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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第六章:君に幸あれ-Happiness daybreak-
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第百九話


 昼食の時間帯ゆえか、店の前にテーブルと椅子のセットを複数出し、調理も店外で行っていた。

労働者であろう、屈強な男女が集まり、店の前で食事をとっていた。

焼いた肉を挟んだパン。黒か濃いブラウンの、少し苦そうな茶…アグリミノル町でモフミネリィが飲んでいた物だ。

そんな軽い食事をとりつつ、労働者たちは楽しそうに会話していた。


 「持ち帰りセット…そういうのもあるのか。これにしよう。良い?」

 「うん…」


 パルの提案に、アニィは僅かにためらった。

というのは、軽食でこそある物の、労働者たちが食しているサンドは、挟んだ肉も含めてやたら大きいのだ。

小食のアニィには、一人で1つ食べきる自信は無い。

ただ、労働者の食事の光景を見ていると、無性に美味しそうに見えた。

 どのメニューも、他の町では珍しいものでは無い。

ボルトグリズリーやサイクロホークの肉。丸めて揚げたミックスバーグ。

新鮮な野菜、バターや辛味ペーストなどの調味料。それが無性に美味しそうに見えたのである。

―――食べてみたい。初めて明確に、純粋に食欲がわいた。


 「うん…! あっ、でもあんまり大きいのは…」

 「じゃ、小さく切ってもらえるか訊いてみよう。ダメなら他の店を周ろう」


 パッフの背から降りてパルが尋ねると、店員はやや渋い顔をした。

持ち帰りセットは野菜サンド、グリズリーサンド、ミックスバーグサンド、マッスルサーモンサンドの詰め合わせ。

飲料は何種類かの茶の中から選ぶようになっていた。

1人前で1ドラホーン貨幣1枚(千円)。大きさと味を保ちつつ、ぎりぎりまで下げた値段であった。

だが、当然のように一つ一つが大きい。アニィの胃袋では、どれか1つの半分も食べられないサイズだ。

しかし小さく切ってしまっては、1セットの半分の値段にもならないという。

切って余った食材も、売れなければ廃棄するしかなくなってしまう。


 「どうにかならない? 小食でも食べられるようにさ」

 「ンなこと言われてもねぇ…こっちとしても、食べては欲しいんだけどねえ」


 店員の中年女性がアニィを見る。彼女もまた、小食を理由に諦めて欲しくはないらしい。

しかし商売が成り立たないとなると、アニィとしても申し訳なく、諦めようかと考えた。

客の労働者たちも、何とかしてやれないかと店員に尋ねた。

町長の影響か、やけに気のいい住民たちであった。

店員の女性は一つ思いついたようで、軽く手を叩いてパルに切り出した。


 「じゃあこうしよう。持ち帰りを3セット、少し値上げで買っておくれ。

  で、ちょっとずつ小さめに切って、そっちの子のぶんにする。値上げ分はその手間賃ね」

 「それ良い! アニィ、どう?」

 「えっと…そ、それなら!」


 つまり、持ち帰りセットのメニューを少しずつ食べられるわけである。

3人分のセットの中から少しずつ切り分けるため、1つが小さくなり、アニィにも食べやすそうだ。

これで4人分の昼食となり、合わせて3ドラホーンと手間賃3ドラスク(3千3百円)となる。

店員女性の発案に、先客もいい考えだと賛同した。

パルが財布代わりの革袋から料金を取り出すと、会計を済ませた店員女性が肉類を焼き始める。


 《良かったですね、アニィ》

 「うん…」


 店の前の椅子に座るアニィとパル、その後ろに座り込むプリスとパッフ。

店員の女性は手際よく肉やパンを焼き、野菜を洗って、次々に切り分けていく。

3人前が出来上がったところで、その端を小さく切り分け、アニィ用のセットにする。

一口サイズのサンドが合わせて12切れ。後は飲料を買えば良い。

薄い木の皮で作ったバスケットに詰められたセットを、パルが受け取った。


 「入れ物はどこかで捨ててくれればいいよ。ただし、その辺に投げ捨てないようにね」


 シーベイと同様、この手のゴミ類はそれぞれの町で業者が回収することになっている。

迂闊に放っておけば、町の美観を損ねるだけではなく、腐敗によりどんな細菌が発生するか判らないからだ。

特に人口の多い場所、人の出入りが盛んな場所では徹底している。疫病を蔓延させないためである。


 「わかった。ありがと、おばさん!」

 「あ、ありがとうございます…!」

 「いえいえ、こちらこそ。美味しいごはんを食べるのは、旅の楽しみの一つだしね。

  他のお友達とも良い旅を」


 にこにこ笑って見送る店員に、アニィは何度も頭を下げた。

食べたいと思ったものを、腹に入る量だけ食べられる。少し金額は上がったが、店が適切に対応してくれた。

それだけのことが、アニィには無性にうれしかった。

途中でアニィの分の飲料と保温性の高い弁当箱を買い、ヒナ達がいる工房に向かった。


 工房の入り口扉は開いており、中からフリーダの声が聞こえた。何やら楽しそうだ。

付近のヌーノの店を見ると、作業中なのか、閉店の札がかかっている。

一方、ヒナの声は、時折これはいい、もう少しこうしては、と聞こえる程度だった。

