4月8日 通勤
今日は、いつもより家を出るのが5分ほど遅れてしまったせいか時計をを見ながら駅まで向かう。朝の通勤ラッシュなのか駅のホームには多くの人々が行き交っていた。俺は、避けるように前に進んでいく。ちょうど、階段を登り切った頃にいつも乗っている時間帯の電車が来たのだった。
なんとか間に合った。ほっと肩をなでおろすように前の人が入っていくのを待った。でも、この順番だと明らかに座れないな。なんとなく憂鬱な気持ちになっていく。それでも、遅れるよりましか。気持ちを切り替えて、ドアの前に立った。
俺がドアが閉まるの待っていると、一人の男性が走りこんでくる。すげぇ勢いだ。間一髪で電車に乗り込むことができた男性は、周囲の視線を一気に釘付けにしたのだった。俺は、その男性とは少し距離をとった。周囲の視線に気がついた彼は、窓に張り付くように座り、混雑した車内で多くの人の肘や荷物の中に自分を埋め込んだ。
俺は、しばらく男性がどういう行動をするのかスマホを見ながら観察をしていた。彼の眼差しは外に向かい、街を通り過ぎる風景を見ているみたいだ。俺が乗った電車は特急だから風景も次々と変わっていく。建物、公園、そして人々。電車に乗ると、一日が始まっていく感じがする。それと同時に俺の心はどんどん重くなっていく。
会社での厳しいノルマ、仕事の責任、そして部下とのコミュニケーション。早くもいく前の時点ですでに疲れていた。それでも前に進むしかない。そう言い聞かせながら、出社しているのだった。俺は無意識にスマートフォンを手に取り、ニュースをスクロールし始めた。さっきの男性は疲れ果てて、乗車して5分ほどで眠りにつこうとしている。俺も、あの男性のように気楽に考えたらもっと楽に生きられるのだろうか?
俺はスマートフォンをポケットに戻し、再び窓の外に視線を戻した。車内の揺れ、電車の音、人々の会話。それらが俺を包み込んでくる。今、近くで寝ている男性にとっては変化のない毎日を感じさせているのかもしれない。俺とは違うこの人だけの人生があるのだ。
窓の外に見える木々と建物を、何度も繰り返すように俺は眺めていると、なんだかやり残した仕事のことが脳裏に浮かぶ。仕事のことはできるだけ考えないようにしていたのだが。ここから、会社まで後50分くらいはかかる。この時間は無駄だから、何度も引っ越すように中村さんや深山さんたちに言われていたが、俺にとっては苦痛の時間ではなかった。




