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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第六章:君に幸あれ-Happiness daybreak-
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第百八話


 荷物は全員分を一つにまとめ、エクスマの手前までクロガネが担いでいくことになった。

高級ではなかったが、どれも実用的…つまり防寒性能が非常に高い。

会計を終えた後、アニィは不安になってフックに尋ねた。


 「…あの、今更ですけど、こんなにお安く売っていただいて、本当に良いんですか?」


 何しろ4人分の防寒用衣類を、全て半額で買ったのである。

それなりの値段の商品を全て半額で売るとなれば、店にも大きな損失が出るとアニィは心配になった。

が、フックは仏頂面でそれを受け流した。


 「他で売り上げを伸ばせば何とかなる」

 「ちゃんと売り上げを伸ばす目途は立ってんの、店長…?」


 たやすく言ってのけるフックを前に、恐らく実作業を担当するだろうショーラとウェアがげんなりする。

カーターはそれを見て苦笑しつつ、しっかり働け我が友よとフックに忠告した。

ともあれ、防寒着は揃った。

続けてドラゴン用のベルトを作るため、フックが外に出てプリス達を見上げた。

プリス達の体に紐で括り付けられたターミナルクォーツを、彼は目ざとく発見した。


 「このペンダントを固定するためか」

 「は、はい…」

 「確かに、この紐だけでは落ちるな…どれ」


 フックはまずプリスの左前脚の肩付近に触れ、ぐるりと外周に沿って手を這わせる。

何をしているのかと見ているアニィ達に、腕の外周の長さを計っているとショーラとウェアが説明した。

計り終えたフックは、手持ちの紙に長さなどを書いていった。

定規や巻き尺も無しに、彼はベルトに必要な長さを割り出したのである。

ヴァン=グァドの服飾店店長、アムニットでも為しえなかった、恐るべき技術だ。

驚愕するアニィ達を前に、彼はまたも仏頂面で言ってのけた。


 「慣れているだけだ」

 「いやいやいや、すごいですよ店長さん!」


 フリーダの絶賛に、しかし彼は背を向け、残るパッフらの上腕の外周を計り始めた。

そっけない反応にフリーダが落ち込んでいると、照れているだけだとウェアが横から言う。

そしてウェアは、アニィの手袋を目ざとく見つけた。


 「それ、いい手袋っスね。どこ製っス?」

 「あ…これですか? ヴァン=グァドで、アムニットさんという方に作ってもらいました…」


 その回答を聞き、フックの手がピタリと止まった。

振り向いた彼の顔は、先刻の仏頂面とはやや異なる、鬼気迫る表情を浮かべていた。


 「アムニットだと?」

 「は、はい…」

 「……良いだろう。最高のベルトを作ってやる」

 「…アムニットさんとお知り合いですか…?」


 アニィが背後から尋ねるが、フックは答えなかった。

代わりに答えたのは、彼の親友ことカーターであった。


 「修行時代に会ったらしくてなあ、全く気が合わなくてケンカが絶えなかったらしいぜ。

  あの計測も、負けまいとして編み出した技なんだ。それだけに絶対の自信が」

 「黙れカーター」


 ギロリと睨むフックに、しかしカーターらは楽しそうに笑うだけであった。

カーターが言うに、対抗心から編み出したという両手の計測は、どうやら極めて精緻なものであるらしい。

プリス達の上腕の外周を計り終えると、彼は材料を見繕い、頑丈な革を手に取った。

ブーツにも使われている、スノーホエールの革だ。これだけでも頑丈だが、他にも色々な材料を使うようだ。

手作業での採寸を終えると、フックは材料をカウンターに揃えた。

ドラゴン達のターミナルクォーツも外し、しばし預かると言ってカウンターに置いた。


 「2ジブリスほどかかる。それまでドラゴン達も連れて買い物でもしていろ、完成したら役場に持って行ってやる。

  ショーラ、ウェア、手伝え。―――会計は渡すときだ」


 それだけ言うと、彼はカウンターに座り込み、黙々と作業を始めた。

