様子がおかしい
次の日、我は仕事終わりに、リリと共にスマホゲームに興じている時であった。場所は、我の執務室である。
立派なイスに座る我に対し、リリはパイプイスに座っていて、ちと可愛そうだと思う。予算で、ソファとか設置できたらいいなとか思うぞ。
「ああ、ダメだ。く、この……また負けた……」
画面に映る、我の敗北を知らせる文字。我は、リリとパズル型の対戦ゲームをしていて、負けてしまった。
「私の三連勝ですね。次は、そうですね……私に抱き着きながら、大好きと、心を籠めて言ってください」
「またか!?」
最初は、振り向きざまに大好きと言わせ、次は四つん這いの体勢で、上目遣いに大好きと言わせ、次は抱き着いて大好きと言わせようとするリリに、ついに我は、突っ込んでしまった。
罰ゲームとして、受けるのは受けるが、そんな我の行動は、リリのスマホによって動画で撮影されていて、我の羞恥心を煽ってくるのだ。
「はい。まさか、魔王様ともあろうお方が、自分で決めた罰ゲームを拒否するなんて事は、ありませんよね」
「くっ……」
我はイスから立ち上がると、同じくイスから立ち上がったリリに、正面から抱き着いた。胸を、リリの足の付け根の辺りに押し付けながら、我はリリの顔を見上げるぞ。
これで、大好きと言わなければいけないとか、恥ずかしすぎるであろう。しかも、リリはスマホのカメラを我に向け、撮影している。それを意識すると、思うように言葉を発する事ができなくなってしまう。
「だ……大好き……」
「ダメですね。心が、全然籠もっていません。やり直しです」
「だ、大好きっ!」
「声が大きくなっただけです。もっと、甘えるような、猫なで声でお願いします」
「大好き……」
「声が小さすぎです。しかし、良い感じです。今のをもう少し、声のボリュームをあげてお願いします」
「大好きッ」
「……はい、魔王様の大好き、いただきました」
ようやく満足をしたリリは、スマホを操作し、今撮ったばかりの我の動画を、再生して見直している。
いくら罰ゲームとはいえ、こんなの恥ずかしすぎる。それに、何だか我の恥ずかし動画を撮られて、弱みを握られた気分である。リリならそんな事はしないだろうから良いが、気分的にはそんな感じだ。
我は、自分の顔が赤く染まるのを感じながら、自分の席へと戻ったぞ。
「魔王!」
「ひわぁ!」
座ろうとしたが、突然部屋に飛び込んで叫んできた人物に驚き、我はイスに座るのを失敗し、床に尻餅をついてしまった。
「大丈夫ですか、魔王様」
「うむ……ありがとう」
すぐに、リリが手を差し伸べて起こしてくれるが、痛かった。我は、お尻をさすりながら立ち上がり、部屋に入って来た人物を見る。
そこにいたのは、魔術師であった。魔術師は、転んだ我を気にする事なくずかずかと歩いてくると、我の机を勢いよく叩きつけた。
「ど、どうしたのだ、魔術師。まるで、この間のようではないか……」
「クルスの様子が、変なのよ!」
そう訴えてくるのも、この間と全く同じである。違うとすれば、今この部屋にはリリが一緒にいて、我1人ではない事だな。
「どう変だと言うのだ。まさか、また男ができたとか言うのではないだろうな」
お尻をさすりながら、イスへと座りなおした我は、そう尋ねた。
「違う!アレに、男なんて出来る訳ないでしょう!」
机を叩きながら、魔術師はそう怒鳴りつけて来た。この前はそう言って来た癖に、今は全否定である。アレに出来る訳がないと言ったのは我だが、ここまで言われるとちと可哀そうだな。
「それでは、なんだと言うのだ」
「クルスの顔色が、すっごく悪いの!まるで何日も寝ていないみたいに、目の下にはクマが出来てて、それにブツブツと独り言を言ったり、話をしてても上の空で、大きな音に反応してすぐに振り返って伏せたり……頭おかしくなっちゃったのよ!」
「へぇー……」
頭がおかしいのは、最初からだぞと言おうとしたが、やめておいた。
