第百一話
道中の食料や送る物を購入し終え、アニィ達は協会に到着した。
手紙と荷物を送る手続きのため、協会のドアを開けようとした所、突如背後から声をかけられた。
「おい、フリーダ・ハイライズゥ!」
振り向くと、アニィが知っている少年を含む、3人連れだった。
ゴリアテとその手下らしき少年。そしてもう一人は、パル達が出会った不良少年だ。
パルから説明を聞くと、フリーダの研究罵った末に魔力を消滅させられた…という話を、アニィも思い出した。
背後にゴリアテと手下を連れているからか、邪星獣に襲われた時と比べ、強気に出た態度だった。
少年はフリーダの前に迫り、顔を近づけ睨みつけた。
「俺達に詫びの一言も無ェのか、あ!?」
「………えっと…」
突然のことに戸惑うフリーダ。怒りのままに詰め寄る少年を、ゴリアテは背後から笑って見ていた。
不良少年はフリーダが恐怖しているとでも考えたか、更に脅しをかけるべく襟首を掴もうとする。
が、フリーダの反応は、完全に彼の予想外だったようだ。
「あの、君だれですか? ボクは君の事、知らないんですけど」
「…………あぁ!?」
フリーダは彼の手を振り払う。頭に血が上り、少年は容易く払われたことにも気づかない。
『ドラゴンラヴァー』たるフリーダの腕力は、その辺の少年など相手にならないほどだ。
「忘れてんじゃねぇよウスラボゲ! てめェ、俺達の魔力消しやが―――」
「ごめんなさい。ボク、忙しいので!」
そして、フリーダは彼を無視してアニィ達についていく。
その背に不良少年が追いすがろうとした直後、アニィが振り向き、何事かとフリーダに尋ねた。
途端、不良少年の背後でヒグッと息をのむ声が聞こえた。ゴリアテが硬直し、震えている。
「ゴリアテさん!? 何してるんスか!」
「だめだっあああの女はっ、あの女はだめなんだよォォ!! ひぃぃ!!」
先日、園長室前での顔面貫通未遂の恐怖を思い出したらしく、ゴリアテはガタガタ震えながら逃げていった。
後を追う手下と不良少年。キョトンと小首をかしげ、アニィはその背を見送った。
気にすることは無いとザヴェスト達に言われ、アニィ達は協会の受付に荷物と手紙を渡す。
と、受付係が通話用の鉱石板を出した。アグリミノルの支部から連絡が来たとのことだ。
鉱石板に係員が触れると、板面にはアグリミノル支部の受付係モフミネリィ・ビッグワンハウスが映った。
相方のモフルイーグル、ジャッキーチュンも一緒だ。
『いたいたアニィちゃん達ぃ。よっすー、元気してるゥ?』
『ちゅんちゅん!』
『お、新しいお友達かなー。超好みー。だれだれお姉さんに教えてちゅんちゅん』
けだるげな口調は出会った時から変わらず、そしてジャッキーチュンも丸いままだった。
初めて見たらしいモフルイーグルに、シュティエなどは興味津々だ。
「あ、はい。元気して…ます。こちら、今日から一緒に来てくれる、フリーダ・ハイライズさんです」
「どうも、フリーダです! これからよろしくお願いします! あの、好みって?」
『よっしゃよっしゃ。実はさ、ウチの姫町長がさっきの見ててさ。
是非言いたいことがあるんですと。はい姫町長』
『アニィさん!』
モフミネリィを押しのけ、アグリミノル町長のメグことメイガン・ジョナ・ゴールディが割り込んできた。
余りの勢いにアニィ達が驚いていると、メグは画面に迫ってアニィ達に訴える。
『先ほどの雲を消し去ったの、町の皆で見てましたわよ!
あれって邪星獣が作った雲で、消したのはアニィさんですわよね!?』
「あっ、ええと…わたしというか、フリーダさんが」
《いやいや。あれはアニィの技じゃないですか》
「そうです、アニィさんの技です! ボクが補助しました!」
『やっぱり! そうですわよね! 凄かったですわ、最高でしたわ!』
アニィを中心にやいのやいのと騒いでいた全員が、メグの言葉に動きを止める。
つい先日、アニィの魔術に、彼女は恐怖した。
それが今や、同じ魔術が平和のために行使されたことに、自分のことのように歓喜していた。
そのことが伝わり、アニィも彼女の笑顔を見て微笑む。
彼女の恐怖を振り払うことができ、良かったとアニィは安堵した。
メグは一度深呼吸し、話を続ける。
『…アニィさん。きっとアニィさん達なら、あんな風に悪い奴をやっつけてくれますわよね。
街やバルベナをあんな目に遭わせるような連中、やっつけてくれますわよね?』
質問ではなく懇願であることは、彼女の思いつめた表情ですぐ判った。
町長たる彼女にとって大事な街、そして彼女が愛するバルベナの無残な姿を、アニィ達は思い出していた。
ちなみにその背後には当のバルベナが座り、何事かと覗き込んでいる。
アニィ達と目が合うと、プリスがバルベナに手を振り、メグも気づいて後ろを向く。
『バルベナ。もう、歩いて大丈夫なんですの?』
《ああ、傷はプリスに治してもらったからな。義足も作ってもらったし》
そう言って、バルベナは新たに作られた義足を見せつける。
アグリミノルを発ってから、まだ2~3ディブリス程度しか経っていない。
それほどの短期間に作られたわりに、かなり頑丈そうだった。
バルベナはメグの隣に陣取り、画面越しにプリスに語り掛ける。
《よぉプリス、お嬢も言ってたけどよ。邪星皇の奴は、テメェらがボコボコにしてくれるんだろ?