その間に、カーターはマップを見せながらパルに問いかけた。


 「じゃあ、他の店にでも行くかい?」

 「うん。エクスマだっけ、次の町までのご飯と…

  みんなはどこか寄ってみたい所とか、ある?」


 町のマップを見ながら、アニィ達は相談を始めた。

ヒナには歩きながらどんな店があるかを説明してある。

ただ、どの店もにぎやかで人が多いため、なるべく誰かと一緒に歩くようにも言ってあった。

しばしマップを見ていると、フリーダが手を挙げた。


 「武具の工房、見てみたいです! どんな武器を作ってるか気になります!」


 衣料品店から少し離れた場所に、フリーダが言う武具の工房があった。

シーベイで言うとランス兄妹が経営する工房のような物だろう…と、アニィは思った。


 「私とクロガネもそっちに行っていいかな、フリーダ殿」

 「いいですね、一緒に行きましょう!」

 「ばうばう!」

 「ゴゥッ」


 ヒナ達は、カーターの引率の元、工房に向かうことにした。

アニィとプリス、パルとパッフはマップを見て、食料品店の場所を確かめる。

区画一つ分離れた場所にあるが、徒歩でも迷うことはなさそうな、わかりやすい場所だ。


 「じゃ、あたし達はお昼ごはんを買いに行こう。アニィ、プリス、いい?」

 「うん…」

 《いいですよ。じゃ、買い物済ませたら一旦工房に集合で》

 「オイラは行かなくていいかい?」


 カーターが尋ねるが、パルが断った。


 「ご飯くらいはいつものお値段でいいよ。ヒナ達の方がお高い買い物になるかも知れないし」


 工房となれば、武具や装身具の加工を依頼する可能性もあり、場合によっては高額になりそうだった。


 「それもそうだな。じゃ行こうか、お嬢さん達」

 「はい! アニィさんパルさん、また後で!」

 「行ってくる」


 ヒナ達は相棒のドラゴンの背に乗り、カーターに連れられて衣料品店を出た。

アニィとパルも相棒の背に乗り、店を一度出る。


 「じゃ、よろしくお願いします…」

 「うむ」


 若い二人と共に作業を始めたフックが、不愛想に答えた。

アムニットといい、何か作る人は不愛想と相場が決まっているのだろうか…と、アニィは疑問に思ったが、尋ねるのはやめておいた。


 アニィ達は別の区画にある食料品店へと向かう。

その最中、先を歩くパッフの背の上で、パルが振り向いた。


 「何か久しぶりだね、あたし達だけって」


 パルが言うのは、旅に出た頃の最初のメンバーである、アニィとプリス、パルとパッフの4人だけになったことだ。


 「そういえば、そうだね…」

 《たった10ディブリスとちょっとなんですが、色々ありましたしねェ》

 「もう村からもだいぶ離れちゃったし…すごく時間が経ってる気がする」


 パルと共にマインホルズの町を眺めながら、アニィもふと、これまでの道のりを思い返した。

初めて訪れる地、そこで出会った新しい仲間達。

村を襲った邪星獣を皆殺しにした瞬間、シーベイで守り切れなかった少年たち。

町で出会った人々との短い交流、現地での初めての料理。

邪星獣と闘う者たち、静かに幸福に生きようとする人々…


 ヘクティ村から出た短い日々、村にいた頃には想像もつかない出来事ばかりがあった。

激動の日々の中、アニィの記憶の中では、村の事は少しずつ薄れてきている。

自身を受け止めてくれている仲間達の存在もあり、内心に渦巻く憎悪と向き合うこともできている。

時々村にいた頃のことを思い出し、息もできぬほど苦しくなってしまう時がある。

それでもプリスを始めとする仲間達がいることで、すぐ収まるようになった。


 そして、目の前のプリスに抱く、暖かく幸福な想い。

村で初めて遭遇した時から抱くそれこそ、ある意味ではアニィが旅に出る切っ掛けであった。

生まれて初めて正面から触れたドラゴンの鱗の艶やかさ、滑らかさ、体温。

涼やかな吐息、そして視線…共に行ければと、初めて思った相手だった。

―――もし、彼女に会えなかったら。ふと、そんな不安がよぎる。


 「…ねえパル、一緒に村を出ようって、出る前に誘ってくれたよね」

 「うん。それがどうかした?」

 「わたしがプリスに会えなくて、魔術が使えなかったら、どうする気だったの?

