第百二話
『住居と住民票はこちらで用意いたしますわ! ですから皆さま、是非いらして!』
《ビンボーだし復旧中だから、色々不便だけどな。それでもいいなら来な、ガキども。歓迎するぜ》
「ありがとうございます! では、すぐにでも!」
その後は移住に当たって必要な物などを話し合い、最後に互いにヨロシクと伝えあい、通話は終わった。
自身への高評価に納得できないアニィをプリスがなだめている横で、フリーダがザヴェスト達に問う。
「ホントにいいの? 何もボクに合わせなくたって」
心配そうなフリーダに、シュティエが答える。
「アタシたちの意思だよ、フリーダさん。それと、この街を助けてくれたあなた達のお手伝い」
「それに、こんな世の中だしね。勉強は大事だけど、それを活かさなきゃ。そうだろ、ザヴェスト?」
「うむ」
「みぎゃっ!」
ドゥリオ、ザヴェスト、ウィスティも同意している。
どうやら彼らに撤回の意思は無いらしい。それが彼ら自身の意思であるならと、フリーダも快く送り出すことにした。
「そっか。わかった、じゃあ頑張って!」
「ああ。お前もな、ハイライズ!」
握手を交わす二人。しばしの間会えなくなるわけだが、どちらも寂しさは感じていなかった。
友が世界のために闘う、その手助けをする。学友として当たり前の、助け合いであった。
フリーダはアニィ達と同道し、彼女の学友たちはアグリミノルのサポートに行くことになった。
フリーダの退学とザヴェスト達の休学を届け出ると、マナスタディアを出る手続きを終え、全員が都市の正門前に集まった。
この街の象徴でもあった『天空図書館』は既に無く、遥か彼方に破片が吹き飛ばされ、散乱している。
そのことを少しだけ残念に思ったのか、ザヴェストは哀しげな顔で空を見上げた。
しかしすぐに、穏やかな表情に戻る。
「それじゃアニィさん達、フリーダさんとクラウちゃんの事、よろしく!」
ザヴェストにドゥリオと共にウィスティの背に乗り、出立の準備を終えたシュティエが声をかける。
アニィとプリスを始め、一行も既に旅立つ準備を終えていた。
そしてこの日以降、チームメンバーにはフリーダとクラウが加わった。
4人と4頭に増え、幾分か大所帯になる。
「はい。みなさんも、アグリミノルのこと、お願いします…」
《じゃあそろそろ行きますか。忘れ物はありませんね、全員?》
プリスが尋ね、メンバー全員がうなずく。
そして二組の若者たちが、それぞれの方向に向かおうとした瞬間。
フリーダはふと、あることを思い出した。
「そうだ。みんな、ちょっと訊きたいことがあるんだけど」
「何だ?」
「園長先生の本。『熱きドラゴンライダーたち』っていうの、あれどんなお話か―――」
「「「よせ!!」」」
「みぎゃっ!!」
が、ザヴェスト達にはすさまじい剣幕で停められた。
流石に面食らい、フリーダは理由を問いただした。
その様子を見ているアニィだけは、彼らが止めた理由を判らず、首をかしげている。
あの本の内容はアニィも気になっていたので、是非伺いたいところだったのだが。
「……ハイライズ。好奇心が人の心を破壊することもあるんだ…あれだけは駄目なんだ」
「え」
「僕は友として、お前の心が破壊されるのだけは見たくない。
いいな。どれだけ気になっても、あの本は絶対に見るな。絶対だぞ!」
ザヴェストの青ざめた表情に、フリーダも思わず恐れおののき、何度か首肯すると、それ以上問うのを諦めた。
結局、その本については諦めることとなった。
改めて、各自がそれぞれの方向へと旅立つ。別れの挨拶を済ませ、ドラゴン達が飛び立った。
フリーダを閉じ込めていた牢獄とも言える『天空図書館』は砕け散り、吹き飛んだ。
