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一党追放  作者: 藤咲晃
終章 さよなら
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悪魔とアダム

 砦内部は不気味な程に静寂に包まれ、辺りを見渡せどもオークの姿が無い。

 不気味さに隠れて奇妙な気配を感じ取った二人は、慎重に砦内部をしらみ潰しに調べるのだが……何処にもオークの姿は無かった。

 そして程なくして砦の最上階に到着した二人を待っていたのは、赤い皮膚に蝙蝠の翼を生やした存在だった。


「っ!?」


「おいおい、何だってんだよ!」


 全身に鳥肌が立つ。そしてそれはユキナを銀色の双眼で視認すると嗤った。


「よもや契約者が欲していた小娘が現れるとは偶然か? それとも必然か」


 巧みに人語を操り、レノは混乱から疑問を口にしていた。


「あれは魔物なのか? ……赤い皮膚はオーガに近いが」


「違う。あれは地底の奥底の生物……悪魔」


 これまで冒険者として悪魔と何度か遭遇した事は有ったが、その時は【竜の顎】と共にだった。

 もしも上位悪魔の類ならユキナの物理攻撃は何一つ通用しない。ましてやレノの扱える魔法でも擦り傷を負わせる事も難しい。

 ただのオーク討伐が一転、難敵の出現にユキナは剣の柄を強く握り込む。

 二人が警戒を最大限に睨むと悪魔は囁く。


「我は下位中の下位悪魔、病魔だ。我、驚くほど弱いぞぉ?」


 悠長に語る病魔にユキナとレノは互いに顔を見合わせる。

 彼は自らを病魔と名乗った。

 そして村に風邪が流行し湖で発見された白馬の一角獣。森の中で発見されたオーク。

 それが起こったのはたった一日の間。

 つまり彼がファルス村に風邪を流行られた元凶であり、エデンの暗躍を裏付ける証拠に他ならない。


「……討伐すりゃあ報酬増えるか?」


「悪魔一頭の討伐報酬金は金貨一枚相当だよ」


 それを聞いたレノは両腕に魔力を込める。

 ユキナも同様に剣を構えると……一瞬視界が揺らぎ胸が熱く鼓動した事に違和感を覚える。

 だが、ユキナは気の所為と判断して駆け出そうと足に力を入れた。


「待て! その小娘を我に差し出さなければファルス村が滅びるぞ」


 病魔が脅しの言葉を吐き捨てた。

 その言葉にユキナは足を止め、構えた剣を下げた。

 自分が原因で無関係な村が巻き込まれるのは容認できない。

 その考えから病魔に一歩踏み出す。

 しかしユキナが病魔の下に向かうよりも速く、レノの拳が病魔の顔を殴っていた。

 放物線を描いて宙を舞う病魔にユキナのアホ毛が驚いた様に立つ。


「バカじゃなのか!? 誰がユキナを渡すかバーカ!!」


 病魔は木製の床に転がり、歪んだ顔を抑えながら立ち上がる。


「村よりも小娘を取ると?」


「ユキナは渡さないし村も犠牲にしねえよ。だってよ、お前を倒せば問題無いだろ?」


 レノの指摘に病魔は嗤う。


「死を持って禍いを振り撒く呪法が有る。病魔というのはそういう存在だ。かつてデスコロット風邪によって何千と死に追いやったあの病気も病魔の仕業よ」


「……じゃあ私が行けば村は無事?」


「悪魔は嘘を吐かない。契約者の下へ貴様を届けるのが……はぁ?」


 それはあまりにも突然だった。

 背後から光の刃が病魔を貫き、最上階に声が響き渡る。


「薄汚い悪魔風情が……穢れしその身を光を持ってして浄化せよ」


 詠唱と共に光の刃が輝きを増し、病魔が絶叫をあげると彼の身体はあっさりと光と共に消滅して行った。

 そしてその場に残った人物にユキナは剣を構え直す。先ほど感じた胸の鼓動はより一層激しく、確実にユキナに何かを訴えるように脈動する。

 しかしそこに苦しさも熱も無い。ましてや不快感を感じさせない胸の鼓動に疑問を抱きながら、現れた人物の名を告げる。


「……アダム」


 剣を向けられながら名を呼ばれた彼は微笑みながら軽く手を振り、


「やぁ、あの晩以来だね」


「ユキナ、アイツはエデンなのか?」


「うん。エデンで間違いないけど……あの悪魔はエデンの残党が差し向けた病魔じゃないの?」   


「薄汚い悪魔が僕の通り道に居たのが悪い。それに浄化魔法による討伐だから村の心配は無いよ」


 我が物顔で語るアダムにユキナは小首を傾げた。

 彼が立っている場所は最上階の窓辺だ。どう見ても人が通る道は無い。

 

「道は無いよ?」


「空も僕にとっては道と同義さ」


「……村に病が蔓延しないのはほんと?」


「本当さ。それよりも君と改めて話がしたい」


「訳が分からねえ。……ってかいい加減ユキナに執着するのは辞めろよな!」


 レノの啖呵にアダムはどこ吹く風で笑って返す。


「僕の存在意義にも関わるから無理な話しだね」


「存在意義?」


 ユキナの疑問にアダムは彼女に対して優しげな眼差しを向けた。


「そう。僕はアダムとして名を与えられ産み出された。偶然連中が発見した【アダムの種子】を植え付けてね」


 種子という単語に、暗い地下牢で何かの種子を身体に植え付けられた記憶が蘇り、ユキナの顔が青く染まり次第に呼吸が荒くなる。

 胸の奥底に溶け込んだ誰かの想いが脈動するような感覚にユキナは困惑しながら、アダムに警戒を向ける。

 

