クラスの決めごと
学校につくと、クラスメイト達から歓迎の挨拶をされ、我は迎え入れられた。たまに登校してくる我の机の周りには、朝礼が始まるまで、いつもクラスメイト達が集まって来て、我を歓迎してくれる。誰かが始めた訳ではないが、コレが、日常的な事となっているのだ。
クラス委員長から、ギャル系の者まで、皆口々に我を歓迎してくれるのは、悪い気分ではない。
「本日は私が、アティ様のお隣の席を、務めさせていただきます。どうぞ、よろしくお願いしますね」
「う、うむ。よろしく頼む……」
そして何故か、窓際の列最後尾にある我の隣の席は、我が登校してくるたびに、変わる。クラスメイト達の決めごとに従い、我の隣はいつの間にか順番制になる事になっていて、今日は委員長の、テティマが我の隣の番らしい。
テティマは、小さな角を額から生やした、鬼タイプの魔族だ。前髪を切りそろえたボブカットで、眼鏡がキラリと輝くその姿は、真面目な委員長そのものである。
実際、凄くまじめだ。居眠りは許してくれないし、どんなにつまらない授業も、真面目にノートをとって、クラスのために働いてくれている。
「いいなぁ、委員長。あたしも、アティちゃんの隣がいいー」
「貴女は前回、アティ様の隣だったばかりでしょう……。しかも、アティ様の授業を邪魔して、お喋りばかりしていましたよね。今後もそうなるようでしたら、アティ様の隣の番を、抜かす事になりますからね」
「そんなぁ!?」
「当然です。アティ様の邪魔をしない程度に、アティ様の隣の席を楽しむ。そういう決まりのはずです」
「わ、分かったよぅ……」
先週、我の隣だったギャル系の生徒。ディアットが、落胆した様子でテティマに降伏した。
彼女は、短いスカートに、袖をめくった半袖姿で、オマケに胸元のボタンも、胸の谷間が見えるくらいまで外していて、前かがみになると、たまに下着が見えてしまうという、なんとも破廉恥な格好をしている。浅黒い肌に、メイクは委員長に怒られてからしてこなくなったが……それでも、派手なのには違いない。ちなみに、金色の髪を、サイドテールにしているが、髪の色は地の色である。
派手な見た目から、素行不良の生徒と思われがちだが、そうでもない。とても優しくて、気遣いの出来る、良い子である。
だが、やかましいのは事実だ。前回は、授業中に話しかけられまくって、別の意味で居眠りができなかったし、オマケに授業もあまり聞く事ができず、更には先生に怒られた。
「そういや、アティちゃん。今日の授業、なんか特別講師が来るみたいだよ」
そう言って来たのは、セルフィだ。セルフィは、我の前の席に座っていて、前を向いたまま我に向かってイスを倒し、我の机の上に頭を乗せた状態で、止まった。逆さまなセルフィの顔が、我の机の上に乗せられ、そのバランスはとても危うい。倒れたら、痛いぞ。
「そうですね。なんでも、侵入のプロ?とか言う方が、私たちの体力や、敵地潜入の技術向上のため、ご教授していただけるとか……」
セルフィの前の席にいるアンネが、黒板を向いたまま、補足して教えてくれた。
侵入の、プロ?そんなの、学校の授業で必要なかろう。今、魔界はそれなりに平和であり、無理矢理そう言った事を教わる必要は、全くない。知りたければ、そういう学校に通い、そういう仕事に就こうと思っているものだけ、受ければいい事である。
特に昨今は、教育熱心なお母様方により、教育上よくない授業は、廃止に継ぐ廃止となり、その辺は厳しく監視されている。その中で、敵地侵入の授業とか、してみるがいい。お母様たちが立ち上がり、教師は大バッシングを受け、謝罪会見一直線である。
「なんかよく分からないけど、楽しそうだよねー」
ディアットが呑気そうに言うが、たぶんこの者は、何も考えていない。
「私は、よく分かりません。そんな授業よりも、進めるべき課題は、他にたくさんありますので。例えば、数学の関数や、国語の古代文字の読み方。歴史の問題や、理科の授業と、たくさんです」
テティマが、嫌な事を言いながら、しれっと我の机に、隣の机をくっつけてきた。我の隣の席は、今日一日、テティマが占有権を持っている。
だから、どうするかは彼女の自由ではあるが、普通は離れて座っているので、くっつける意味が分からん。教科書とか忘れたら、隣の席の者に見せてもらうため、くっつける事はあるがな。
「ど、どうしたのだ、テティマ。何故、我の机に、机をくっつける」
「アティ様は、ご多忙のあまり、恐らくは授業に遅れをとっています。なので、私が傍に付き添い、サポートをさせていただこうかと。ご安心ください。このテティマ。アティ様のため、全力でサポートさせていただきます」
「お、おおう」
テティマはそう言うと、イスまで我にくっつけてきて、我とピタリと張り付く形となる。
「そんなのズルいよ!反則だよ、抜け駆けだよ!」
「何を言うのです、ディアットさん。コレは、アティ様のためを思っての事です。私が、アティ様の遅れを、ここで取り戻さなければ、アティ様のテストに響くかもしれません。そうなると、留年し、来年は級友ではなくなってしまうかもしれないんですよ。それで、いいんですか?」
「……」
遠回しに、我がバカだと言われているようで、複雑である。あと、また嫌な事を言う。留年とか、ホントに聞きたくない言葉である。一応、優秀な教師に、勉強はみっちりと教わっているから、最低限は大丈夫なのだがな。
まぁ、成績優秀なテティマの事ならば、邪魔になる事はないだろうから、良いだろう。
その時、ホームルームの開始を告げるチャイムが、鳴り響いた。
「それじゃねー、アティ様ー」
「アティ様、頑張って!」
それと同時に、我の周りにいた生徒たちが、自分の席へ向かい、散っていった。我は、手を振って皆に応え、見送るぞ。
「ほら、ディアットさんも、自分の席に行きなさい」
「むー……!」
テティマの事を、悔し気な様子で見ているディアットも、最後に自分の席に戻っていったぞ。
それからややあって、教室の扉が開け放たれた。入って来たのは、このクラスの担任の、メグバド先生である。
「うーす。えー、あー……今日は、アーティアの登校日かぁ」
覇気のない声で、ボサボサの髪の毛を掻きながら、先生は我に気づいて、そう言った。
先生は、メデューサである。髪の毛は、ヘビでできていて、ボサボサなヘビが、ちと可哀そうだ。目は、半開きで、やる気がなさそうで、いつも眠たそうな顔をしている。スーツもシワが目立ち、あまり生活感のなさそうな先生だ。
ちなみに、結婚している。こんなでも、しっかり結婚できるのだから、世の中って凄いと思う。
「ま、気楽に頑張れ。それで、今日は前から言ってた通り、特別講師が来てくれた。はい、どーぞ」
メグバド先生の合図を待っていたかのように、続いてとある人物が、教室の中へと入って来た。その人物は、しっかりとしたスーツに身を包んだ、しっかりとした服装の人物だった。
「はい、どーもー!メグバド先生の言っていた、特別講師のウィンダリア・ノースっス!種族は、人間っス!今日一日、よろしくお願いしまっス!」
というか、それはウィンだった。スーツに身を包み、ちゃんとした格好をしているから、少しわからなかったが、間違いなくウィンだ。ウィンが、何故こんな所に?特別講師?訳が分からないぞ。




