暗殺スキルの授業
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元気よく挨拶をしたウィンは、黒板に自分の名前を書き、それから再び前を向いて、教壇の前に立った。
なんだかちゃんとした大人に見えてしまって、違和感がある。いつもは、だらしのない格好で、牢獄でのんびりと過ごしているからな。一応仕事はしていると聞いていたが、まさか教師をしていたのとでも言うのか?ちょっと……いや、かなり、イメージと違う。
「に、人間の先生?」
「珍しいよね。最近は、見なくもないけど、生で初めて見た」
「確か、DJマックスも人間だよね」
クラス中が、ウィンの登場で騒がしくなる。人間自体は、このグラムにとって、珍しくもないものになりつつあるが、その人間が教師をするというのは、珍しい。
表面上は、一応人間と我ら魔族は、敵同士だからな。敵に、教育をするとか、そんなのまずありえない事だ。
そもそも、教員になるには大学を出て、人に勉強を教えられるくらいよく理解して、頭が良くなければなれないものだ。それは、数学などの計算もそうだが、体を使うものに関しても、言える。
ウィンに、とてもではないが、それだけの知識があるとは、到底思えないぞ。
「はい、お静かに!うちが臨時の特別講師をする事になったからには、うちの言う事をよく聞いてもらうっス。無駄口は許さないっスよー」
「……」
意外にも、割と厳しそうな教師っぷりだ。大きな声で、教壇に立ってそう威嚇するウィンは、中々大した迫力である。その迫力に、教室は静まり返る事となった。
「……ウィンよ。質問だ」
そんな中で、我は臆さずに手を挙げた。なにせ、ウィンと我は、友達だからな。そんな迫力を出されても、普段の彼女を知っている我にとって、ちょっとだけ滑稽だ。
「はい、早速無駄口っスね!」
ウィンは、手を挙げて言った我に向かい、チョークを投げ捨ててきた。その動きは、全く無駄のない、素早い動きで、しかも放たれたチョークは、全くブレずに直線で我に向かってくる。
忘れてはいたが、一応は、ウィンは人間の、間者だ。罠に嵌まって捕まってはいるものの、その実力は、魔王城に侵入するくらいの、知性と体力を備えている。
そんなウィンの放ったチョークだ。あくまでチョークであるものの、当たったら痛いだろうな。でも、避けたらなんか言われそうだし、仕方あるまい。ここは、受けといてやるか……。
そう思い、備えた我だが、隣に座っているテティマが、それを許さなかった。
我の額に、チョークが当たる直前に、隣に座るテティマが、手を伸ばしてきたのだ。テティマは、人差し指と中指で、チョキの形を作ると、その指の間にチョークを挟んで、見事に止めて見せた。
「っ……!?」
その行動に、ウィンが驚いている。
一方で、テティマは眼鏡をクイっと掛けなおす仕草を見せると、静かに立ち上がった。そして、ウィンを凄い形相で睨みつける。
「先生。コレは、アティ様に対する、明らかな体罰です」
テティマ、凄く怒っているぞ。教師に対して、していい顔ではない。
「──魔王ちゃんじゃないっスかぁ!どうして、こんな所にいるんスか!?制服姿、可愛いっスねぇ!」
ところが、そんなテティマの事を、ウィンは無視した。無視して、我に駆け寄ってくると、人懐こい、いつものふやけるような笑顔を見せてくれる。
というか、気づいていなかったのか。気付かずに、チョークを投げつけて来たのか。そして今度は、睨みつけるテティマにも、気づいた様子がない。
色々と、もうちょっと周りに気を配った方が、良いと思うぞ、ウィンよ。
「ここは、我の学び舎。それと、我の所属するクラスだ。ウィンこそ、こんな所で特別講師とか……一体、どうしてそうなったのだ?」
