待ち合わせの相手
我と魔術師がやってきたのは、我や、魔術師の家がある、4番街だ。ただし、向かったのは我らの家の方ではなく、商店街のある方である。
我は、とある情報筋から、リリの行き先を入手した。それにより、計画のとん挫は免れ、リリを追いかける事が可能となったのだ。
「……ターゲットを発見したわ」
「うむ。情報通りであるな」
我と魔術師は、公園で相手と待ち合わせをしている、リリの姿を発見した。今日の服装は、ニットワンピースだ。脚が大胆に出ていて、もしかしてズボンをはき忘れたのではないかと言う、妄想を掻き立てられる。
辺りは、学校終わりでアスレチックで遊んでいる子供や、キャッチボールを楽しんでいる子供の姿があるぞ。
我は、そんな子供たちの憧れの的である、魔王だ。バレて騒ぎにならぬよう、サングラスとマスクをつけ、更には一番の特徴である、左右で大きさの違う角を、魔術師に借りたフードで覆い隠し、木の陰に隠れて様子を伺っている。
魔術師も、我と同じような格好で、変装をしているぞ。フードは我が借りているので、代わりに前もつけていた帽子を深く被り、その顔を隠している。
「しかし、よく分かったわね。さすがは、魔王」
「我の情報網を、甘く見るでない。リリの行方を探る事など、朝飯前である」
リリは、公園のベンチに座り、しきりに腕時計で時間を確認している。その様子から察するに、待たされているのかもしれん。となると、やはり相手はろくでもない人物なのではないか。怒りが沸いて来たぞ。
「魔王様、何してるのー?」
気が気ではなくなってきた我に向かい、公園で遊んでいた子供の一人が、そう話しかけて来た。
な、何故我が、魔王だと分かったのだ?完璧な変装をしているのに、何故だ?
「ち、違うぞ?我は、魔王ではないぞ?」
「あはは。魔王様だよー」
「くっ……」
笑って、言われてしまった。全く疑いを持っていない、真っすぐな目で言われてしまい、反論ができなくなってしまったぞ。まずい、このままでは、人気者の我がいた事により、子供たちが喜んで騒ぎになってしまう。
「ダメよ、だいちゃん!魔王様は、きっとお仕事中なの。悪者のアジトをさぐるために、おんみつこーどーを、取ってるのかもしれないわ。だから、邪魔をしたらダメ」
「えー、そうなのー!?」
続いて現れた利発そうな女の子が、我に話しかけて来た子に、そう言ってくれた。難しい言葉を、舌足らずな口調で言っていて、凄く可愛いぞ。思わず、心が和んでしまった。
そんな女の子の言葉を聞いて、我に話しかけて来た子が、我を輝いた目で見てくる。
決してそんな事はしてないのだが、ここは乗っておいて、損はないはずだ。
「う、うむ。その通りである。だから、邪魔はしないでくれると、ありがたいぞ」
「うん!分かったよ!」
元気よく返事をすると、2人は仲良く手を繋いで、行ってしまった。恐らくは、男の子と、女の子だが、手を繋ぐその姿は、微笑ましい。純粋な男女の仲であり、ああいうのだったら、リリでも許せてしまうかもしれん。
「魔王……!見て、男が来たわ」
「なに!?」
魔術師に呼ばれ、目を向けるとそこには、リリに歩み寄る男の姿があった。金髪の、背が高い男である。
一目見て、気に入らん奴だと思った。だって、耳にはピアスをしていて、いくつもの指輪をしている上に、肌が焼けている。その上ポロシャツのボタンを一個もしめていなくて、下の薄い生地のシャツに浮かび上がる筋肉を、アピールするように見せつけている。
「あ、アレが、リリの男……」
我は、目から涙が溢れそうになって来た。あんなチャラいのが、リリの相手だと?そんなの、絶対に許せない。
「……魔王」
魔術師が、慰めるように、我の肩に手を置いて来た。
そんな魔術師に、思わず抱き着いた我は、魔術師の胸に強く顔を押し付け、あふれ出ようとする涙を、必死に堪えた。もちろん、角が刺さらないように、注意をした上で、だ。
別に、リリに男が出来ようと、我に文句を言う資格はない。相手を選ぶ資格も、勿論ない。だが、この気持ちはなんなのだ。悲しくて、寂しくて、大声で泣きわめいてしまいそうだ。
「え……?なんだか、様子が変だわ」
魔術師に言われて顔を上げると、何やら雲行きが怪しくなっていた。
リリは、やってきたチャラ男に対し、ファイティングポーズをとって戦闘態勢に入っている。それに対して、チャラ男が慌てて逃げ出し、どこかへと去って行った。
「……喧嘩か?」
「違うわ。また、時間を気にしながらその場に留まっているから……ナンパ?」
「な、ナンパ。ナンパかぁ……」
我は、安堵の息を吐いた。
「あ、また来た」
「なに!?」
続いてやってきたのは、スーツ姿のおじさんだ。白髪交じりのおじさんは、リリに向かってペコペコと頭を下げながら、紙を手渡している。
も、もしかしてコレは、噂に聞く、パパ活とかいうやつなのでは!?
