男の気配
誤字報告ありがとうございます!
段々と、気温が高くなってきて、過ごしやすい季節も終わりを迎えようとしている。我は相変わらず、魔王としての仕事をこなしながら、忙しい毎日を送っているぞ。平和な日常が過ぎていき、たまに勇者と魔術師や、ウィンに級友と、ママと遊びに出かけたりして、楽しく過ごしています!
そんな、ある日の事だった。自分の執務室で、仕事が終わり、就業の終わりを告げるチャイムを聞いてから、書類をまとめ終わり、家に帰ろうとした時の話である。
「リリよ。今日は、久々に家に寄って行かぬか。ゲームでもして、一緒に遊ぼうではないか」
「……すみません、魔王様。今日は約束があり、ご一緒に遊ぶことはできません」
「そ、そうか。では、また別の機会としよう」
「はい。では、お先に失礼します」
「うむ……」
そう言うと、リリは執務室を出て、さっさと帰って行ってしまった。残された我は、少し寂しくなる。我の誘いを断る事など、今までで数回しかない。しかも、途中まで一緒に帰る事もなく、さっさと行ってしまった。コレは絶対に、何かある。
昨日読んだ漫画を参考にすれば、年頃の女友達が、急に素っ気ない態度になった時は、男の存在があるという。
だがまさか、リリに男が出来たとは思えない。リリは、スタイルがよくて、美人で、なんでもこなしてしまう、我にとっての憧れのような存在でもある。そんなリリに、恋人など出来るはずが……ありすぎではないか?
あんな優良物件、世の男たちが放っておく訳がなかろう。我ですら、その魅力に惹かれ、憧れすら抱くのだぞ。……あり得る。リリに男ができた可能性が、十二分にあり得る。
一体それは、どこのどいつだ。我のリリに、我の許可なく手を出した愚か者は、絶対に許さんぞ。
とか考えながら、我はスマホゲームをやっている。家に帰る前に、とりあえずデイリークエストをクリアしておいて、家に帰ったら体力が全快になっている、という算段だ。我って、頭良い。
「魔王!」
「ひわぁ!?」
我は、執務室の扉を、ノックもなく開かれて、非常に驚いた。思わず机の下に隠れ、顔を出して様子を伺うと、そこにいたのは魔術師であった。
「ま、魔術師?一体、どうしたのだ?」
「クルスの様子が、変なのよ!」
「お、落ち着け、魔術師。勇者が、どう変だと言うのだ」
机に向かい、大股で歩いて来た魔術師は、机を勢いよく叩き、我に向かってそう訴えて来た。落ち着くようにと訴えが、そんな言葉には聞く耳を持ってくれないぞ。
「仕事帰りに、たまにはケーキでも買って帰ろうって誘ったら、約束があるからって言って、一人で帰っちゃったのよ!絶対、男よ!男以外にあり得ない!あのクルスに、男が、できたのよ!そうに違いないわ!」
興奮した様子の魔術師は、そう言いながら何度も机を叩き、大きな音をたててくる。いつにもまして、取り乱した様子だが、それはないと思う。あの勇者に限って、男が寄り付く訳がない。我のリリと比べ、魅力がなさすぎるからな。
そもそも奴は、我に対して異常な程の好意を見せている。昨日なんて、先日一緒に購入したスマホのメッセージアプリで、我が寝ると言うまで、1分置きに『好き』とか、『愛してる』というメッセージを送って来たからな。待ち受けは、当然のように我にしている。せがまれて、撮らせてやったら、家宝にするとか言っていた。
そんな勇者に、男が出来る訳がなかろう。この魔術師は、夢を見すぎである。
「落ち着かぬか、魔術師。よく考えるのだ。あの勇者に、寄り付く男がいると思うか?」
「……思わない」
「そうであろう」
「でも、じゃあ、何で私の誘いを断ったって言うのよ!昨日読んだ漫画には、急に素っ気なくなった女友達には、男が出来た可能性が大だって、描いてあったわよ!」
まさかこ奴、我と同じ漫画を読んだのか?我が読んだのは、少女漫画だぞ。この魔術師が、そんな物を読むとは、思えないのだが。
