これからの方針
「さて、これからの方針……目標とも取れるが、それを決めようと思う。」
夏樹は言うとパーティーメンバーを見る。
「どこを目指すかを決めておくのはモチベーションにも繋がるし、それの方が何かと都合がいいもんね。」
芽衣は夏樹に同調して言う。
他のメンバーも同じ気持ちのようだった。
「で、夏樹はどこをめざしたいの?」
「それを正直悩んでいるんだ。俺たちの中に現世に帰りたいとか思う人が居たらそれを尊重したいしな。」
「ん?夏樹はそう思わないのか?」
樂は不思議そうに言う。
「あぁ、俺は現世に何にも……ホントに何も未練が無いからな……だから皆に合わせる。」
「そうか……俺も特に未練は無い。正直こちらの世界の方が生きやすい。」
樂はため息を吐きながら言った。
「そうね。私はどちらでもいいと思ってる。あっちの世界に残してきた家族とか心配ではあるけど……正直そこまで……ね。」
美鈴はそれだけ言うと目を逸らした。
「私は現世にとりあえず帰る方向で考えてるよ。だけど、どうしても帰りたいって訳じゃないから……のんびりと考えようかなって。」
「そうか……なら一応目標を決めなきゃな。」
夏樹はメンバーを見る。
「正直、この世界の冒険者のレベル……いや、概念という物が弱すぎる。目指せばこの世界のトップに立てる可能性すらある。」
「それはホントに?」
美鈴が訝しげに夏樹を見る。
「あぁ、ホントだ。だが、1番怖い可能性は『俺たちと同じ環境の人間』だ。」
「それは……俺たちと同じくこの世界に迷い込んだ人間のことか?いるのか他に……?」
「いや、わからん。だが、可能性は捨てるべきじゃない。」
「いや……私が不思議に思うのはさ、何でその人達が怖いの?」
「そりゃ、この世界のルール、法律ってもんが曖昧すぎるからな。特に迷宮塔はヤバい。無法地帯だろあんな場所……。」
「あぁ、確かに……被害者が出ても魔物に殺害されたって思うもんね。」
「そういうことだ。」
夏樹は1泊置くとまた話し始める。
「とりあえず……目標はこの世界のトップでいいのか?」
「「「おっけー。」」」
「俺自身軽く言ったが……これから大変だからな。覚悟しとくんだな……特に美鈴と芽衣は。」
夏樹は笑って言うが、目が笑って無かった。
「はいはい……攻撃は私達が担当だもんね……。」
2人は諦めたように言うと頷く。
「じゃあ明日からは効率を重視する。今日はこれで帰って寝て……夜中に集まるぞ。」
「夜中!?」
「あぁ、冒険者との魔物の取り合いを防ぐ為の措置だな。アサシンのスキルがあれば大丈夫だ。」
「ひえっ……。」
夏樹の本気が伝わったのか芽衣の顔が引き攣る。
「じゃあ夜中にまた。」
夏樹はそれだけ言うと帰っていった。
「もう……辞めよ……夏樹……!」
「まだまだ、ほら《名月の歌》《久遠の歌》。」
ミンストレルのスキルによって魔法攻撃力とHPが回復していく。
「おーい、やってくれ!」
樂は相変わらず魔物に殴られながら芽衣の回復を待っていた。
「はいはい……《スターダスト》!」
魔法を唱えると光が爆発する。
「樂、頑張れ。《久遠の歌》。」
樂の膨大なHPが全回復する。
「なんなんだそのスキル……強くないか?」
「まぁ……ミンストレルの知られていないスキルだからな……結局支援しかしてないけど。」
「いや、ポーションが必要なくなった分楽させて貰ってる。有難いよ。」
「それなら良かった。」
夏樹が言い終わると芽衣の魔法が魔物に向かって放たれる。
「ほんと、MPが、無くなるから……またにしよ??ね??」
「はい、魔力回復ポーション……。」
夏樹は無視をして芽衣にポーションを預ける。
「…………。」
「うわぁ……こっちは酷いことになってる……。」
美鈴が魔物のターゲットをとり、それを樂が《プロボーグ》を使ってヘイトをぶんどる。
それを夏樹が芽衣の魔法威力を上げ、芽衣が一撃で5体もの魔物を一斉に倒す。
それをひたすらしていた。
「日が開けてきたな……今日を引き上げるか。」
「終わったか。」
「やっと……。」
「…………。」
芽衣に至っては返事すらない。
「また明日の昼に集合だな。」
「「「り、了解。」」」
夏樹は目標に向かって一心不乱に突き進む系の性格だとメンバー誰もが思った日だった。