蔵書の収集は学園が責任をもって行うと、学園長が宣言。教師陣や一部の学生が駆り出されることとなった。
謝罪するアニィ達に対し、ケイジェルがどのような人物か見抜けなかった非が自分達にあると、園長は謝った。
天才児フリーダの解放のためには、最早図書館を破壊するしかなかったと主張した。
フリーダの退学届けを受理した学園長は、こう締めくくった。
「フリーダ君。君たちはもっと、自由に研究し、自由に魔法を使うべきなんだよ」
―――そうして、フリーダとクラウは、アニィ達一行の仲間となった。
フリーダの幸福そうな笑顔に、アニィも頬をほころばせる。
新たな仲間の加入に、パル達も楽しそうだ。そして何より、フリーダ自身が。
「フリーダさん、嬉しそう…」
アニィがそう言うと、プリスも振り向いて答えた。
《やっと手に入れた自由ですからね。そりゃご満悦でしょう》
「うん」
アニィとプリスの会話は聞こえていないようで、フリーダはパル達と楽しそうに話している。
話しが一区切りしたところで、フリーダはパルに尋ねた。
「ね、次はどこに行くんですか!?」
「次はアイゴール大雪原の手前の街。そこで一泊して、雪原を渡る予定!」
「時期に関わらず、一面雪と氷の平原だそうだ。寒いだろうから、事前に用意していかねばな」
次に目指すのはアイゴール大雪原。
ヒナが言う通り、季節という物が事実上存在しない、冷たい雪と氷に閉ざされた平原だ。
地形の関係で常に寒気が集まり、いつしか長い時の末に、解けない雪に覆われてしまったらしい。
雪原の手前の街も同様で、他の自治体では冬にしか手に入らない物が、常に店先に並んでいるそうだ。
そう聞いたフリーダは、すっかり乗り気になっていた。
「ずっと冬…雪の街、平原……楽しそう! ね、早く行きましょうよ!」
「ばうばう!」
はしゃぎ、仲間達をせかすフリーダとクラウ。パルとヒナが苦笑しながら答えた。
「さっきも言ったが、先に準備が必要だぞ。暖かい服を揃えないとな」
「アニィの体調も心配だからね、きちんと備えて楽しもう!
―――アニィ、プリス。ちょっと行ったところに街があるみたいだから、先にそこに寄ろうよ!」
パルが広げた地図によると、大陸の中間部には南部と北部を分ける門があり、その手前に小さな町があるらしい。
図書館でいつの間にかその町のことを調べたらしく、アイゴールを渡る旅行者向けの商品が多いと、メモ書きしていた。
曰く、質の良い防寒着がそろった衣料品店や、武具を加工できる工房などがあるという。
ゾ=ディーゴンによる先日の豪雨の時のこともあり、アニィは二つ返事で賛成した。プリスも同意見であった。
アイゴールを抜ければ雪もほぼ解けているようなので、防寒着は不要になれば更に次の行先で売ればいいだろう、と話はまとまった。
次の行き先は決まった。少女達を乗せて、4頭のドラゴンが加速する。
強大な邪星獣を斃し、新たな仲間を加え、彼女達の旅は新たな局面を迎えようとしていた。
待ち受ける恐るべき敵と過酷な運命を予見し、アニィは僅かに緊張する。
ゾ=ディーゴンを斃したことは、間違いなく邪星皇に伝わっている。
フリーダには邪星獣が記憶を引き継ぐこと、魔法への対策も立てられる可能性も既に説明済みだ。
これから先、フリーダの魔法への対策も立てられることが予想される。
即ち、より強力な敵が現れるということだ。
「プリス。大丈夫……だよね」
不安が無いわけではない。だが乗り越えられると、アニィは信じていた。
そして、プリスの答えは―――
「わたし達、邪星皇をやっつけられるよね」
《もちろん》
いつもの高慢さと自信を湛え、プリスは晴れやかな表情で、うなずくのみであった。