いや、今は漫画の話をしている場合ではない。
「……実は、リリも我の誘いを断り、約束があると言って、行ってしまった」
「そんなの、たまにはある事じゃないの?」
「い、今まで、こんな事はなかった。我の誘いを断った上に、素っ気ない態度ですぐに部屋を出て行ってしまったからな。絶対に、何かある。男が出来たに、違いない……」
「……リリさんなら、あり得るかも」
「ぬがああぁぁぁぁ!」
我は、魔術師にそう言われ、頭を抱えた。魔術師がそう言うなら、間違いない。我のリリは、どこの馬の骨とも分からぬ男に奪われ、我から離れて行ってしまうのだ。間違いない。
「落ち着きなさい、魔王!」
机の下で頭を抱える我の肩に、魔術師が手を乗せて来た。
「決めつけるのは、まだ早いわ。本当に男が出来てるかどうか、確かめる必要がある」
「だ、だが、どうすれば……」
「決まってるでしょ。後をつけるのよ」
「つけ……!?だがそんな事、しても良いのか?したら、ダメなんじゃないか?リリ、嫌がらないか?」
「リリさんなら、きっと許してくれるわ。だからとにかく、まずは確かめるの。そして本当に男が出来てたら、リリさんにバレないよう、その男を煮るなり焼くなり、好きにすればいいじゃない。私も、協力するわよ。魔法で、死体を跡形もなく消し飛ばしたり出来るわ。だから、任せてっ!」
「い……いやいや、殺したりはしないからな!?我はそんな事、絶対にしないぞ!?」
「そうなの?」
何故、魔術師は残念そうにするのだ?魔術師は我を、何だと思っているのだろうか。いくら魔王だからと言って、やって良い事と、悪い事はある。誰かを殺すとかは、絶対にやってはいけない事だ。
しかし、リリの後をつけて、男の存在を確かめる事に関しては、我も賛成である。
本当は、リリのプライベートの事だし、あまりやりたくはないが、確かめずにはいられない。このままでは、気になって夜も眠れないからな。眠れないと、ゲームをするしかなくなる。ゲームをすると、更に眠れなくなる。すると、次の日のお仕事が辛い。お仕事中に眠ると、リリに怒られる。リリに、余計なエネルギーを使わせてしまう。
そうならないために、男の存在をハッキリさせる必要がある。コレは、リリのためでもあるのだ。
「……分かった、魔術師よ!リリを追いかけるぞ!ついてきてくれるな?」
「ええ……!私も、リリさんに男がいるかどうか、凄く気になるもの。喜んで、協力させてもらうわ」
我とリリは、固く握手を交わし、共にリリの男の存在を探る事となった。
魔術師は怖い面もあるが、仲間なら頼もしい。
「……ところで、魔術師よ。勇者は、良いのか?」
ふと、最初に魔術師が、勇者の事で我の下を訪れた事を、思い出した。それがいつの間にか、リリの事を共に心配する仲間となってしまっている。
魔術師は魔術師で、勇者の事が心配なはずだ。それなのに、我に無理矢理付き合わせる訳には、いかないからな。
「いいのよ。魔王に言われて気づいたけど、あんなのに男ができる訳ないじゃない。今はそれよりも、リリさんよ。リリさんに男とか、凄くあり得るわ。でも、もしかしたら、悪い男に騙されてるかもしれない。だから、私たちがしっかりと、リリさんを守ってあげないと!」
そう言って、握った我の手を両手で強く握る魔術師の目は、輝いていた。何故か、楽し気な様子の魔術師を見て、我は自分がしっかりとして、リリを守ってやらなければと思ったぞ。
あと、勇者に関しては、男が出来る訳ないという結論で、もう良いらしい。アレに、できる訳がないので、仕方がないな。今はとにかく、リリである。
「善は急げよ。リリさんを、追いかけましょう!」
「うむ!あ」
我はそこで、重要な事に気が付いた。
「どうしたの?」
「……知らない」
「え?」
「リリの行き先、聞いてない」
我と魔術師の、リリの後を着ける作戦は、早速失敗のピンチを迎えた。