ともあれ、目の下のクマとか、そういうのは心配だな。顔色が悪いという事は、病気か何かだろうか。だったら、我の所に来るのではなく、勇者を病院に連れて行ってやった方がいいと思う。
「落ち着いてください、魔術師様。お仕事には、普通に来ているのですか?」
「え、ええ。一応、毎日来てるわ。ただ、本当に気分が悪そうで……仕事が終われば真っすぐ家に帰っちゃうし、今まではご飯を一緒に食べてたんだけど、ご飯の時間も家から出てこなくなっちゃって……でも、家の前にご飯を置いておくと、一応次の日空の器がそこにあるだけになってるから、ご飯はちゃんと食べてると思う」
そう心配そうに言う魔術師は、涙目になっていた。どうしたら良いのか、分からないといった様子だな。我も、そんな魔術師の様子を見ていたら、心配になってきてしまったぞ。
「病院には、行きましたか?」
「病院なんて、そんな高い所に行ける訳ないじゃない!お金がいくらあっても足りないわよ!」
「……魔術師様。病院でかかったお金は、魔王軍の者ならば、全額魔王軍が保障してくれます。少しでも体調に異常があるのなら、病院にかからないと損ですよ」
「病院代まで保障してくれるの!?こんなにいいお給料なのに!?」
リリがもたらした情報に、魔術師は驚愕した様子だ。我からしてみれば普通だが、魔術師にとっては普通ではない事のようだな。
病院代が高いと、子供が風邪とかひくだけで、大変だろう。人間界って大変なんだなと、魔術師を見ていたら思ってしまう。
「……しかし、変だな。ここの所、毎日一緒にゲームをやっているぞ。気分が悪いのなら、ゲームをやる元気も、ないのではないか?」
「ゲーム?そういえば、この間ゲームを買ってから、様子がおかしくなって……」
「魔王様。勇者様とは、どれくらいゲームを?」
「うーん……家に帰って少しやって、ご飯を食べ終わってからもやるな。合計で、四時間程だろうか」
「他に、気づいたことは?」
「……そういえば、勇者のランクが異様に高いな。やりこんでいる者は、大体ランク500前後に達しているが、勇者は異様な速さで、昨日見た時はランク120までいっていた。我もそれなりにやってはいるが、ランク60だから、かなり差が出てきている。昼間は仕事に行っているのなら、それ以外ずーっと起きてゲームをやっているとしか、思えない差だな」
我は冗談っぽく言ったが、それを聞いた魔術師の顔が、青ざめた。リリも、頭を抱えて呆れかえっている。
いや、ずっと起きてゲームをしているとか、そんな事あるはずがないだろう。眠くて、寝てしまうはずだ。
いや、でも夜中に目が覚めて、少しだけゲームをしようと思った時、勇者がログインしていて、一緒にゲームをした事もあったな。我は一戦だけしてすぐに寝たが、今思えばどうして勇者は、あんな夜中にゲームをしていたのだろうか。我と同じく、偶然目が覚めてやっていただけとは、思えない。
「あのバカ、もしかして本当に、ずっとゲームしてるんじゃないでしょうね!?」
「とにかく、一度確認をしてみましょう。勇者様のお家に、全員で今から乗り込んで、現状を確認するのです」
「そ、そうね……!」
本当にそうだとしたら、勇者の身体が心配だ。
だが、一緒にゲームをして、楽しく会話をしながらゲームをしていたのに、気づいてやれなかった我の責任は重い。もし本当に勇者がゲームをし続けていて、身体を壊してしまったら、我のせいだ。
「──行くぞ、リリ!魔術師!」
我はいてもたってもいられなくなり、イスから飛び降りると、2人に声を掛けた。
魔術師の話をきくかぎり、勇者はまだ、大丈夫だ。だが、早く現状の生活をやめさせる必要がある。そのためにも、我が率先して、やめさせなければいけない。それが、今まで気づいてやれなかった、我のとるべき行動である。
「はい」
「ええ!」
我は、リリと魔術師共に、魔王城を後にした。バカな事をしている勇者を止めるため、向かうは勇者の家である。
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