通学の風景
我の通う学校は、家から徒歩30分程の場所にある。住宅街の中を歩いていると、やがて周囲には、同じ制服を着た、同じ学校に通う生徒たちで溢れてきて、皆で同じ場所へを目指す事になる。
当初は、我が制服を着て、皆と同じ学校へ向かう姿を、物珍しい目で見られたものだ。しかし、どうだろう。今ではすっかりと慣れて、誰も我を奇異の目で見る者はいない。
「おっはよーう、アティちゃーん」
「わっ」
我は、突然背中を軽く叩かれて、驚いた。振り返ると、そこには我と同じ制服を身に纏った、女子生徒の姿があったぞ。
短髪の青色の髪を生やし、飾り気のないその髪には、寝癖がついている。体の凹凸は少なく、胸は極端に小さい。一見すると、男と見間違える者も、少なくはない。しかし、彼女の凛々しい顔立ちと、女子らしく長い睫毛などで、かろうじて、女子だと判断できるぞ。それに、制服は女子向けの、スカートだからな。スカートは短すぎる気もするが、その下にはスパッツを履き、下着が見えないようになっている。しかし、逆にそれがちょっとエロい。
そんな彼女の腕には、鱗がついている。彼女は、リザードマンの娘だからな。それ以外は、頭にヒレなどがついているが、基本的に陸での生活も、問題はない。
「セルフィ。おはよう」
彼女の名前は、セルフィ・タクス。我の大切な、友人の一人である。
「にひぃ」
朝っぱらから、屈託のない笑顔を見せてくれるセルフィに、我もつられて笑う。
彼女達級友とは、毎日は会う事ができない。我には、優先すべき、魔王と言う大任があるからな。だが、たまに登校する我を、笑顔で迎えてくれるのが、このセルフィである。
「お?なんか、いつもより元気良いじゃーん。なんか良い事でもあったのか、このこのー」
「うぅ。やめぬか、セルフィ。な、何もない。我はいつも、こんな感じだ」
我は、首に手を回し、我の角に頬ずりをしてくるセルフィに、そう訴えた。
ボーイッシュな見た目のセルフィであるが、ボーイッシュすぎて、精神まで男になってしまったのか、そのスキンシップは割と過激である。ただ、勇者のように、胸を触ってきたりとか、そんなセクハラ的な事をするような者ではない。
「そんな事ないじゃーん。いつもは、アティちゃんの朝と言えば……こんな感じ」
我から離れたセルフィは、腰を曲げ、どんよりとした顔で虚空を見つめ、いつもの我の朝の姿とやらを、我に見せつけてきた。
「……確かに、いつも少しは元気なかったかもしれないが、それはやり過ぎだ、セルフィよ。我は普段は……こうだ」
我はそう言うと、普段通りの自分を演じて見せた。朝と言う、絶望の時間。一番ダルイ時間に、歩かなければいけないという、事実。その事実を突きつけられ、自然と全身の力が抜ける。朝日が眩しすぎて、目は半分しか開かない。口も閉じるのを忘れ、涎が垂れそうになる。そして、電池が切れかけのロボットのように、ふらふらと、脱力しながら学校へと向かう。一日中、勉強をしに……。
その絶望感を再現したのが、普段の我の、朝の姿である。
「わぁ、すっげぇ。ホントに、いつものアティちゃんだ」
「……貴様、我をバカにしてるのか?」
さすがに、こんな酷くはない。自分でやっておいてなんだが、今のはさすがに、大袈裟だ。本当は、全然違うと言ってほしかったのに、予想外の事を言われて、我はセルフィを睨みつけた。
「いや、してないって。ホントにいつもは、そんな感じだったじゃーん。そっくりだったし!」
「そ、そうだった、のか……?」
屈託のない笑顔でセルフィに言われては、疑う余地がない。セルフィは、あまり嘘を言わない、正直な人物だからな。
しかし、となると、我って本当にいつも、こんな感じだったのか?朝のいつもの心情を、表情に現しただけだぞ。
「おはようございます、アティさん」
そこへ、別の人物が挨拶をしてきた。
黒髪を三つ編みにし、眼鏡をかけた少女。頬はやや赤みがかり、少女らしく目は大きく、睫毛は長い。唇はぷりぷりで、キレイなピンク色をしている。スカートは、我と同じく膝下までの丈があり、露出している足は、タイツでその地肌を隠している。髪型や、眼鏡に服装など、地味であるが、彼女の美少女具合は、全く隠せていない。あと、何よりその、抜群のプロポーションと、程よく豊かな胸は、隠しようがない。
溢れ出る色香は、異性を惑わす、魔性の魅力を持っている。いくら地味な格好をしたからといって、その漂う色香を消す事はできない。
それが、彼女たちサキュバス族の宿命である。
「おはよう、アンネ……。今の、見てたか?」
「ええ、見ていましたよ。アティさんの、いつもの朝の姿を」
彼女の名前は、アンネ。サキュバスの、令嬢だ。礼儀正しく、可憐な少女で、我にとってはセルフィと同じく、親友と呼ぶべき存在である。
「ほ、本当に我は、いつもあんな感じだったのか……?」
「はい」
「うん」
「ぬおー……」
我は、頭を抱えた。まさか、自分がそんなだとは、思ってもいなかった。確かに、朝の絶望感を感じながら登校していたかもしれないが、それを表に出していたとは、全く気付かなかったぞ。恥ずかしくて、死にそうだ。
「ああ……朝から恥ずかしがるアティさん、可愛い……」
「今更気にすんなって!誰も、気にしてないし、あれはあれで可愛かったから、平気だよ」
「……」
我は、セルフィに肩を寄せて抱かれ、身体を揺さぶられながら励まされた。
「う、うむ……」
「それより、どうしてアティちゃんが、朝なのにこんなに元気があるか、でしょ。なんで?」
「私も、興味あります。アティさん、いつもより元気ですし、なんだか可愛くなった気がします。今のアティさんは、そう……まるで、恋する乙女のようです!」
「も、もしかして、男……!?アティちゃんに、男ができたの!?」
「……はっ」
我は、アンネとセルフィにそう指摘されて、鼻で笑った。そして、セルフィに抱き着かれたまま、ふらふらと学校へと向かって歩き出す。
恋だとか、男ができたのだとか、そのネタはもう終わっている。
「この反応は、どうやら違うみたいだね。ま、どっちでも良いんだけどさ。アティちゃん、可愛いし」
「本当に、そうですね。アティさん、可愛い。その事実だけあれば、充分です」
「……」
2人にそう言われ、我は照れる。我を可愛いと褒めてくるのは、この2人だけではない。皆そう言って、我を甘やかしてくれるのだが、級友に言われるのは、ちと複雑だ。
我の、学園生活においての、朝の一幕は、こんな感じである。魔王という仕事をするかたわら、学校に通うと言う状況は、中々に大変だ。しかし、周りのみんなの理解があるから、我はこの生活を続けられている。
特に、我をいつも通り、楽しい気持ちで迎えてくれる友には、感謝の気持ちしかない。ダルいのはダルいが、彼女たちのおかげで、我は学園生活を満喫できているのだ。




