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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第五章:鳥籠の夢-Awaken, wonder child-
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第九十五話


 街を覆い尽くすほどの小型邪星獣と、その上空で魔力を蓄積していくゾ=ディーゴンの姿が見えた。

小型邪星獣もまた魔力を体内に溜め、膨れ上がった体で降下していく。

一斉に自爆し、防壁を破る気だ。

アニィは全身に魔力をみなぎらせ、プリズム線を一斉に発射しようとする。

そこにフリーダが声をかけた。


 「アニィさん、もう一回『合成』します!」

 「わかった、お願い!」

 「はい! ―――『魔法合成魔法(マギミクス)』、風魔法(ハヤテ)!!」


 再び、フリーダは緑の指輪をセントラルクォーツに触れさせる。

同時に、アニィのペンダントのターミナルクォーツが緑色に輝いた。

体内で風の魔法が自身の魔術に融合するのを、アニィは感じた。

そしてもう一つ…フリーダの治療による効果が、今はっきりと感じられた。

以前のような異常な怒りを感じない。心は至って平静で、視界内の全ての邪星獣の姿が明瞭に映る。


 「見える…ちゃんと見えるよ、プリス! フリーダさんの『魔力整流』のおかげ!」

 《そいつはよかった! じゃ、お見舞いしてやりなさい!》

 「うん! ―――やあああああっ!!」


 アニィの全身から、七色に輝くプリズムの線が発射された。

一本一本が急降下していく小型邪星獣を捉え、正確に頭部を貫き、爆散する。

同時に魔力に誘爆し、巨大な爆破を起こす―――かと思われたが。

爆破と同時に凄まじい風が発生し、炎も衝撃も方々へと飛ばして、霧消させてしまった。

ただ合成するだけではない。合成した魔法が発動するタイミングも、フリーダがコントロールしている。

途方もない鍛錬の末に魔力操作を極限まで磨き上げた、努力の末に生まれた怪物的天才の所業だ。


 一時、全ての小型邪星獣が消失し、防壁への被害は防ぐことに成功した。

だが、地上…防壁の内側にも邪星獣が現れだした。指揮官個体は見当たらない。

しかし立ち向かう者達が多数いた。清潔な制服を身にまとい、それぞれの武具を装備した、魔法学園の生徒達だ。

彼らはチームを組んで、果敢に邪星獣に挑んでいた。或る者は徒手空拳で。ある者は剣や槍で。

いかなる戦い方でも、魔法を籠めたことで、一般人としてはなかなか強力な技になっている。

勿論、魔法をそのまま行使する者達もいる。ヘクティ村の住人達よりも強力な魔法だ。


 「パル達は街をお願い。どこかに指揮官がいる筈だから、探してやっつけて!」


 確かに、学生らは一般人としては高い戦闘能力を持っている。

だが、指揮官個体に挑むには脆弱だ。『ドラゴンラヴァー』であるアニィ達の力が必要だろう。

その一方、空中にはゾ=ディーゴンがいる。放り出すわけにもいかない…

一度戦力を分断し、都市の防衛とゾ=ディーゴンへの対処を並行する必要がある。

アニィは、機動力の高いパル達に地上を任せたのであった。

そこでフリーダが提案する。


 「じゃ、パルさん達にも『魔法合成魔法(マギミクス)』を行います。

  パルさんとパッフさんは風、ヒナさんとクロガネさんは炎で!

