3月28日 檜和也
俺は、朝イチに来たと思ったら、すでに檜が仕事を始めていた。
檜 「おはようございます」
俺に気づいていた様だった。
俺 「おはよう。今日は、早いな」
檜 「そうなんでよ。山野井株式会社との取り引きなんですよ」
山野井株式会社と言えば、食品系を取り扱う会社だ。契約を結んだのは、たしか4年ほど前だった気がする。あの頃は、まだ入社したばかりだっただろうか?自分自身、まだまだできていないところも多く、相手の会社と向き合うことなんてできなかった。
俺 「あそこかぁ。下山さんになってくろうしてるんだろう?」
檜 「そうなんですよ。なかなか、上手くいかなくて苦戦してますね」
正直、あそこの会社は一筋縄ではいかないことを俺も知っていた。担当したことこそないが、毎回問題が起きていることは俺も聞いていた。
俺 「昼から行くのか?」
檜 「そうですよ。伊東さんは、何しますか?」
檜は、笑顔で俺の方を向いた。
俺 「今日は、採用の人と打ち合わせだよ」
檜 「人事みたいな仕事してますね」
檜のいう通りだ。俺がしないといけないのは、採用の仕事ではなく営業の仕事だ。しかし、比良がいない中で、これ以上の仕事を引き受けることは難しい。それよりも、まずは人が欲しい。これが切実な願いだった。
俺 「人がいねぇからな」
檜 「どっか落ちてねぇんすか?」
檜のいう通りどっかに落ちていることを切実に願っている。しかし、そんな人はいない。俺は、眠たい目をこすりながら、檜と話を続けたのだった。
俺 「落ちてねぇな」
檜 「俺、みたいな奴が入ってきたらいいですよね?」
なんのボケだ。コイツは。
俺 「は?」
檜 「俺入ってきた時、嬉しくなかったですか?」
俺 「意味がわかんないね」
相変わらず、檜は自己肯定感がない。低くなることはないのだろうか?
檜 「もう、困った人ですねー」
俺 「何が困ったんだよ」
俺は、パソコンに手をかけた。
檜 「近くにいなくて、寂しいですか?」
俺 「寂しいわけねぇだろ」
パソコンの中から必要書類を取り出す。
檜 「もう、そんなこと言ったらそろそろ行きますよ?」
俺 「さっさと行ってこい」
檜 「わかりましたよ!」
黒色のリュックを背負い、会社を出る準備を始めたみたいだった。