窓からはクロガネとクラウが顔を突っ込み、作業場を覗いている。


 「お邪魔します…」

 「ヒナ、フリーダ、何してんのー?」


 ひょいと覗き込んだアニィとパルが見たのは、作業台でやたら楽しそうに指輪を加工するフリーダだった。

加熱した金属棒で、セントラルクォーツの指輪の裏側に、何やら彫り込んでいるらしい。

ヒナはその横で作業が終わるのを待っている。職人がその刀を研いでおり、そちらも待っているようだ。

フリーダの作業でその顔面に火花が飛び散るも、温度を察知してひょいひょい避けるのは流石だ。

ヒナと反対側に立って作業を見ているのはカーターだ。見事な手際に目を丸くしている。


 「…何してんの? ホントに」

 「うむ。フリーダ殿が、指輪に新たな魔法陣を刻もうとな」

 「どんな魔法…?」

 「遠距離通話と存在感消失の魔法だそうだ。先ほど、ここ専属の協会員から教わったんだ。

  私もいくつか、投擲用のナイフを作ってもらった」


 ヒナが見せたのは、刀の柄尻に取り付けたものと同じ、小さな刃物だった。

そしてフリーダが行おうとしているという、遠距離通話の魔法。

文字通り距離を取って通話することだ。声を魔法で届けるということか。

ヒナ曰く、ドラゴニア=エイジ以前に存在した通信機をここで見せてもらい、発案したらしい。

採掘中に偶然発見されたらしい物が、工房の壁にかかっていた。

小さな箱にいくつかの穴をあけ、回るネジと細い棒が取り付けられている。

現実の世界で言うと、トランシーバーにあたる。


 「で、存在感消失ってのは?」

 「協会員が先刻使っていた魔法だそうだ。先ほどは穴の中であれを使い、邪星獣から逃れていたらしい」

 「なるほど!」


 ヒナが気配を感知しきれなかったほどの精度である。フリーダが使えば、ほぼ完璧に身を隠せるだろう。

独立型相手に通じるかは判らないが、それでも緊急避難の際は役に立つはずだ。

作業が終わったところで、フリーダは手を止め、目元にレンズを当てて彫り込んだ魔法陣を確かめた。

どうやら理想通りの完成度らしく、フリーダはにまっと笑う。


 「むっふふぅ…できた! 完成しましたっ!」

 「お疲れ様、フリーダ殿。料金は自分で払えよ」

 「わかってますとも! おいくらになります!?」


 刀を研ぎ終えた作業員が立ち上がり、料金を計算して神に書き出し、フリーダに見せた。

ヒナの刀の研磨とフリーダのペンダント加工、合わせて6ドライズと7ドラホーン(6万7千円)。

うち、研磨代は1ドライズと8ドラホーン。ヒナとフリーダはそれぞれの料金を支払った。

カーターの依頼で半額まで下げてこの値段。半額でなければなかなかの代金となる。


 「いや、すげえ手際だな、嬢ちゃん!」


 フリーダの器用さに、カーターはすっかり感心しきりであった。


 「旅が終わったらここで働かんか? いい商売できるぜ!」

 「どうしましょうかねえ。それも面白そうですけど、終わってから考えさせてください」


 勧誘に対して真剣に考え込むフリーダ。その手際は本職の魔法道具職人にも勝るほどだ。

魔法の才能と手先の器用さを併せ持つ彼女なら、どんな職業でもやっていけそうだ。

加工が終わった指輪を、アニィとパルが覗き込む。


 「フリーダさん、遠距離通話の魔法って…?」

 「ふっふっふ…距離を取っても通話できる魔法です! 通話用の鉱石板の応用です!」

 「頭じゃ判ってるんだけどさ、説明しても実感というか…試しにやってみてよ」

 「いいですよ、ビックリしちゃいますよぉ。うふふっ♪」


 含み笑いをすると、フリーダは工房を出て建物の裏側に回った。

その直後、アニィ達の首に下がったペンダントの石が緑色に光った。


 『もしもーし、聞こえますかー?』

 「え、ふ、フリーダさん!?」


 突如、フリーダの声が聞こえた。工房裏からの大声ではない、目の前で話している程度の音量の声。

声に若干エコーがかかっている。耳を澄ますと、何とペンダントの石…ターミナルクォーツから聞こえていた。

つまり、声だけが転移してきたのである。


 「どこから話してんの!?」

 『工房裏からです。よかった、ちゃんと聞こえるんですね! こっちにも聞こえます!

  風魔法の応用で、音だけを送るようにしたんです!』

 「そういうことか。やはり着眼点が鋭いな、フリーダ殿は」


 音とは空気の震動である。精緻な風魔法によって、微細に空気を振動させることで、音波を作り出すことも可能だ。

フリーダの遠距離通話魔法は、この微細な空気の震動を起こし、発生した音だけを転移させるものであった。

距離の他、遮蔽物がある時や別の音が聞こえる時など、声が聞こえにくい状況で通話ができる。

猛吹雪に見舞われているであろうアイゴール大雪原では、さぞ重宝するだろう。

通話を終えると、フリーダが工房裏からひょこっと出てきた。


 「びっくりしたでしょう!」

 「ばうばう!」

 「うん、びっくりした…声を遠くに届けるなんて、できるんだ…すごい…!」


 感心しきりのアニィに、自慢げだったフリーダはひたすら照れるのであった。

現状済ませられる用事は済ませた。後はドラゴン用のベルトを待つのみだ。



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