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一党追放  作者: 藤咲晃
四章 海底に潜む謎の生物
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話し合う二人

 幽霊騒動から速くも四日が経過し、アスガルは日常に戻りつつ有った。

 怪我も癒え、毒も抜け切ったユキナは無事に退院を果たした。


 退院後、程なくしてユキナはアデュクに面会した。

 自分が捕らえたことによって彼の身に何が起きるのかを正しく理解するため。そしてエデンの次の目論見に付いて。

 しかしアデュクはユキナの問いに答える事は無かったが、


『貴公の居る所に過去の影有り、恐らく奴もその内姿を見せるだろう』


 それだけ言い残してアデュクは、拷問による疲労のせいか眠りに付いた。

 そして用事を済ませたユキナはレノが待つギルドに向かったのだが……。


 ▽ ▽ ▽


 静寂が漂うギルドの酒場、日頃の喧騒が嘘のようにこの場にはレノとユキナの二人だけ。

 対面に座り黙り込むレノにユキナは不安に駆られていた。

 一度でも負傷した欠陥品は使えない。だからまた一党から追放されるのではないかと。


「……追放?」


「へっ? 何でユキナを追放しなきゃならないんだ?」


 二人はお互いに首を傾げた。

 ユキナは追放の話しかと思い話しを切り出したのだが、どうもレノは違うらしい。

 なら依頼よりも大事な話しとは何か。

 赤い瞳でレノを見つめる。すると彼は意を決したのか、恥ずかしげに口を動かした。


「あのよ……俺はアンタの事を何も知らない。過去も今まで何処の一党に所属してたのかさえ。それに出自とかさ」


 つまり彼は自分の事を知りたいから話しをしようとしている。

 そう結論付けたユキナは、少しだけ考え込んだ。

 まだ真っ白な彼に忌々しい過去の全部を話せない。

 それにこうも思う。過去を知って仲間から同情の眼差しを向けられ哀れられるのは苦痛だと。

 何よりも哀れまれる資格など無い。


「全部は話せないけど」


「それは、俺がまだ信頼足り得ないってことか?」


「そうじゃないけど……こういうのは段階を踏むのが大事? って義母が言ってた」


「なるほど? それじゃあ教えられる範囲で教えてくれ」


 範囲を限定するなら教えられる。そう考えたユキナに、不意に不公平という言葉が過ぎる。

 そういえば自分もレノに付いてまだ何も知らない。歩み寄ろうとしなかったからだ。

 だから今まで失敗を重ねてきた。反省はするが中々実行に移せない現状に、ユキナは意を決する。


「ん。その代わりレノのことも教えて」


「お、おう。俺の事はなんでも教えるぞ」


 ユキナは眼を閉じ、過去を振り返るようにぽつりと語り始めた。

 兄にアスベル・テュラリアが居ること。

 身寄りが居なかった二人はエデンで育てられたこと。

 エデンの人体実験によって感情が湧かなくなり、何事にも無関心になったこと。

 エデン壊滅後はテュラリア公爵家に養子として引き取られたことを。

 酷く長く感じるような時間をかけてゆっくりとレノに話した。

 彼はその都度エデンの行いに怒り、泣き、忙しなく表情を変えては静聴を続ける。

 そして十一歳の頃に兄と冒険者になり、この地に来たのだと伝えると。


「……家族は優しいか?」


「うん。欠陥品でも受け入れてくれた優しい人たちだよ」


 血に汚れた事実を誤魔化しながら伝えるユキナに、レノは察したような表情をしながら笑ってみせた。


「そっか。いい家族に恵まれて良かったじゃないか。それにテュラリア公爵家って事はユキナも一応貴族ってことか?」


 社交会やテーブルマナーを初めとした教養は一通り学んだが、自分が貴族かと言われると分からない。


「……うーん? その辺はよく分からない」


「ま、その辺は別に良いか」


「レノは貴族嫌いじゃないんだね」


「おう。そう言えばまだ話して無かったと思うが、俺の夢は冒険者として貴族に成り上がることだからな。そして悠々自適な生活を送る」


 前々から楽して稼ぎたいと語っていた。

 それに冒険者を目指す者の大半は貴族に成り上がる事を夢見てる者達が多い。

 レノもその例に漏れないのだろう。


「じゃあ、前人未到の踏破と開拓村を発展させないと」


「だよなぁ〜。その為には資金が必要なんだが、やっぱ一年は堅実にアスガルで名を売った方がいいか」


 恐らく名も無き大陸の最南に位置するであろうアスガルを基点に何処へ向かうのか。


「何処の土地を開拓するかは決まってる?」


「北は【竜の顎】が活動してるからなぁ。それに俺の実力はあの土地に踏み居るには足りねえ。なら西か東か」


 行き先と今後の方針に悩むレノにユキナは何も言えなかった。

 今までも行先を決めていたのは兄達だからだ。

 こんな時、自主的に提案や助言ができれば一党としても上手くやっていける。

 ただ、先の方針よりもユキナは彼の話しを聴きたいと思った。

 自分の話しはある程度したが、彼はまだ多くを語ってはいない。


「方針は今後にね。今はレノのことが知りたい」


 そう伝えるとレノの顔が赤くなった。

 

「お、おう。俺はイーリスのマルゼン領に在る小さな農村の孤児院出身だ」


「孤児院の生活は幸せだったの?」


「……当時の事を考えれば多分、恵まれたんだと思う」


 懐かしむように語るレノに、ユキナの表情が僅かに柔らぐ。  

 何故かは明白だ。自分達の様な被害に遭っておらず、孤児院の生活を恵まれていたと語れる彼は幸せだったと感じたからだ。

 

「おっ。笑った顔も可愛いな、もっと笑えれば良いのに」


 言われてユキナは試しに口の両端を指先で上に引っ張る。

 するとレノは口元を抑えて顔を背けてしまった。

 きっと良くはなかったのだろう。

 そしてアホ毛が萎れるのはきっと、自然に笑えない自分が不甲斐ないからだ。

 

「……笑えなくてもいいもん」


「あっ、もしかして気に触ったか?」


 決してそんな事は無いが、笑えない自分と笑って欲しいと言うレノ。

 彼の期待を裏切ってる事に申し訳なく思う。


「別に」


「あー、ならクエストに行くか?」


「ん」

 

 頷くと依頼書を手に持ったルイがこちらに近寄り、


「丁度話しも終わったようですね。……実はこんなクエストが来てるのですが如何でしょうか?」


 そう言ってルイが見せた依頼書は、アスガル海域の生態系調査だった。

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