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夏の星

作者: 高石すず音

先の大戦に関するセンシティブな内容を含む作品です。

ご了承の上、ご覧下さいますようお願い申し上げます。

実家の蔵で見つかった桐の箱

祖父のまた祖父が遺した宝物


「三郎 思出おもいでの栞」

一冊の綴じ本が収められていた


三郎さんは、祖父が実の兄のように慕い

孫達にその話をきかせていた、憧れの人


遥か昔、東京や旧満州から届いた書簡が

古いものから順番に整然と綴られていた


士官候補生として、

勉学や教練に励む日々のこと


努力の末、

陸軍見習士官に任ぜられた日のこと


万年筆で力強く、

任務の合間を縫って記された数多の手紙


たった一通、

裏側に地名が書かれていた


「行先はノモハン」


三郎さんは、ハルハ河畔の激戦で

国と家族のために若い命を捧げた


二十三年の生涯だった


最後の手紙に書かれていた

「御父母様、神様より外に知る者の無い運命の為に、余り御心配の無き様。皆々様の御壮健を永久に御祈り申上ます。では今一度さようなら」


菊の刺繍を施した布表紙をめくると

在りし日の三郎さんの姿があった


筋骨逞しい体つき

星章をつけた凛々しい軍服姿


若々しく澄んだ瞳

どこか懐かしい、末広がりの眉毛


祖父の家系の男子の顔つきだった


三郎さんの想いは今、

故郷の家族と共に在る


夏の星 父祖の足跡 辿りけり


彼方の空より見そなわす

君の御霊みたまにこの詩を捧ぐ

「ノモハン」は、当時の満州国とモンゴル人民共和国の国境線付近の地名「ノモンハン」のこと。1939年、両国の実質的な後ろ盾であった大日本帝国陸軍とソビエト赤軍の間で大規模な軍事衝突が勃発した場所です。なお、本文中の引用箇所は、手紙の表記そのままとしました。


参考: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』<https://ja.wikipedia.org/wiki/ノモンハン事件>

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― 新着の感想 ―
[良い点] 企画より拝読いたしました。 丁度この企画がやっていた時期は戦争のことを振り返る時期でしたから、自分も特攻隊の遺書とかを動画で見て切ない気持ちになっていました。 戦争に行く前に手紙を残した…
[良い点]  心に迫るものがありました。  ちなみに。  母の兄二人が戦死しています。  父も国内ですが召集されています。  父は終戦直後、貨物列車の荷台に乗って広島を通過したそうで、その時に見た光景…
[良い点] うおおおーーん! ううう…… ぐすん…… なぜか『竹林はるか遠く』って話を思い出しました…… [一言] 知覧の回天記念館に行ったことがあります。 特攻隊員の遺書ってめっちゃ泣けました……
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