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一党追放  作者: 藤咲晃
一章 クエストの先へ
8/42

レノの決断

 夕方、ゴブリン討伐を完了したことを依頼主である村長ハシマに告げた二人は村人達の手厚い歓迎を受けのだった。

 村人達のご好意で用意された食事にあり付き、歓迎も終わった頃。

 二人は明日に備え宿屋で休むことに。


 充てがわれた宿部屋でレノは、ユキナの背中を思い浮かべた。

 ゴブリンの巣穴から村に帰るまで観察した結果、ユキナの魔力量は出会った当初から一切変動していなかった。

 その事にレノは顔を顰める。

 今日だけで戦闘を何度も繰り広げ、その度にユキナは俊足かつ的確な剣技で魔物を葬った。

 通常、人類は戦闘の際に魔力を利用する。接近して剣を振るうより一発の魔法で魔物を多く討伐できるからだ。

 ただ、魔法ばかりでは継続戦闘能力を欠くため、誰かしら近接戦闘も戦闘技術の一環として取り入れている。

 消費した魔力は食事と睡眠を取ることで回復する。

 それがレノの教わった戦闘と魔力における常識だった。

 だから少なからず魔力を利用した戦闘では魔力は減る。

 しかし、ユキナは如何だ? 彼女は一切魔力が減っていないではないか。

 そこからレノは一つ結論を導き出す。


「魔力が扱えないのか」


 如何するべきかは明白だった。

 レノの頭に浮かぶのはユキナだ。彼女の容姿、戦闘能力、そして魔力が扱えない弱さにレノの胸が高鳴る。 

 腰まで届く長い白髪。赤い瞳から向けられる涼やかな眼差し。小柄で華奢な体格は一見可憐な少女という印象を受けるだろう。

 しかし、一度剣を抜けば印象はがらりと変わる。

 俊足から繰り出される剣技に、無表情ながら凛々しさを感じさせる。

 ギャップの違いと眼が離せない可愛らしい顔立ち。

 そう、自分は彼女に惚れてしまったのだ。


「やっぱ黒狼の時……いや、はじめて顔を見た時から一目惚れしたんだよなぁ」


「それに誰にだって話せない事は有るよな。ましてや欠陥を抱えてますって言える訳がねえ」


 世間の眼は欠陥品に対して薄情だ。

 人類は魔力を神秘的な力、精神の源と定義している。

 そのため欠陥品は魔力を扱えない脆弱な人間として差別されてしまうが世の常だ。

 だからユキナは話したくとも話せなかったのだとレノは思う。


「……一目惚れ抜きにしても即戦力を手放すのは惜しい。それに楽して稼げるのはでかい!」


 早速彼女に伝えなければならないと、居ても立っても居られないレノはユキナの宿部屋に向かった。


 ▽ ▽ ▽

 

 早速備え付けのシャワーを利用したユキナはベッドに寝転んだ。

 ぼんやりと天井を眺める。

 後は寝るだけのひと時。

 まだ就寝には早い時間帯、それでもユキナは寝ようかと瞳を瞑ると。


「ちょっと良いか?」


 ノック音とレノの声に起き上がる。

 何か用が有るのかと考えたユキナは、


「入って良いよ」


 部屋のドアが開き、レノが部屋に踏み込む。


「もう寝るところだったか?」


「ん。でも話しが有るんでしょ」


 ユキナは覚悟していた。レノが解雇通告を告げることを。

 ゴブリンの巣穴からずっと観察する眼差しに彼女は気付いていた。

 そもそも魔力の使用量を隠し通すことなど元々不可能な話しだった。

 だから彼は気付いた。自分が魔力が使えない欠陥品だと。

 町に戻ったらまた振り出しに戻る。

 そしてまた誰かと組む。その繰り返しなのだとユキナは覚悟を決めていた。


「まあ、な。流石に話しておかなきゃなんないと思ってな」


「……うん」


「一党結成はこのまま継続って事でよろしく」


 予想しなかった言葉に、ユキナは驚く。


「何も、聞かないの?」


「誰にだって話したくない事は有るだろ。だから何も聞かないことにしたんだよ。それにアンタは充分に強いってことが分かったからさ」


 彼はそれだけで充分だと言って、


「そんじゃあ明日もよろしくな」


 笑顔を浮かべて部屋を出ようと振り返った。

 そんな彼にユキナは、


「……ありがとう」


 小さく礼を告げた。そこに感情は乗ってはいないが、レノは片手を振り歩き出す。

 見えなくなった彼の背中に、ユキナはベッドに横たわる。

 レノについては出会って一日で何も分からない。

 唯一分かるのは喜怒哀楽が激しく、よく叫ぶ人ということだけ。

 けれど一党を継続すると彼は告げた。なら自分はもう失敗しない様にやって行く。

 そこまで考えたユキナは、


「みんなみたいに優しい人なのかな?」


 ポツリと呟き、そのまま眠りに就いたのだった。

 そして翌日。ギルドに帰還した二人は正式に一党を結成し、アスガルに十一組目の一党が誕生することに……。

明日か明後日には二章更新します。

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