  『魔法合成魔法(マギミクス)』、風魔法(ハヤテ)焔魔法(ホムラ)!」


 4人のターミナルクォーツが輝いた。パルとパッフの物は緑に、ヒナとクロガネの物は赤く。

パル達は、体内で2種類の魔力…自身の物とフリーダの物が融合したのを感じた。


 「よっし…フリーダ、ありがと!」

 「手が空いたら、私達もそちらに行く!」

 「クルっ!」

 「ゴゥ!」


 パル達は地上へと急降下した。

それを見送り、アニィとプリスはフリーダとクラウを引き連れ、ゾ=ディーゴンの方へ向かう。


 「フリーダさん、クラウ、一緒にあの大きい奴を止めよう。

  パル達が来るまで、わたし達で!」

 「はいっ!」

 「ばう!」


 プリスとクラウが高速で飛行し、ゾ=ディーゴンの巨体に迫る。

改めて間近で見ると、信じられないほどに巨大であった。

大都市を1頭で破壊できる質量、膂力、魔力を兼ね備えた、言わば広域破壊特化型だ。


 《通じるかどうかわかりませんが、喰らえッ!!》

 「バオオオオオン!!」


 プリスが吐き出した光線に光の糸を巻き付け、回転円錐(ドリル)状にして発射。

同時にクラウが独特な咆哮を上げる。音声にして広範囲に発動する、魔力拡張魔術である。

プリスが発射した光線は、通常時の倍以上の太さと回転数で、ゾ=ディーゴンの顔面へと向かった。

光線は巨大な頭部を直撃し、貫通した。しかし。


 『無駄ァァダァアアア!!』


 ゾ=ディーゴンの顔面に空いた穴が、たちまちのうちに塞がっていった。

通常の邪星獣なら、頭部を破壊されれば消滅する。

だがゾ=ディーゴンは頭部が巨大すぎて破壊できず、加えて規格外の細胞再生能力を持っているらしい。

極太の乱杭歯が生えた巨大な口から、今度はゾ=ディーゴンが鋼鉄の散弾を吐き出した。


 《VWEEEHAHAHAHA!!》


 鉄弾1つ1つがドラゴンを上回る大きさだ。しかも弾速もすさまじい。

直撃すれば、全員が一撃でひき肉と化すだろう。

プリスがフリーダとクラウの前に出て、背に乗ったアニィがシールドを発動する。


 「クラウ!」

 「バオオオオオオンッ!!」


 巨大化し厚みを増した結晶の盾が、鉄の弾丸を跳ね返す。

吐き出された鉄弾と跳ね返った鉄弾がぶつかり、砕け散る。


 「『魔法合成魔法(マギミクス)』! 焔魔法(ホムラ)風魔法(ハヤテ)!!」


 その合間にフリーダがかざした左手の指輪から、炎の巨大な弾丸が発射した。

火炎弾はアニィとプリスの横を通り抜け、竜巻の如く回転して鉄弾を溶解し、ゾ=ディーゴンの眼球の一つを直撃。

超高温でドロドロに溶かした…筈だったが、溶解した眼球はすぐに再生した。

フリーダには、再生の瞬間に魔術の発動は感じられなかった。

つまり、単純に怪我の治りが異常に速いのだ。


 「あれをやっつけるなら、超広範囲の魔術か魔法、一発でないとだめです。

  普通の魔術や魔法では駄目です、当てたその場で再生します!」


 フリーダの分析は、恐らく間違っていない。

間違っていないが、全長80ドラゼンの巨体を一撃で消滅させる技など、アニィも持っていない。

アグリミノルの戦闘で習得した結晶砲も、一撃で全てを消滅させる技ではない。


 《フリーダ、『魔法合成魔法(マギミクス)』で何とかできそうですか!?》


 再び吐き出された鉄の散弾を、アニィがシールドで跳ね返す。

その間、プリスが背後のフリーダに問う。

鉄弾の反射に合わせ、竜巻状に回転する火炎弾を発射しつつ、フリーダは答えた。


 「できます!! できますけど、あれの動きを封じないと!」


 フリーダの考えでは、アニィの必殺の光剣であれば、ほぼ確実に仕留められる。

とはいえ、確実に叩き込めねば、超再生能力ですぐに回復されてしまう。

加えてゾ=ディーゴンはあまりにも大きいため、行動を止めることそのものが困難だ。