何故だ、リリ。魔王軍の収入では、足りなかったのか?それとも、我が色々な物をねだって、買ってもらいすぎたせいか?だったら、我が悪かった。謝るから、そんな事はしないくでくれ!
心の中で願っていると、リリが再び、おじさんに向かって拳を突き出す、ファイティングポーズをとった。それを見て、おじさんは慌てて立ち去っていく。
「また、違ったみたいね」
「そ、そうかぁ……」
我は再び、安堵の息を吐いた。
続いてやってきたのは、杖をついたおじいさんだ。気さくにリリに話しかけて来たと思ったら、さりげなくお尻を触ろうとして、リリに腕を掴まれて阻止された。そして、ファイティングポーズをとられて杖も使わずに逃げて行ったぞ。
続いて、何人かの子供がリリを囲み、話しかけて来た。何やら話し込んだ後に、ファイティングポーズを取ると、子供たちはクモの子を散らしたように、逃げ出していく。
どれも、リリと待ち合わせをしている人物ではないようで、リリは未だに、その場に留まって待ち続けているぞ。一体、リリの待ち合わせの相手とは誰なのだ。それと、どうしてこんなに長い間、リリを待たせるのだ。
「リリさんを、こんなに待たせるなんて、きっとろくな奴じゃないわね……」
いつまでも待ち続けるリリを見て、魔術師はいら立ちを隠せないようだ。貧乏ゆすりをしながら、そう呟いた。
「な!我も、そう思うぞ!きっと、性格の悪い男が現れるに違いない!あと、とんでもないブサイクに違いないぞ!それからきっと、足も臭い!あと、鼻毛も出ているはずだ!」
「ええ、絶対にそう!私、相手が現れたら文句いってやるわ。殺したりまではしないから、それくらいしてもいいわよね!?」
「うむ!その時は、我も一緒だ。クズ男に、共に説教をしてやろうではないか!」
「魔王!」
「魔術師!」
我と魔術師は、互いの手を握り合い、堅い握手を交わしたぞ。魔術師とは、リリを守りたいと言う気持ちが、一致している。とても頼もしい事だ。
「あ!ついに、来たぞ!アレこそ、リリの待ち合わせの相手ではないのか!?」
「ホントだ!現れたわね、クズめ……一体どんな面を下げてるか、確認させてもらおうじゃないの」
リリに歩み寄る陰に気づき、我と魔術師は、木の陰から身を乗り出すようにして、その様子を見守るぞ。
親し気に話す様子から、やはりそれが、リリが待ち合わせていた相手だという事が分かる。相手を出迎えたリリは、親し気に話している様子だったのに、いきなり相手の頭をひっぱたいた。それにはさすがに、驚いたぞ。
今度もナンパなのかと思ったが、違うようだ。話を続けているからな。それから、リリも怒ってはいるが、嫌そうではない。
相手は、リリに叩かれた頭を、痛そうに抱えているが、すました顔をしてリリと話を続けている。そのアホ面と言ったら、勇者にそっくりで、髪の毛まで真っ赤で、勇者そのものである。というか、勇者本人だった。
「……なぁ、魔術師。あれ、勇者に見えるのは我の見間違いか?」
「いえ、あのアホ面は間違いなく、クルスよ」
どうやら、見間違いではないようで、安心した。リリの待ち合わせ相手は、勇者だった。
つまり、リリと勇者って、そういう関係だったのか?女同士で?そもそも、勇者は我を好きだのと言っておいて、一方でリリと関係を築き、我のリリを奪い取ったと言う事になる。なんて、性格の悪い女なのだ。
その、性格の悪い女が、突如としてこちらを向いた。首を360度回す勢いで振り返ってきて、突然の事に、身を隠す間もなかった。目があってしまってから、魔術師と共に身を隠したが、完全に見つかってしまったと思う。
「まずい。クルスは、魔王の気配に敏感だから、隠れてても無駄だった……!」
「ど、どうする?逃げるか?」
「とりあえず、様子を伺ってみましょう。もしかしたら、気づかれてないかもしれない」
「そ、そうだな」
魔術師の提案通り、恐る恐る再び木から顔を覗かせると、そこには勇者の顔面が待ち受けていた。