頼むぜ、お嬢みてェに悲しむ奴が増えないように》
バルベナもまた、先ほどのメグと同じことを尋ねた。
お互いにお互いを想うその願いから、両者が深く愛し合っていることに、フリーダも気づいたらしく、僅かに驚いた顔をしている。
アニィはプリスと目を合わせ、2人に答えた。
「……はい。必ず」
《やってやりますとも》
『…お願いいたしますわ』
そう言うと、メグはモフミネリィに鉱石板を手渡した。
モフミネリィとジャッキーチュンが、受け取ってから説明を始めた。
『連絡ね。定期依頼の報酬の事なんだけども。そこでは受け取れないんよ』
「え、そうなんですか?」
「学生の街ですからね。受付も職業訓練の一環で、学生がやってるんです」
ドゥリオに言われて受付係を見ると、確かにビッグワンハウス姉妹より年若い少女だった。
机には小柄なモフルオッターが座っている。モフモフした小さな動物を雇わなければいけない規則でもあるのか。
『てなわけで、報酬は次の行先で受け取ってちょーだいな。
アイゴールの近くの街に行くんだっけ? そこ、ウチの次女がいるから。話は通しとくね』
「あっ、ありがとうございます…!」
ビッグワンハウス5姉妹の次女。曰く、名前はモフミニェ・ビッグワンハウス。
五つ子なので顔がよく似ており、会えばすぐに判るとモフミネリィが説明した。
『あと、荷物はこっちのとまとめて送るよーに、郵便屋さんに伝えとくね。
じゃ、連絡終わり~』
「すみません、ちょっと訊きたいんですけど」
そこでシュティエが割り込み、モフミネリィに尋ねた。通話を切ろうとした手が止まる。
画面に出て答えたのは、モフミネリィではなくジャッキーチュンとメグであった。
『ちゅん?』
「あの、アグリミノルっていう町、聞いたこと無いんですけど、最近できたんですよね。
ドラゴンさんがその…義足って言ってたのが気になって。どんな村なんですか?」
『ああ、それはですわね…傷病者の村なんですの。町民の殆どが、義手や義足を装用してますのよ』
バルベナの姿が映し出される。翼を失っただけでなく、片目はつぶれ、前脚の片方は義足。
ドラゴンの強靭さを知っているザヴェスト達、特にウィスティはショックに言葉が出ない。
彼女達自身は何事もなさそうに言っているが、バルベナの傷が邪星獣との闘いでできたことは、ザヴェスト達にもすぐ理解できた。
そこで手を挙げたのが、リーダー格のザヴェストであった。
「…何か、手伝えることはありますか?」
驚き、フリーダはザヴェストの横顔を見た。
ドゥリオ、シュティエ、ウィスティも同様、決意をあらわにした顔だ。
フリーダは何も言わず、見守ることにした。
「僕達はハイライズと一緒に魔法を研究していました。先ほど、リムさんを補助した魔法の研究です。
何かお役に立てるかもしれません。そちらに向かわせてください」
『それは…嬉しいですけれど、よろしいんですの? あなた方、学生でしょう?』
「休学届を出します。、教材を持っていきますから、勉強は大丈夫です。
仲間が闘おうとしているのですから…僕達も、何かをしないと」
ザヴェストに言われ、メグはしばし考える。現実的に考えれば、学生ができることは限られている。
それに住む場所の確保も難しい。傷病者が多く、住居を始めとした建築物の修理・復旧にも時間がかかる。食料確保も難しいだろう。
ザヴェスト達にもそこは判っていた。その上で、町の復旧の手伝いを申し出ている。
町長として、また彼らより年上の者として、迂闊なことは言えない…逡巡するそんなメグの肩を、バルベナが鼻先でつついた。
《お嬢、なに迷ってんだよ。こいつら、プリスのお友達の仲間だろ?》
『え、ええ… ―――そうでしたわね。アニィさんのお友達なら、信頼できるはずですわ!』
「何ですか、その高評価…!?」
余りに素早い決断と根拠不明の高評価に驚愕し、アニィはつい画面にしがみついて問い詰める。
が、メグはまたしてもマイペースさを発揮し、さっさと話を進めてしまった。