「連中ってのはアダム教団と敵対しながらアダムとイヴの再誕を試みた。その結果、僕は産まれ沢山の子供たちを犠牲にイヴを産み出した」

 

 アダムの話しにレノは訳が分からないと言いたげに頭を左右に振る。

 しかしユキナには決して無視できない話しだった。

 何せエデンの実験によって犠牲になった子供たちで生き残っているのは自分とアスベルだけだからだ。


「ユキナはあまり覚えて無いだろうけど、あの地下牢で君と兄以外に生きてる者は居なかったよね?」


「……あの光景は夢で見る」


 忌々しい悪夢の一つだとユキナが答える。するとレノの手が肩を掴んだ。


「大丈夫か? 辛いなら下がっていいんだぞ」


「それは困るなぁ。僕は彼女と話す為にわざわざ騎士を誘導してまで姿を見せたんだ」


「誘導だって?」


「うんざりする連中だからね、今頃騎士に捕縛なり殺害なりされてる頃合かな」


 かつての仲間を平然と切り捨てる言動にユキナのアホ毛がはてなを形作る。


「……仲間じゃないの?」


「あんな連中が居なければ僕も産まれなかったし、君も感情を失わずあんな目に遭うことも無かったよ。ましてやあの子達まで死ぬことは無かったんだ」


「……先から聴いてればアンタは、償いたいのか?」


「そうかもね。……業腹だけど僕がこの先生きるには【イヴの種子】を持つユキナが必要なんだ」


 アダムの発言にレノは一瞬呆け、そして拳を強く握る。


「結局はアンタもユキナが狙いなのかよ!」


「怒鳴るなよ。僕が連中に生み出され今日までやって来た贖罪が果たせないとなっては意味が無い」


「私を利用するつもりじゃ?」


「確かに利用かもね。何せ僕は君と居なければ恐らくは一週間以内に身体が朽ち果て死ぬ。それじゃあ何の意味も無い」


 アダムが真っ直ぐ見詰める瞳に嘘が感じられない。

 同じくエデンによる被害者としてユキナは、少なからずアダムに同情心を感じていた。

 同時に、もしもあの時植え付けられた種子が【イヴの種子】だとすれば自分も長くは無いのかもしれない。

 いやそれよりも兄もエデンによって何かしらの実験を施されていた。

 つまり彼にも死が迫っているのでは無いかとユキナは不安に駆られ、

 

「……お兄ちゃんも死んじゃうの?」


「アスベルは死なない。何せ彼に【アダムの種子】を植え付ける事は叶わなかったそうだ……まあ彼の場合は僕の予備だったらしいけど、流石は竜の精神を持つだけは有る」


 それを聞いたユキナは安堵の息を吐く。

 そしてレノに視線を向けてからアダムに視線を移す。

 彼は贖罪したいと本心から語った。なら責めてその足場を作る事に協力しても良いのではないかとさえ思う。


「……アダムは冒険者になるつもりは無いの?」


「おい何を? いや、よくよく考えればそれが最善だよなぁ。結局アンタもユキナと同じく人生歪められちまったようだし」


「甘いなぁ。世間はそれほど優しくは無いよ。現にユキナと違って僕は自分の意志で行動した、これは大きな違いだ。もしも君達とアスガルに向かえば僕は騎士に捕縛、あとは牢獄で処遇を決められる。その間に僕が死ぬ可能性が高いし何よりも先の事を考えるといま死ぬ訳にはいかない」


 確かに彼の言う通りかもしれない。騎士が罪人の処遇一つ決めるのに一、二週間程の時間がかかる。

 同時になぜ彼が今はまだ死ねないのか。贖罪の意味も有るのだろうが、ユキナにはそれだけじゃないように思えて仕方なかった。


「先に何か有るの?」


「空に浮かぶ【楽園】が崩壊した時、地上を身を挺して救ったのがアダムとイヴの二柱だった。その記憶と言えば良いのか、いずれ残りの破片が地上に堕ちる」


 アダムの言葉にユキナは空を見上げた。

 月と共に浮かぶ砕けた【楽園】が相変わらず映り込む。

 ただ、ユキナが空を見上げていたのは単に好きだからではなかった。

 あの【楽園】がいつの頃か酷く気になり、ふとした時には空を眺めていた。

 

「……あれが空から? それって大崩壊の再来ってことか」


「そうなるかな。まあ、自分でも随分勝手な事を言ってると思うよ。……けどあの晩ユキナを連れて行こうしたのも事実だけど」


「……そういえば」


 あのパーティーの日にアダムはユキナを何処かに連れて行こうしていた。

 彼なりの事情を理解したいま、ユキナは頭を悩ませる。

 一週間後に死ぬかもしれないアダムと一党に誘ってくれた恩人のレノ。

 何方と共に有る事は叶わない。

 それでもアダムは死なせてはならない。そんな直感のような感覚が胸の奥底から語りかけて来る。


「……アダムを匿いながら冒険者を続ける?」


「……ユキナ、流石にそれは無理だろ。そんな事をすればアンタだけじゃなく、きっと両親だって咎められるだろ」


「君の言うことも一理ある。ユキナにとって愛すべき家族に危害が及ぶのは許せないだろ?」


 妙案だと思い提案したが、二人に咎められユキナのアホ毛が力無く垂れる。


「……ごめんなさい」


 謝ると複数の足音が背後の扉から響き渡った。


次回は最終話!


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