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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第六章:君に幸あれ-Happiness daybreak-
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第百三話

【2024/05/22】本編の進行に伴い、冒頭部分を修正。


 《―――ふうむ―――》


 『それ』がどす黒い空間で動いた。

送り出した『子供達』が悉く消えていったことは、『それ』にとって少々意外な出来事だった。

最大の危険物である『やつ』を探しながら周辺を探らせていたのだが、それが頻繁に中断している。

『やつ』が動いた様子はないにもかかわらず、何かが起こったのかもしれない。

『それ』は伝わってきた子供達の最後の記憶を読み取る。


 《―――どうしたのかな…》


 普段なら感情の一つも動くことは無いが、この時だけは頭の中で何かが反応した。

子供達が最後に抱いた情動。警戒、敵意、否―――恐怖。ゾワゾワと内心を蝕む恐怖。

心の中で、子供達はいつも叫びを上げていた。何度も何度も叫びを聞いた。


 それで可哀相などと思う心を、『それ』は持ち合わせてなどいない。

そもそもこのような情動の存在を、『それ』は認知できない。

その一方、恐怖は確実に『それ』の内心を蝕んでいる。ただ気づかぬだけであった。


 《―――『あいつ』のいる場所で…》


 絶対に許せぬ存在がいる場所。探していたのは『やつ』、そして自分にとっての危険物だった。

だが『やつ』を探しにやった子達に始まり、一番大きな子までが消えた。

危険物の発生を感じた子供達が排除に向かい、逆に消滅してしまったようだ


 よく見てみようと、『それ』は目を開き様子を探った。

見つけたのは、自身が到着する予定の場所に向かっている何体かの生命体。

『葬星の竜』がいる。同伴する他の生命体も、強い魔力を持っている。

その中で1体、飛び抜けて強大な魔力を持った個体を見つけた。


 《おお、これは…》


 集まった生命体の中のみならず、調査先のあらゆる生命体の中でも飛び抜けた魔力を持っていた。

調査の目的があったはずが完全に忘却し、『それ』は発見した個体を調べた。

調べるうち、強大な魔力以外にもいくつかの特徴が見つかった。

いずれも『それ』にとって都合のいい物だ。

僥倖どころではない、最適の中の最適な材料であった。


 すぐさま『それ』は動くことにした。でなければ目的を果たせぬからだ。

油断してはならない。あの時のようなことが二度とあってはならない。

目的のためにはあの個体が最適だ。何としても手に入れたかった。


 『それ』はこれまでにない程強烈に思った―――欲しい、と。



 アニィ達が行き先に決めたのは、大平原に空いた巨大な採掘坑の付近の町だった。

この採掘坑からは、輝ける鋼(グローリーメタル)顕現石(ルミナスクォーツ)が採掘される。

それらを資材や商材とするため、かつては連邦各地から、金属加工業者や魔術ツール開発業者が訪れた。

訪れた人たちが、長距離の移動をせず、現地での加工や取引ができるよう、少しずつ町を形成していったという。


 なお、一般的にこれらの採掘坑は人間の手で掘り進めるものだが、ここの穴はいつの間にか空いていた。

地質学者によると、約3500ネブリス程前に掘った採掘坑の影響で、地盤沈下が起こって出来たもの…ということだった。

つまり当時、ここでも採掘業が行われていたのである。

それを証明するかの如く、ドラゴニア=エイジ4700年代の採掘道具も発掘され、役所に置かれている。


 「…というのが、その町『マインホルズ』の成り立ちだそうです」


 フリーダが『天空図書館』自室から持ち出した書籍の一冊を読みながら説明した。


 「てことは、顕現石(ルミナスクォーツ)輝ける鋼(グローリーメタル)の加工品が売ってるってこと?」

 「はい。それに武器・ツール製造や加工業者の工房もあるそうです」


 ほうほう、とパルがうなずく。そこにプリスも加わった。


 《それもいいですが、これのベルトも何とかしないと。このままでは飛んでいる最中に落下しかねませんから》


 プリスが指すのは、フリーダから受け取ったペンダントだ。

彼女達ドラゴン4頭は、ペンダントトップを紐で上腕に括り付けている。

しかし頑丈とは言えないもので、戦闘中どころか、プリスが言う通り飛びながら落としてしまうかもしれない。


