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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第六章:君に幸あれ-Happiness daybreak-
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第百十話


 そこでカーターがアニィ達を再び役場に連れていった。

受付の女性から受け取った資料をアニィ達に手渡し、説明を始める。


 「これはアイゴールの気象情報だ。通常のアイゴールでは、およそ7ディブリスに1度だけ嵐が吹く」


 気象情報にはアイゴールでの天気、風速、気温、雪の深さ、視界半径などが詳細に書かれている。

エクスマの気象観測所から取り寄せたもので、日付はやや古いが精度は高いとカーターが説明した。

記録によれば、3ディブリス程前まで、カーターが言う通りの頻度で嵐が起こっていた。

アニィ達以外にもアイゴールを渡る前にここに立ち寄る者が多く、彼らのために定期的に取り寄せているという。


 だがそれ以降ほぼ止むことなく嵐が起こり、収まっても北への強風が吹いているという。

この気象の異常が起こり始めた時期は、マウハイランドの木々が傾きだした頃と近い。

無風の日は無く、雪原を渡っていく旅行者や業者は、スケジュールの延期を余儀なくされているという。

天候の推移を見ながら、フリーダは推しはかる。


 「上空から天体が近付いてて、小さいけど重力異常が起こってるんですけど…

  時期を考えると、これも多分そのせいかな…」

 「なるほどなァ…となると、今もこの嵐は続いてるだろうな。

  収まるのが3ディブリスに1度か2度くらいとあるが、古い記録だからアテにはせん方が良いぜ」


 カーターが指し示した通り、嵐はある程度特定の日付にだけ収まっていた。

しかし彼が言う通り、記録は古い。日付は数マブリスも前だ。あくまで参考程度にとどめるべきだろう。


 「視界一杯が雪、しかも風がずっと吹いている。吹雪で視界も悪い筈だ」

 《それはいいんですが、我々なら嵐を越えて上空を飛べばいいんじゃないですか?》

 「いや、駄目だ。ごく稀にだが、何度か天まで届くほどの竜巻が起こっている」


 これもカーターが言う通り、竜巻の不規則な発生が記録されていた。

これに関してはいつどのタイミングで起こるかも全く分かっておらず、しかも雪原全域を巻き込むほどだという。

迂闊に飛べばドラゴンでも吹き飛ばされる風速だ。背に乗ったアニィ達など、どうなるかもわからない。

実際、観測所の記録でも竜巻の日は行方不明者が多く記録されている。

視界不良による遭難や強風で吹き飛ばされ、雪原で遺体が見つかることも多々あるとの記録もある。


 「それにアイゴールの上空はとんでもなく寒いんだ。ドラゴンでも動けるか判らん」

 《つまり、雪原を歩いて渡るのが最も安全と》

 「そういうことだ。一番マシな手段ってぇとこだな」


 ほぼ常時悪天候。視界も悪い筈だが、止むをえまい、というのがアニィ達の総意であった。


 「渡る手段は現地で考えよう。町長さんの言う通り、雪原を渡るのは危険だろうし…

  様子を見て、現地で必要な物を揃えてから行こう」


 アニィが言うと、全員がうなずいた。カーターが真剣な顔で、最後に一言だけ忠告する。


 「気を付けるんだぞ、嬢ちゃん達。ちゃんと温かくして、寒くないようにな」

 「はい…ありがとうございます」


 アニィの感謝の言葉に、カーターは重くうなずいた。

彼女たちの決意が、いかに重く硬いか…こう見えて聡明で思慮深い彼にはよく判っていた。

止めたところで聞かないだろうとすぐに判り、彼女達の支度に協力することにしたのだ。

そこへフックがやってきた。彼の手には幅広く長めのベルトが4本。

中心部にターミナルクォーツのペンダントヘッドが輝いている。


 「できたぞ。1本3ドライズ、合わせて12ドライズ(12万円)だ」

 「フック、待ってたぜ! 頑丈なベルトだな。これなら大丈夫だろ!」


 カーターが試しにベルトを左右に引っ張るが、全くと言っていい程伸びない。

スノーホエールの頑丈で柔軟な皮革を何枚か縫い合わせ、更に中に鎖、留め具も頑丈な金属でできたベルトだ。

アニィ達は相棒のドラゴン達の上腕にベルトを巻き付け、留め具でガッチリと固定した。


 「プリス、どう…?」

 《どれ……うむ、落ちる気配はありませんね》


 これはスノーホエールの皮革の裏側の柔軟性によるものだ。

柔らかく変形しやすい裏地によって、鱗に包まれたドラゴンの皮膚に貼り付いているのである。

また留め具は3か所あり、いずれもたやすく外れないようになっている。

パルが全員分ドライズ貨幣を受け取って合計12枚を出し、フックに手渡した。


 「この俺が作ったのだ。そんな簡単に外れるわけがあるまい」

 「ウチの親父がこう言うんだから、心配無用っスよ」


 ついてきた息子のウェアも保証する。ぎこちなく、アニィは礼を言った。