「牢屋で過ごしてると、色々あるんスよ。ほら、うちって、魔王軍の採用テストに協力したり、外で日雇いのバイトをしたりしてるじゃないっスか。そうしている内に、人脈が広がって行って、ある日教育委員会の人に、先生してみない?て言われて、じゃあするって言ったら、雇われちゃったんスよ」
「教員免許、持ってるのか、貴様は……?」
「え?えーと……特別臨時教師免許っていうのを、貰ったっス。コレがあれば、先生として働けるって、その教育委員会の人が言ってたっス」
適当だなぁ……。大丈夫かな、教育委員会。炎上とか、しなければ良いのだが。
「それよりも、先生。先ほどの、アティ様に対する攻撃は、体罰に──」
「ああ、でも!残念ながら、うちと魔王ちゃんは、今から先生と生徒の間柄っスよ!あまり、なれなれしくする訳にはいかないので、ビシバシ行かせてもらうっスから、そのつもりでいてほしいっス!じゃあねっス!」
再び罪を問い詰めようとしたテティマを無視して、ウィンは教壇へと戻って行ってしまった。悪意は、ないと思うのだ。だから、そんなに怖い顔をしないでやってくれ、テティマよ……。
我は、テティマの服を引っ張って、座るように無言で言うと、テティマはまさに、鬼の形相でイスに腰かけたぞ。
「先生は、あたしたちにどんな事を教えてくれるんですかー?」
「よくぞ、聞いてくれました!うちが皆に教えるのは、ずばり!暗殺スキルっス!」
セルフィが、元気よく質問した事に対し、ウィンも元気よく黒板に書き込みながら、答えた。
先ほどは、質問するために手を挙げた我に対し、問答無用でチョークを投げつけてきたくせに、この扱いの差はなんだろう。あと、テティマの言葉は耳に届かないのに、セルフィの言葉は耳に届くのは、何故だ。それから、暗殺スキルとか、そんなの学校の授業で習う事ではないぞ。一体どうしてそうなった。誰が許可したのだ。
ツッコミどころがありすぎて、我は疲れた。一旦、考えるのはやめよう。こういう展開では、考えてしまった者が、負けなのだ。我は魔術師のように、元気よく激しくツッコミはできない。だから、流れに身を任せるだけである。
「──はい、という訳で、皆さんにはうちの用意したコースを走って、完走を目指していただくっスよー!」
気づけば、ウィンの授業の時間となっていた。お昼前の1時間が、ウィンにこの日与えられた、我らに対する授業の時間である。ちなみに、本来なら体育の時間だったが、ウィンの暗殺スキルの時間に、代わった形だ。
クラスメイト全員、学校指定の体操着に着替え、校庭に並んでいる。Tシャツに、朱色の短パンと、オーソドックスな格好だ。
「……コレ、いつの間に用意したの?」
そう呟いたセルフィの視線の先には、突如として校庭に出現した、障害物の数々がある。斜めの板が、交互に等間隔で設置された物や、数十メートル上空からつるされた、ロープ。平均台。反り返った坂。などなど。朝、来るときにはなかったはずの物が、そこにはそびえたつ。
教室から、他のクラスの生徒たちも、何事かと校庭を見下ろしている。あちらは、学科の授業を受けているのだが、気になって仕方がないだろうな。
「先生。学校の所有地である校庭に、このような施設を──」
「じゃーもう、早速行ってもらうっスよ!まず、一番!一番は、えーと、ディアットちゃん!スタートラインにたって、スタートしてくださいっス」
テティマは、また無視されて、沈み込んだ。我は、そんなテティマに擦り寄られ、頭を撫でて慰めてやったぞ。すると、すぐに元気になった。
「……」
ただ、周りのクラスメイト達の視線が、少し厳しいものになった気がする。皆目が光って、ちと怖い。
一方で、ウィンに指名されたディアットが、気合を入れてスタートラインに立った。台の上に上がると、手を挙げてノリノリでかっこつけている。ディアットは、けっこうお調子者だからな。調子にのって、無茶をしなければ良いのだが。
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