不安
山に続く道は開拓範囲から外れていたのか、人の手が及ばない獣道だった。
凹凸が激しく険しい道のりをユキナは、軽やかな足取りで進む。
「待って! ちょっと待ってくれ!」
疲労を滲ませるレノの声にユキナは振り返る。
少し離れた距離で額に汗を滲ませる彼に、ユキナは小首を傾げる。
「速い、アンタのペースは速すぎるって! もう少し歩調を合わせてくれ」
「日が暮れるよ」
「分かってはいるけどな。何事もペース配分ってのは大事だ、しかもこれから戦闘するならなおさら」
一党のリーダーであるレノの言い分に一理ある。
それに今までも他の一党と足並みを揃えられず解雇されたことも有る。
失敗の経験を踏まえてユキナは頷く。
「分かった」
軽やかに地面を蹴り、ふわりと宙を跳んだユキナはレノの隣に着地した。
「随分と身体能力が高いみたいだな。……魔力で強化でもしてるのか? 俺も戦闘中に身体強化は使うが、アンタほどは無理かもなぁ」
魔力が使えないからこれは素。
頭に浮かんだ言葉をユキナは飲み込んだ。
言えばまたクエスト後に解雇される。そう受付嬢のルイにも言われたばかりだった。
ユキナは付き合いもそれなりに長いルイの助言に従い沈黙した。
「……これでもう少し愛想が良ければ最高なんだが」
レノが何を言いたいのか分からない。
ただ分かる事は、興味の無い言葉。それだけ。
ユキナはレノの歩調に合わせて歩き出した。
ゴブリンの巣穴を目指す道中、レノは積極的にユキナに話し掛けていた。
「ところで今までどんな感じにクエストを達成してたんだ? 俺は【初心者の導き】に従って動いたが」
新米冒険者がクエスト達成に迷わないように助言を書き記した手記を手にレノは彼女を見つめる。
そういえば、と彼女は思う。
今まで細かい手続き、依頼人との接触や達成後の報告も全て兄達がやっていた。
だからユキナは戦闘以外で自主的に自ら動いた事は無かった。
兄達と離れてから漸く気がつく。自分は今まで兄達に頼り切って甘えていたのだと。
レノの質問に中々答えないユキナに彼は、
「あぁ、なるほど!」
何か納得したように声を上げ、ユキナの肩が跳ねる。
ユキナが剣術以外無能という事を彼は分かってしまった。そんな予想にアホ毛が萎れる。
また追放される。そんな言葉がユキナの頭を駆け巡ると。
「最初は寄生型かと思ったが……黒狼の戦い振りを見るに、戦闘面を頼りにされてたんだろう? んで、今まで組んでいた一党が細かい手続きなんかを役割分担してた。そんな所だろ」
何か別方向に勘違いしたレノに、ユキナは否定も肯定もせず無言を貫く。
そもそも寄生型というのも否定しきれない部分があるため何も言えない。
『都合の悪い質問はクールを装って無言! それに限りますよ!』
ルイの助言に従ったユキナにレノは笑う。
「ま、さっきは俺も動揺してたからな。今度は当てにしてくれよ」
元々魔力が扱えないのだから、扱えるレノの方が戦力になる。
そう言った意味を含めてユキナは頷く。
「うん」
するとレノは任せろと言わんばかりに、自らの胸を叩いて見せた。
一章も残り2話!