 「シーベイみたいに、色んな道具も作ってるかも…」

 「鞘やベルトなどか? そうだな、武器を身に着ける道具か…武具の店があるなら、あるかも知れんな」


 アニィの発言にヒナもうなずく。フリーダも書籍を見つつ、特産品を調べている。

実際にシーベイと同じく、武器のみならず装具の類の店もあるようだ。


 「なるほど、じゃあ武具のお店があるか聞いてみましょう。

  あと、料理も良さそうですね。労働者向けの美味しいサンドが名物なんですって!」

 「じゃあ、そこでお昼ごはんも買わない?」

 「いいね、お腹も空いてきたし…もうお昼か。パッフ達もそろそろ休んだ方がいいしね」


 アニィの提案に真っ先に乗ったのがパルであった。

同時に、ぐうとアニィ達の腹の虫が鳴いた。

 朝にマナスタディアを出てから、およそ6ジブリス程飛んでいる。

肉体的な疲労こそ無いが、ドラゴン達も飛ぶことに飽きた所である。

ヒナもクロガネの様子を伺い、飛行への飽きが来ていると悟って尋ねた。


 「頃合いだな。食事と買い物をしたらすぐ出るのか?」

 《そうしましょう。天候にもよりますが、アイゴールは我々にとって未知の場所です。

  少し急いで渡り、早めに抜けるのが良いと思います》


 答えたプリスの言葉に、全員が納得した。

アイゴール大雪原…雪と氷に覆われた、常に真冬の平原。

アニィ達のかつての居住地でも、冬には雪が積もることはあった。

だが、建物どころか山や岩石すら無い広い平地となると、初めての場所だ。

最低でも低温に備え、防寒着などを買っていかねばならない…

ということで、そちらも当てにしてマインホルズに立ち寄るのである。


 「んー…じゃあ、何か持って行けるのを買って、食べながら行くのがいいかな…?」

 「うん、あたしもそれでいいと思う。先にドラゴン用ベルト注文して、それから買い物しよう」

 「さんせーですっ!」

 「ばうっ!」


 フリーダとクラウが元気に手を挙げる。ヒナもうなずき、同意を示した。

マナスタディアを出てから、フリーダは本当に楽しそうにしている。

父から解放された喜び、自由に魔法を使える喜びが、彼女をそうさせている。

彼女の父ケイジェルは『天空図書館』の破片と共に吹き飛ばされたが、フリーダがそれを案じる様子は無かった。

父の死を望んでいるわけではないが、生きていて欲しいわけでもない。

要するに、最早興味がないのだ。


 既に血縁者すら思考の範疇から捨てたフリーダを、アニィは羨ましく思った。

自分にできることがある。力としてくれる友がいる。

自信と確信を取り戻したフリーダに、図書館にいた時のような影はもう無かった。


 自分はどうだろう―――アニィは自分に問いかける。

プリスと出会い、旅に出た。魔法も使えるようになった。

パルとパッフ以外の友達もできた。村で虐げられていたことを話した。

沢山のことがあった。たくさんの闘いがあった。村で苦しめられた記憶も、少しずつ薄らいできている。

だが、村でのことを振り切るには、もっと確かな何かが欲しい。


 プリスの背に乗って、どこまでも高く遠く空を飛ぶ。

プリスにだけ明かした願い。一見すると、それ自体は確かに今現在叶っている。

だが、その根底にあるのは、ただ飛びたいという願いだけであろうか。


 ここ何ディブリスか…否。出会った時から感じる、プリスへの正体不明の感情。

プリスとふたりきりになった時、その感情が胸を満たすと、怒りも恐怖も、何もかもを忘れられる。

胸の内を満たす、どこまでも暖かな心。プリスへ向けられた、強烈で不明瞭な感情。

プリスと共に飛びたいと思ったのは、それゆえだ。

 

 自分でもわからぬその感情を、プリスに対してどう抱くべきか、アニィには判らなかった。

伝えたいのか。伝えたくないのか。身勝手な気持ちではないか。

正体も判らぬ感情を伝えたところで、プリスに迷惑がかかるのではないか。

ならばこの感情は誰にも伝えず、押し込めておくべきなのか。

だがそのままで、本当に『プリスと共に飛びたい』という願いは、叶うのか?


 (―――プリスの背に乗って飛びたい。プリスと一緒に飛びたい。プリスと、一緒に。

  この気持ちは何だろう。わたしは、プリスをどう思っているんだろう…)


 自問を繰り返すアニィ。すぐに答えが出るものでは無い。

この感情の正体を知らねば、自分が何を悩んでいるのかも掴めない。

一度この問題は棚に上げることとして、アニィは気持ちを切り替えた。



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