 「あっ…ありがとう、ございます…!」

 「………… ただの商売だ。礼などいらん。帰るぞ、ウェア」


 が、彼はそれを聞かず、さっさと店に帰ってしまった。

ウェアがその背を追い、役場を出ようとする。が、立ち止まって振り向いた。


 「親父、照れてるだけっス。じゃ皆さん、良い旅を」


 そう言って、今度こそ彼は役場を出た。

道中の食事、アイゴールを渡るための防寒着、ターミナルクォーツを固定するドラゴン用ベルト。

準備は整った。残りの必要な物は、必要なだけエクスマで揃えれば良いだけである。


 アニィはふと自分達の姿を顧みた。

シーベイでスミス兄妹から譲り受けた軽装鎧(プロテクター)は、まだ形を保っている。

しかし邪星獣との闘いでところどころがへこんでいた。

ヒビこそ入っていないが、いずれは破損するかもしれない。

そしてフリーダに至っては、鎧の類を一切身に着けていなかった。

今後の事を考えれば、全員分を新たにそろえる方が良いだろう。


 「買い揃える方がいいかもね、壊れる前に」

 「うん…」


 アニィの視線に気づき、パルが言った。

エクスマに武具の店があれば買おう、とだけ決めておいた。


 《じゃ、そろそろ行きます?》

 「うん…町長さん、お世話になりました。それで、あの…」

 「何だい?」

 「わたし達、住んでた村に定期的にお手紙を送ってるんです、似顔絵付きで…。

  それでこちらの町のことも書きたいんですけど、いいでしょうか…?」


 おずおずと尋ねたアニィに、カーターは鷹揚に答えた。


 「そりゃもちろん! この町の事、村の人らにも教えてやってくれよ」

 「あ……っ…  はい」


 その村人達を殆ど痛めつけてきたことを、アニィは言わないでおいた。

カーターに許可を得て彼とその家族、ヌーノ親子の似顔絵をアニィが描くと、カーターは掛け値なしに賞賛した。


 「オイラ以外に見せらんねえのが残念だぜ! ま、仕事があるからな。仕方無ぇか!」


 本人の顔を見ず、アニィは精緻な似顔絵を描いたのである。

書き終わった絵をバッグにしまうと、パルが全員に昼食を手渡す。アニィの分は小さなバスケットに入っていた。

全員で街の北門から出て、アニィ達は相方の背に乗った。


 「旅が終わったらまた来ます…じゃあ、また!」

 「またな! また来てくれたら、色々融通させてもらうぜ!」


 見送るカーターに手を振り、アニィ達は飛び立った。

カティアンとショーラがちょうどそこにやってきて、母娘そろってカーターにつかみかかった。

声は聞こえなかったが、恐らくは見送りを知らせなかったことに腹を立てているのだろう。

どちらも本気で怒っているわけではないようで、親子でじゃれているだけに見えなくも無かった。

かつて家族になじられ続けたアニィの胸には、温かな気持ちと同時に、どうしようもない羨望が湧いた。


 「…素敵だね、ああいう家族って」

 《私はドラゴンだから家族のことは判りませんが、楽しそうではありますね》

 「うん…」


 捨ててきた家族と、今更仲直りしたいわけではない。

ただ、家族と幸福な時間を過ごせるヤヴン一家がうらやましいと、そう思った。

背後のマインホルズは少しずつ小さくなり、やがて見えなくなった。

その事実が、否応なくエクスマ町とアイゴール―――嵐吹き荒れる雪原に近付いていることを実感させる。


 町を出た時点で、太陽はほぼアニィ達の真上まで上がっていた。

程よく全員の腹の虫が鳴き、空腹を実感した。

各自ごとのタイミングで食事に入ると、有事に行動が制限されることから、食事はなるべく同時に採ることを決めている。


 「そろそろ昼食にしないか?」


 ヒナが言うと、フリーダが真っ先に賛成した。


 「いいですね、お腹がすきましたし!」

 「じゃあ食べよう。落っことさないように気を付けてね」


 パルの言葉で全員がバスケットを開け、昼食が始まった。歓声が上がる。

アニィの分以外はサンドの一つ一つが大きいが、全員が特に気にせずに食べ始めた。

おいしい、うまいと次々に声が上がった。アニィも小さなサンドを一口ずつ食べ、予想以上の美味に驚いた。

肉体労働者向けのメニューということで、少し味付けは濃い。

ある意味では、邪星獣と闘うアニィ達向けの味付けと言えた。


 《美味しいですか?》

 「うん…美味しい。思ってたよりずっと美味しい!」


 アニィは、旅に出た頃よりもずっと素直に、自身の幸福を口にできるようになった。

そしてプリスは、自身の事のようにそれを嬉しく思っている。


 《良かった。…あなたが喜んでいるとね、アニィ。私も嬉しいんですよ》

 「プリス…も? どうして?」

 《さあ。―――いや》


 その理由をアニィに問われ、自身では以前は理解できなかったであろう理由を、プリスは既に理解していた。


 《愛してるから、でしょうね》

 「あ…い」


 そう答えると、アニィは黙り込み、顔を真っ赤にした。



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