超ど田舎出身の俺が王都に行ったら英雄になったんだが
ろくに舗装がされていない荒れた田舎道をガタゴトと一台の馬車が通り過ぎてゆく。
そんな風景を尻目にかけながら、道中散々と口にしたあの言葉をまた呟いてしまう。
「はぁ、金さえあれば……」
◆
俺の住んでいた場所は、『超』が何個もつくような超ど田舎な村だ。いや、あれはもはや村ではないな、廃村だ。
まず住民だが、俺しかいない。いや、正確には俺もあの村を出てきた身なので今は誰もいないことになる。住民が俺以外いない村なんてもはや村でもなんでもないが、一応俺が12歳になるまでは住民はいた。3人だけな。あ、もちろん俺も合わせて。そんな経緯が一応あったので俺は意地でも住んでいた場所を村と言い張る。
次に暮らしについてだが、金などというものはあんなところでは不要だったため、もちろん自給自足だった。住民どおし(3人だけ)での物々交換もしていた。だが、俺以外に住民がいなくなった後は、完全に自給自足だけになり、前よりもさらに厳しい生活を送るようになった。
そのせいで、毎年冬が近づいてくれば物凄い憂鬱になったし、本格的に冬になった時は飯を食べたり、用を足す以外は基本丸まっていた。じゃなきゃ寒すぎて死ぬし。
ちなみに住んでいた場所は洞窟です。あ、他の住民2人も洞窟に住んでました。
他にも色々と説明したいこともあるが、そんなことしてたらキリがないので今はこの辺までにしておく。また機会があったらその時紹介しよう。
そして俺が村を出た理由だが、実に至極普通なものである。
寂しい
住民がいるまではよかった(3人)。たまに会話することはあったし、狩りで大物を取ってきた時はみんなで仲良く分けあって一緒に食べたりもした。
だがそんな日々はいつのまにか消えていた。
最初は大丈夫だった。俺1人だけで暮らせるのかと不安に思うことも多々あったが、そもそも俺たちには協力の『き』の字もないほどには他人に干渉しないように生きてきた。え、一緒に食事をした仲じゃないのかって?
確かに一緒に食事はした。でもよく考えてみて?たった3人だよ?しかも自給自足だよ?食事の取り合いなんて当たり前だったし、しまいにはナイフで俺を刺し殺そうとまでしてきたからね?ん?じゃーなんで食べ物を分けあったりするのかって?いや、大物だよ?まず俺たちは洞窟の中で暮らしてたからそんなもん保管しておくスペースなんてないし(俺はあった)、かといって外に置いといたら俺たちが勝手に盗んで食べちゃうし。だったら最初から均等に分け合ったほうが争いも起こんないしいいんじゃね?っていう感じになったから仲良く分けてるんだよ。ま、争いは普通に起こってたけどね。
でもね、よくよく考えたら俺はそんな日々をなんだかんだいって楽しんでたんだよ。娯楽なんてものは無い、こんな殺伐とした日々を。
当時はめんどくさいなって思ってた。こんな日々がいつまでも続くんだって思うとストレスでハゲるかと思った。でも、心のどこかではこんな日々でも嫌になれない自分がいた。
だからなのか。当たり前だった日々が消え去ってしまった途端に寂しくなった。俺は一生、1人でこの洞窟で暮らしていくのかと思うと、涙が溢れてだしてきて、気がつけば俺は一晩中泣いていた。
そして次の日(今日)、俺は決断した。
村を出よう、と。
あの時(5時間前)の俺は何故だかよくわからんが「今の俺ならなんでもできんじゃね?」と勝手に思い込み、何の荷物も持たずに意気揚々と村を出た。
だがしかし、そんな気持ちも長くは続かず、ついには「…はぁ、金さえあれば」と呟く周りから見たら悲しいやつにしか見えなくたっていた。戻りたい、あの頃に(5時間前)。
「ま、あんなところから持ってくるものなんてなんもないんだけどな」
そうだ、そう思え。いつまでもこんな暗い雰囲気なんて纏ってないでもっと明るくいこう。ポジティブシンキングだよ、ポジティブシンキング。
そこからの俺は気持ちを入れ替え――ることなど到底できず、王都までの長い道のりをとぼどぼと1人寂しく歩いていくのであった。
◆
「あー!」
それは村を出てから1週間ぐらい経った日の午後のことだった。俺は、あまりにも心に余裕がなさすぎてあのことをすっかりと忘れていた。
「俺、魔法使えるじゃん……」
そう、魔法だ。なんで俺はこんなことを忘れていたんだ!そしたら水のためにわざわざ森の奥深くまで水場を探しにいく必要なんてなかったじゃないか……!