動きを止めるには、パル達の助力も必要になる。


 「耐えるしかない、ってことだね…! でも、街から遠ざけるだけでも!」


 アニィは左手に魔術の盾を構えたまま、右手からはプリズムの線を何十本も放った。

七色の光線はゾ=ディーゴンの胸や肩を貫通し、切り裂く。

当然、破壊した分だけすぐに再生していく。


 「ええ。それにあいつ、上空に魔力を集めてるみたいです。

  何する気かわからないけど、ボク達が止めなきゃ!」

 「ばうっ!」


 鉄弾の散布による街への被害を避けるため、アニィ達はゾ=ディーゴンの眼前まで上昇した。


 《再生するというなら、これは!!》


 プリスは光の糸の束を針状にして飛ばし、アニィのプリズム線が切り裂いた傷口にねじ込んだ。

糸の束は消えず、貫通した穴をふさぎ、傷口の再生を阻む。

痛みはあるらしく、ゾ=ディーゴンは呻いた。傷口こそ巨体に比してあまりに小さいが、効果はあったようだ。


 『グヌッ…小賢シイ… フンンヌゥゥゥ!!』


 だが彼は、恐るべき行動に出た。光の糸の束がねじ込まれた場所の肉を、自らの手で抉り出したのである。

抉れた傷はすぐに再生する。超再生能力を利用した、極めて強引な回復方法だった。


 《無茶苦茶な…!》


 驚愕するアニィ達の隙をつき、ゾ=ディーゴンは痛みを無視して巨大な拳を振るった。

その速度はアニィ達の想像以上に速く、避けようとしたプリスとクラウをまとめて直撃した。


 《ぐぇぇっ!!》

 「ばぅぁああっ!!」


 おおきく吹き飛ばされる2頭。フリーダが後方に左手を突き出すと、緑の指輪が光った。

空中に分厚い空気の壁が発生し、クッションとなってプリス達を受け止める。


 《いってててて…直撃こそ避けましたが、なんて腕力!》

 「動きも早い…わたし達人間とそんなに変わらない!」

 「クラウ、大丈夫!?」

 「ばうっ!」


 体勢を立て直し、アニィ達は再び巨体と向き合う。直後、ゾ=ディーゴンが右手に氷を生み出す。

極低温を操る魔術で大気中の水分を凍結させ、鋭利な破片をいくつも生み出し、その手に握る。

一つ一つがドラゴンの半分近いサイズだ。小片などと言えるものでは無い。


 『フゥゥゥン!!』


 それをゾ=ディーゴンは、上空にいるアニィ達に向けて投げ飛ばした。

邪星獣が通常吐き出す鉄の散弾と比べ、明らかに速度が速い。


 《アニィ、シールド!》

 「うん―――うぐっ!!」


 魔力の盾を構えるより早く、超高速で飛来した氷の刃が、アニィの脇腹や手足、額を切り裂いた。

空中に血の筋が無数に飛び散る。破片一つ一つが大きいため、必然的に傷口も大きくなった。


 「く…ぁっ…」

 《アニィ!》

 「アニィさん!!」


 アニィを落下させまいと、細い体をプリスが翼で支える。激痛にアニィの動きがこわばる。

すぐにそれを察し、フリーダとクラウが前に出た。再び投げられる氷の刃を、フリーダの炎の魔法の壁が瞬時に溶かす。

が、高熱に耐えて突き抜けた数本が、アニィ達を掠めて彼方へと飛んでいく。

フリーダの頬や腕も、突き抜けた氷の刃で切り裂かれ、血が飛び散った。

完全には防ぎきれない―――ゾ=ディーゴンの魔力の強大さは、フリーダの魔法さえ突き抜ける程であった。


 《アニィ、しっかりなさい!》

 「くっ…ぅ…っ…  ごめん、大丈夫…!」

 《すぐ治します》


 プリスは翼を光らせ、治癒の魔術でアニィの傷を癒した。

傷が塞がるにつれ、痛みも引いていく…アニィは呼吸を整え、ゾ=ディーゴンを見据えた。

破壊力が大きいこと自体が脅威だが、防御を突き抜ける程となると、一撃での即死すらありえる。

巨大な邪星獣がどれほどの脅威となるか…アニィ達は身をもって知らされた。



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