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3月19日 電車

 電車のホームには、大勢の人が並んでいた。左右から電車がくるのに、左からくる電車を待つ人が多く、右からの電車を待つ列ができなかった。こんな些細なことに苛立っている自分がおかしくて、笑えてきた。

 メガネをかけた女性は、列に並ぶのを諦めて、椅子でパソコンを開き始めた。子ども連れのお母さんは、マスクをしながら、子どもの手袋を触っていた。俺も、列に並ぶのを諦めて、列の横に一人寂しく電車が来るのを待った。

 昨日に続き、今日も、とても気温が低い。コートを着て、マフラー、手袋もしていたが、寒さを感じる日だった。そう言えば、今日は、同期の飲み会だった。同期の集まりは、月一のペースで行われる。大体、森川と青野中心に企画され、今市と俺がのっかる感じだ。

 ただ、お金がない。この前、散財してほとんど残っていない気がしていた。電車が来るのを待ちながら、俺は、リュックから財布をとりだした。俺の財布は、茶色だ。この財布は、社会人になる前に買ったものだ。たしか、5万近くしたような気がする。今思えば、よく買えたなと思える。

 社会人となった今だったら、こんなもの買わないのにな。心の中で苦笑いを浮かべていた。若いからこそできたことなのだろうな。大学時代が懐かしいな。大学時代だったら許されていた遅刻や敬語の使い方、文章の書き方などありとあらゆる問題が社会人となった今、自身の課題として浮かび上がった。

 1年目なんて、敬語の使い方を注意され続けていた。敬語を話すのが嫌で、先輩とできるだけ話さないようにしたくらいだ。この人たちも社会人になったら苦労するんだろうなと目の前を大声で話す大学サークルの学生たちを見て思った。大学生たちの髪型は、金色やメッシュにしており、とても目立っていた。

 大学生が大声で話しているので、イヤホンの音量を上げた。イヤホンからは、春にピッタリな卒業と別れを綴った堀隆史の『youto』が流れてきた。どうやら、電車がきたようだ。座っていた椅子から立ち上がり、列の横に並んだ。

 後ろに並んでいる大人たちが、不思議そうに俺の方を見てくる。わかってるって、抜かせねぇって。心の声が漏れそうだったけど、なんとか抑えた。電車がつき、扉が開くと、横にいた人たちが電車の中に入っていく。さっき、俺の方を見ていた大人を睨みながら、電車を見つめていた。こんなことで苛ついている自分が情けなかった。俺は、電車の中に入って切り替えようと考えていた。

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