「なんてことだ。村の生活では魔法は常日頃使ってたではないか……何故そんな当たり前のことを忘れていたんだ、俺は」
反省は後でする。だから、水を!今すぐ水を出せ、俺!
水を掬うときの手の形をし、そこに水が出てくれと念じる。すると、まるで手の中から水が出てきたかのように水が現れた。俺はその見慣れたはずの光景に何故か感動した。そして、ゆっくりと水を飲んだ。
「う、うますぎる……!」
水、なんの変哲もないただの水。だが今この瞬間だけは、今まで飲んできた飲み物の中で一番上手く感じた。
「これなら、王都まで歩ける。いや、飛んで行こう」
折角魔法のことを思い出したのだ。歩くことなどせず飛んで行けばいいじゃないかと思った俺は、飛んで王都まで行くことにした。
その後の道のりは魔法のことを思い出したおかげで幾分か余裕を持って行動することができた。
今までの道のりでは何度も言うとおり余裕がなかったため、食事などは食べられる雑草でなんとか食いつないでいた。
そして道中、でデカい羽の生えたトカゲや真っ黒なトラを何度も見たりして何度も思った。
食べたい。と
でもそれは無理なことだった。さすがの俺でも生肉は食えないし、そもそも倒す手段さえもなかった。さらには保管する手段も。だが、今は違う。生肉を焼くための火は魔法で出せる。魔法で風の刃でも出せばあんなやつら容易く倒せる。保管だって魔法を使えばできる。
これは、俺にもよくわからないが「魔法使って食べ物の保管とかできねーかなー」って思ってたら、突如俺の目の前に真っ黒な渦が現れ、なんとなくその中に食べ物を入れてみると感覚的に「あ、これは保管をするための魔法か」と思ったのでそこから特に何も考えずにこの魔法を使っている。ちなみに、この感覚は当たっており、渦の中は時間が止まっているらしく食べ物が腐ることはない。
この瞬間、食料問題は解決した。雑草卒業である。
これで道中何度も見た、でデカい羽の生えたトカゲや真っ黒なトラを気軽に食べることができる。
そんな道中を何日も繰り返し、俺はついに目的地に着いた。
王都だ。
◆
村を出てから1ヶ月、俺はやっと王都に着いた。本当にここまで長かった。最初、どれだけ心が折れかけたか……だが、それも今日で終わりだ。
しかし悲しいかな。同時に、俺は頭からすっかり抜けていたあることを思いだした。
金がない。
当然、街に入るには身分証が必要不可欠。しかし俺はそれを持っていない。つまり、発行しようとしても金がない。
仮に身分証無しで中に入れたとしよう。その後はどうしよう。宿代は、払えない。冒険者になって今日泊まれるぐらいの宿代を今日中に稼ごうとしても、冒険者になるための登録料が払えない。
考えろ、考えるんだ俺。
そして考えて考えた結果、あることを思いついた。
「道中で倒したやつらの素材とか、売れないか?」
いや、わかっている。そういうものはちゃんとした施設で買い取ってもらわなければいけないことぐらいわかっている。けれど、今はそんな常識的な考えでいられるほど俺に余裕はなかった。
「すみません!この素材ってここで売れますか?!」
「ん?ここは冒険者ギルドじゃないんだからそんなもん門番の俺が買い取れるわ――
――って、それぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!?!」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ?!」
なんだ?!急に大声出すとビビるからやめてくれよ!俺まで大声出しちゃったじゃないか!
