケル=1円に相当。

ドラケル硬貨を除けば、ここでパルが所持している金額は350万円相当となる)

特にドライズ貨幣など、村にいた頃のアニィは見たことが無かった。


 「行商さんに色々売って、チャムと一緒に少しずつ貯めてたんだ。村を出る時のために」

 「そうなんだ…ごめん、わたし、お金とか全然持ってなくて…」


 うなだれ、思わず謝罪するアニィ。その肩をパルが軽く叩いた。


 「持ってたらあのクソ家族に盗まれてたじゃん。だから、今の時点ではあたしが立て替える。

  口座作って、報酬から少しずつ返してくれればいいよ」

 「本当に? わたし、知らないふりして返さないかもしれないよ」

 「アニィがそんな子じゃないのは知ってる。じゃ、とりあえずこんだけ預けます」


 ドラケル硬貨全て、3500ドラスク、1300ドラホーン、50ドライズ。

無数にあるドラケル硬貨を除くと215万円に相当する。残る手持ちは135万円相当。

パルはこのうち、50万円相当の金額をアニィの口座に一時入金することとした。

各貨幣の枚数を書いた書類と共に受け取り、モフミーヌは手際よく手元のトランクにしまい込んだ。

流石に少々重いらしく、持ち上げる時にはどっこいしょと声を上げる。

パルが片手で軽く持ち上げられたのは、ドラゴンラヴァー故の腕力の賜物だ。

二人は口座開設届に自分の名前、そして死亡時に協会に全額譲渡する誓約への同意を書き、もう一度魔力で押印した。

モフミーヌはそれを受け取り、うなずくとトランクの側面ポケットに入れた。


 「では、これにて入会と口座開設の手続きは以上となります。

  定期依頼については、会員証をお渡しする時に合わせてご説明しますね」

 「ありがとうございます。じゃ、これからよろしくお願いします!」

 「お願いします…」


 アニィとパルはそれぞれモフミーヌと握手し、待合室を通り過ぎて外に出ようとした。

利用客の剣呑な視線に怯え、アニィはパルの背中にしがみつく。

その足元に突然何かがまとわりついた。柔らかく温かい、モフモフした感触だった。

足元を見下ろすと、ぬいぐるみを思わせる生き物がアニィの脚に縋りついていた。


 「わふっ」


 ぬいぐるみが一声鳴いて顔を挙げた。よく見るとぬいぐるみではなく、眠たげな眼をした動物…

アニィの記憶が確かなら、学校の図鑑で見たモフルドッグという小型の獣だった。


 「…え、えっと……」

 「あらあら、ウチのチャウネンがすみません。チャウネン、ほらこっち」

 「わふっ」


 チャウネンと呼ばれた獣は、モフミーヌが呼ぶとすぐに駆け寄った。

モフミーヌは抱きかかえたチャウネンを受付テーブルに座らせる。

アニィとパルと目が合うと、チャウネンはおとなしく座り込んだ。


 「わふっ」

 「この子が懐くかどうかで、入会希望者の適性をある程度判断できるんです」

 「そう…なんです、か…」

 「かわいいなあ。フータに似てる」


 遠慮なく撫でまわすパルに対し、アニィは恐る恐る手を出す。その手をチャウネンの両前脚がモフッととらえた。


 「お二人、特にアニィ様はとても懐かれてますね。お優しい方とお見受けします」

 「いえ、そんな…」


 小動物に懐かれる者は善人である…俗説だが、モフミーヌはそれを信じているらしい。

だが、アニィは自分が善良な人間だとは思っていない。

村に住む者達を地獄すら生ぬるい程に痛めつけ、邪星皇を斃す旅に出たのも自分の自由のためだ。

そのくせ、自分がここにいて良いのかをまだ疑っている。

家族になじられ続けたがために心身にしみついた、自己否定である。


 チャウネンから手を離そうとすると、アニィの背後に利用客と思しき男が歩み寄った。

スキンヘッドに無精ひげの、いかつい男だ。一見すると山賊にすら見える渋面。

両肩や両腕、腰のあたりを覆う革のトゲ付き鎧に会員証が縫い付けてあった。この男も会員らしい。


 「お、嬢ちゃん達。初っ端からそいつに懐かれたか」


 しかし強面(こわもて)の見た目に対し、男は柔和な笑みを浮かべた。男は優しい手でチャウネンを撫でる。


 「バンダルさん、お疲れ様です」

 「よおモフミちゃん、お疲れ。―――モフミちゃんの言う通り、こいつは良い奴に懐くんだよ。

  ほら、山賊みたいな顔の俺が撫でても嫌がらないだろ?」


 冗談めかして言う男…バンダルの笑みは、それこそ善人の笑顔であり、モフミーヌとは愛称で呼ぶ友人関係と判った。

思わずアニィ達も顔がほころぶ。バンダルもそれを見て安心したようだ。


 「良い奴自慢しろってわけじゃないが、ヒクツになるこた無いんだぜ」

 「はい…ありがとう、ございます」

 「わふっ」


 ふと周囲を見回すと、一見荒くれものだらけではあるが、利用客は和気あいあいと話していた。

こうやって集まる時間が、彼らにとっては幸福なひと時なのだろう。


 「そのカッコからするに、旅してるんだろ。ヒクツな気分で旅しちゃあもったいないぜ。

  自由を目いっぱい楽しみなよ。今のあんたたちは自由なんだからよ」


 そう言われ、アニィはハッと気づいた。そうだ、家族のことなど自分から捨ててきたのだ。

今の自分は過去のしがらみを捨て、自由の身なのだ…あらためて思い直す。


 「あ、ありがとう…ございます!」

 「おう。良い旅をな」


 バンダルとモフミーヌにあいさつし、アニィとパルは協会を出た。二人をそれぞれの相方のドラゴンが出迎える。

アニィはプリスの、パルはパッフの背に乗り、地図を見ながら宿泊施設へと向かった。


 《どうやらいい出会いがあったようで。良かったですね》

 「うん…」

 《それじゃあ入会も決まったことですし、さっさと宿に行きましょう。そろそろ日がくれますよ》


 パッフの背に乗ったパルが、地図を見ながら誘導し、二人と二頭は宿に到着した。

『ヤード・パック宿泊所』と書かれている。ヤード・パックとは店主の名前のことだろう。

一軒家より少し大きい程度のサイズで、人間が宿泊する部屋は二階に二部屋あり、宿の外側にドラゴン用の大部屋二部屋がある。

二階の宿泊部屋と大部屋はそれぞれが窓でつながっており、相棒のドラゴンとすぐに顔を合わせられるようになっている。


 アニィ達は受付で会計を済ませ、まずはプリスとパッフが外の大部屋に入った。

大部屋の床には草や獣の毛革が厚めに敷かれ、分厚い壁に囲まれているが換気も充分にできており、空気の澱みや湿気も殆ど無い。

ドラゴン二頭が横になって寝る分には丁度いい部屋であった。



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