質問に答えたのに……
早速一党を組んだユキナとレノは、クエストを請け馬車に揺られていた。
「お二人さん、魔物が来たら頼みまっせ?」
「大丈夫だって! その変わりアンタは……」
「お二人さんをシュルク村まで乗せる。分かってますよ」
二人が請けたクエストとは、シュルク村の畑を荒らすゴブリン討伐だ。
レノはもう少し骨の有るクエストを熱望したが微笑む受付嬢の、
『新米が調子に乗るな』
一言に渋々用意されたクエストを請けたのだった。
そんなやり取りを思い出したレノは若干不貞腐れ気味に、隣に座るユキナに眼を向ける。
「しかしまあ、ゴブリン討伐なんかよりももう少し報酬の良いクエストの方が良かったよな?」
ユキナに同意を求めるレノに、彼女は眼を向ける。
「クエストなら何でも良い」
「あー、つまりクエストは選ばないってことか」
レノの問い掛けにユキナは黙り、青空に眼を移す。
なんともやり辛い仲間だ。
可愛いが、物静かでクール。しかし赤い瞳から受ける印象は涼やかな眼差し。
それはまるで瞳の色とは違う相反する色が同居してるようだとレノは感じていた。
ただ可愛らしい容姿とは違って眼を惹くのが、彼女の腰に携帯された剣だ。
それは長剣にしてはデカく大剣にしては小さな剣だった。
小柄で華奢な体格とは不釣り合いな剣に、しっかり扱えるのか一抹の不安が過ぎる。
「……なに?」
先から感じるレノの視線にユキナは小首を傾げる。
「い、いや、何でもない」
頬を赤くして顔を背ける彼に、再度小首を傾げた。
「……ちょいとお二人さん、早速仕事になるかもですね!」
業者の焦ったような声に二人は同時に前を振り向く。
馬車の前方に見える黒い狼の群れに、レノと行商人が弛唾を飲む。
それは黒狼と呼ばれる魔物で、雄を中心にした群れ獲物を狩る狼種だった。
俊足と灼熱の魔法を持ってして狩る平原の狩人として新米冒険者には脅威とされる魔物としても有名だ。
まだ互いの連携も明確な実力も分からない新米冒険者一党が、統率の取れた動きに翻弄され喰い殺される。
故に新米冒険者のレノと彼が新米である事を知っている業者は汗を滲ませた。
馬車に刻々と迫る黒狼の群れ、馬車の進路を変えたとしても一度補足されたら最後、決して逃げる事は叶わない。
残された手段は戦う他に無い。
「馬車、停めて」
ユキナの鈴のような声が、緊迫する二人に届く。
既に剣の柄に手をかける彼女にレノは若干狼狽えた。
「まさか、挑むつもりか?」
「ん」
涼やかな瞳で頷く少女に、レノは頭を掻く。
彼女がやる気になっていると言うのに、自分が弱気になっていてはダメだ。
闘志を沸き立たせレノは立ち上がる。
「おっちゃん! この子の言う通りに!」
「……仕方ない! 俺も魔法で出来る限り援護しやすから、どうかお気を付けて!」
迫る群れを前に馬車が足を止め、ユキナが弾けるように馬車を飛び出す。
地に脚が着く瞬間、彼女は大地を蹴り剣を引き抜くと同時。
ユキナは疾風の如く、群れに剣を振り抜く。
水平に走る刃が黒狼の首を斬り、血飛沫が舞うよりも早く次の獲物を斬る。
突如襲来した獲物に黒狼も炎の爪や火球を武器に立ち向かう。
振り抜かれる炎の爪、飛来する火球にユキナはまま向けず避ける。
そして少女は無心で淡々と作業を繰り返す。
決して足を一度も止めず、飛来する魔法を避けながら斬るという作業を。
馬車に残された二人は、血飛沫が舞い悲鳴染みた鳴き声、ついでに黒狼の頭部が舞う光景に呆然としていた。
魔法による援護と格闘術を交えた立ち回りで黒狼を迎え撃つ。
レノが頭に描いた展開は、ユキナが真っ先に飛び出したことで消えた。
同時にレノと行商人は、勇ましく一人で群れを蹂躙するユキナの姿に胸がキュンとなった。
彼女が飛び出して一分も経たない頃。ユキナは剣にこびり付いた血を払い鞘に納める。
屍化した黒狼を背にゆっくりとした足取りで馬車に戻り、
「終わったよ」
アホ毛を揺らして座席に座った。
「お、おう。一体どうやったんだ?」
あくまでも参考程度に質問したレノに、ユキナのアホ毛が揺れる。
「シュッと行ってズババッよ」
擬音と手振りを交えて答える彼女に、
「そっかぁ……って、分かるかぁぁぁぁ!!」
レノは精一杯叫び、それに驚いたユキナの肩がビクリと跳ね、馬車がシュルク村に向けて走り出す。