「お、お前、そ、それど、どこで、拾った、ですか?」
ん?なんかこの人喋り方がおかしくなってるぞ?後これは拾ったんじゃなくて――
「俺が倒しました」
「……んー?いやー、最近おじさん難聴でな?よく聞こえんかった。で、どこで拾った?」
「だから、俺が倒しました」
「……マジ?」
「マジ」
「……」
え、なんか急に黙りこんじゃったんだけど。もしかして、こんな安そうな素材売れないとか?
「……す、すまん。ちょっとおじさん、偉い人呼んでくるわ」
「……ん?」
そう言って門番の人は街の中へと走っていってしまった。
もしかして俺、この素材が安すぎて誰も売らないようなゴミで、だけど俺はそれを売れませんかって物凄い勢いで頼み込んじゃったからギルドの偉い人に聞きにいってくれたのか?
あの人って、結構良い人だな。
てか、普通に考えてみろ。いくらでかい羽が生えていようがトカゲはトカゲだ。そして俺が今出したのはそのトカゲの素材。確かに、たかがトカゲの素材を売ってくださいとか常識的に考えて頭のおかしいやつじゃないか。
やばい。そう考えると俺ってくっっっそ恥ずかしいやつじゃん……
こみ上げてくる羞恥心に顔を真っ赤にしていると、さっきの門番の人が走ってくるのが見えた。
――赤い鎧を着た集団を連れて
も、もしかしてあれって騎士団ってやつだよな?あれか、ギルドでは安すぎて買い取れないからわざわざ騎士団が俺のくっっっそ安い素材を買い取ってくれるようとしているのか?……あぁ、なんて、なんて優しい人たちなんだ。あの村にいた住民とは雲泥の差があるじゃないか。
「で、本当にドラゴンの鱗を持ってきたやつがいるのか?」
「は、はい!こ、この少年です!」
ん、ドラゴン?いやいや、俺が持ってるのはトカゲの素材で……あぁ、考えるだけでも恥ずかしい。
「すまん、少年。さっきこの門番に見せた素材とやらを俺にも見せてくれないか?」
「わ、わかりました。これです」
やっぱり。めっちゃ目開いて素材を凝視してる。そうだよな、そりゃ驚くよな。まさかトカゲを見せられるとは思わないよな。はぁ、俺は国を守る騎士団になんでトカゲの素材なんか見したんだろ……
「……英雄か」
はは、ついにバカにされてしまったよ。トカゲを国の騎士団に買い取ってもらうような恥ずかしいやつは、まさに英雄だよな……
「……まさかこんな少年が、な」
そうです、こんな恥ずかしい少年が英雄なんです。
後ろを向いて笑いを堪えてるのはわかっています。俺を意地でも傷つけないように笑っている顔を見せないようにと配慮しているのはすっごくわかります。
騎士の団員のみなさんも、そんな肩を震わせるほど耐えなくてもいいですよ。思いっきり俺のこと笑ってください。なんせ、トカゲなんですから……
「「え、英雄だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
「おいお前ら!何ボケっとしているんだ!胴上げぐらいしたらどうだ!」
「「は、はっ!」」
ちょっ、さすがにそこまでしなくてもいいですって。たかがトカゲの素材を売りにきただけなんですから。確かに、胴上げをされるのは中々気持ちの良いものだけど……あ、違う。これはもしかして――
――俺が内心では恥ずかしい気持ちでいっぱいなのを瞬時に理解して、そんな俺を喜ばせようとしているのか?
あぁ、そうだ。そうに違いない。なんて、なんていい人たちなんだ。初対面の俺にそこまでしてくれるなんて……
よし、俺は決めた。この街の騎士団に入ろう。
そうして俺は変な勘違いのおかげで、この街で騎士団に入隊することを決めたのだった。