  一緒に村を出ても、それだとわたしは何もできないんだし…」


 旅に出る前、村からの出奔を持ちかけられた時にも、アニィは考えた。

魔術を使えず生活力も無い自分が、果たしてパルとチャム姉妹のために何ができるか。

出奔を誘う前に、パルは自らの魔術とパッフの真の身体能力を披露してみせた。

そしてドラゴンとの出会いも魔術の行使も、まだできていないだけだとアニィを励ました。

アニィがドラゴンに出会うことを、パルは微塵も疑っていなかったのだろう。


 「別にどうもしないよ」


 アニィのそんな推測を肯定するように、パルはあっけらかんと答えた。


 「友達と一緒に出ていくのに、役に立つとかどうとか考えないって。

  一緒に来て欲しいからってだけ。チャムも望んでたしね」

 「パル…」

 「それに、アニィはプリスに会えたんだから。その事実を大事にしてあげな。

  でないとプリスが泣くよ、私はアニィを元気にしてあげられないって」

 《いやいや。泣きませんよ》


 渋い顔で答えるプリスに、パルはまたしてもワハハと笑った。


 「泣いてくれるくらいの方がいいんだけどな、あたしは。

  ―――あたし、プリスがアニィを連れ出してくれたの、本当に感謝してるんだよ」

 「そう、なの…?」

 「うん。プリスに会ってから、アニィは時々でも幸せそうな顔になったからね。

  あたしもチャムも嬉しかったよ、本当に。長年の友達として、気持ちが届かないのは悔しかったけど」


 悔しかったと言いつつ、パルは微塵もそれを感じさせぬ笑顔で言ってのけた。

アニィは少しだけ申し訳ない気持ちになる。

大丈夫だからと、迷惑がかかるといけないからと、自身がパルの善意を拒絶していたことを、今になって実感した。


 「…ごめん」


 ほとんど癖のように、謝罪の言葉が口から漏れ出た。

毎度聞かされる身として若干苛立っているのか、プリスの口調が若干刺々しくなる。


 《アニィが謝ることじゃないでしょうよ…》

 「でも…」

 「―――クルルっ!」


 落ち込むアニィに喝を入れるかの如く、パッフが突如声を上げた。

呆気に取られていたパルは、パッフと目が合うと、その意図をすぐ理解した。


 「『全部あいつらが悪い、アニィは何にも悪くない、謝ることなんか何も無い!』ってさ。

  あたしもそう思う。プリスはどう?」

 《同意します。アニィがこうまで卑屈になったのは、村のクソ虫どもとしなびた因習のせいです。

  馬鹿げてますよ、ドラゴンに乗れないとか魔術が使えないとか、そんなので差別するなど》

 

 ドラゴンに乗り、魔術を使えるのが一般常識であるこの世界。

閉鎖的だったヘクティ村では、特にその常識を絶対視する傾向があった。

おかげでゲイスのように優秀なドラゴン乗り(ライダー)が、過度に賛美されるようになった。

ただ一人魔術も使えずドラゴンに乗れぬアニィは、村の因習故に虐待の標的にされてしまった。

父オンリがドラゴン乗りの教導を生業としていることも、余計にアニィの肩身を狭くしていた。


 それを馬鹿げていると嗤うのが、祀り上げられている当のドラゴンなのだから、世話は無い。

そう思うと、アニィの気持ちは幾分か楽になった。


 《アニィ、あなたはそんなものに縛られる必要は無いんです。

  あんな干からびた肥溜めみたいな村の連中より、よっぽど強い魔力を持っているんですし。

  パルに対しての罪悪感だって、本当は抱く必要などありません》

 「プリス…」

 《急に言われても無理だとは思いますが…少しずつで良いです。判って欲しい》


 振り向いたプリスの優しい視線が、アニィの目を捉えた。

自身を愛しているというプリスの優しい言葉に、アニィはうなずいた。

少しばかり頬が赤く染まっていることに、アニィ以外の3人が気づいたかどうか。


 「じゃあ美味しい物でも買って、気分を切り替えますか!」


 肉が焼ける香ばしい匂いが漂う。パルに言われて顔を上げ、アニィは目的の店に辿り着いたことを知った。



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