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紅ノ戦記 神殺しの物語  作者: 榎木 岳
第一章 残された灯火
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第一章七話 『受け継がれてきたもの』

 南蛮屋敷を出たタケルは、龍太郎と共に帰路についていた。仕事はいいのかと聞いたが、家に女の子を置いてきてしまっている以上長く家を空けておくわけにはいかんだろ、と言われ屋敷を後にしたのだった。特に何か言われたわけではなかったのだが、今までの話を聞いた以上、外で話をするのはまずいだろうと思い、家に着くまでは、疑問を胸の中に仕舞い込んでおこうと思っていた。

 外に出ると、丁度お昼過ぎぐらいの時間帯だった。木々が目立つ道から、住宅が立ち並ぶところまで戻ってくると、昼飯を作っている匂いが微かに漂ってきていた。その匂いを嗅ぎながら、家に帰ったらお昼は焼きそばでも作ろうか、確か材料はあったはず、朝飯でご飯が余っていたから、女の子が起きていたらお粥でも作ろうかと一人考えながら歩いていた。


「よかったのか、タケル」


 唐突に龍太郎の方から声をかけられて驚く。タケルは外で話すとまずいのではと思っていた一方で、龍太郎は寧ろ話したくて仕方がなかった。無理矢理連れてきている以上、他人の目がないところにくると文句を言われるのではないかと覚悟していたのだった。


「よかったのか、って」


「『神守衆』に入るって言ってしまったことだよ、あんな事があった以上、てっきりお前は裏切った神を守る義理なんてないってはねのけるかと思ったんだが」


 試しを終えた直後、この結果で考慮してタケルくんがどこの仕事に最適かを考慮した後、徽章を制作するから明後日にまた出てきてくれないかと、それだけを伝えて景虎は広間を後にしたのだった。それはもう、この組織に入ったことを意味する言葉だったし、タケルも是とも否とも言わなかったのだ。脅しに近い形で入れてしまうようになった事を申し訳ないと思いつつも、自分の意思を言わないタケルを龍太郎は不安に思っていた。本来なら家まで聞くべきではないのだが、我慢ができず思わず聞いてしまった。


「それは、俺も考えました。母さんを助けてくれなかったのに、神が困ってるから助けて守れなんて、傲慢すぎるって。でも、その前に龍太郎さんが言ってくれた言葉がありましたよね」


 龍太郎は頷く。母親の死の真相がわかるかもしれない、それは確かに言ったのだが、あの一瞬で自分のその気持ちとその真実を天秤にかけたのかと龍太郎は驚いた。そして、その真相がわかれば神が助けられなかった理由がわかって、自分の中で納得できるのではないのか、と。


「神の近くにいれば、問いただすことも可能かもしれない、そう思っただけです」


 ただ淡々とタケルは返答した。その答えを聞いて、ああ、まだこいつの胸の中には熾のような燻る神に対する敵意があるのだなと感じた。母親の事を口に出して言うことはなく、表情も昔に比べてずっと豊かになってきたとは思っていたのだが、まだこいつは母親が治る事を神社の前で祈り続けている幼い子供だと。仕事をこなす中で、もしあの時願った神が現れれば何をしでかすかわからない、そんな気がした。

 そうしているうちに、家へと帰り着いた。昨日運んできた少女の容態を見に、龍太郎は彼女を寝かせている部屋の中を覗いた。畳の上に敷かれた布団の上で彼女はまだ眠り続けていた。少し安堵したのだが、同時に不安が襲った。彼女は普通の人間であれば深手の手前のような傷を負っていたのだが、徽章につけられた石の力をもってすれば、一晩経てば傷は忽ち癒えるのだが、今現在傷は完治していなかった。また、傷は癒えずとも、もう目を覚ましていてもおかしくないのだが、留守の間に目を覚ました形跡もなかった。なにか、目を覚ましたくないだけの理由があるのか、それとも簡単に目を覚ませないほどの傷を、体の傷ではなく、魂に傷を負ってしまったのか。その不安を取り払うように、彼は首を横に振った。タケルのご飯できましたよ、の声が聞こえると返事をして居間へと戻っていった。


 ※ ※ ※ ※


「少し質問してもいいですか」


 昼飯、タケルは焼きそばを作ったようだった、を食べ終え、片付けをしながら、タケルは龍太郎に話しかけた。どうした、と龍太郎がお茶をすすりながら返事をすると、ずっと聞きたかったことを漸く口に出した。


「”始祖の血”の話を詳しく聞きたいんです」


 そのことか、と龍太郎は頷くとタケルはそのまま続けた。


「『闇』か、珍しいなと言ってたのはどういうことですか?」


「…そうだな、どこから話すべきか」


 龍太郎は時々考えながら、わかりやすいように答えてくれた。

 ”始祖の血”には十二の種類があるという。その中で、『火』『水』『金』『木』『土』は五芒星と呼ばれ、人々の暮らしの基盤を作った力だった。残りの七つは、七賢と呼ばれ、五芒星の作った基盤の上で生活を豊かにしていった力だった。元々は、それぞれ族として、親類のみが集まる大きな家族のようなものだったのだが、彼らが暮らしていた国が侵略され、離散した。離散した人々は世界中に散らばり、血を繋いでいったのだが、それは千年以上昔の話である。そうしていくうちに彼らの子孫が、別の力をもつものと交わり、二つの力を持つもの、それがまた交わり四つの力をもつ血を引くようになる。そうして多くの人々が、複数の力を体に宿すこととなった。その者が”始祖の血”の力を引き出そうとすると、力の強い五芒星が優性として引き出されることになるのだ。だが、稀に五芒星の血を引きつつも七賢の力を引き出すことができる者がいるのだった。『闇』は七賢の一つであり、最後にこの組織で確認されたのは、創設メンバーの一人で、五百年も昔の話であった。


「稀に、とはいうがあくまで『闇』が特殊なだけであって他の七賢の力をもつ奴はいるぞ、『氷』とか特に大暴れしてるしな」


「…龍太郎さんも黒子があるから”始祖の血”の力持ってるんですか?」


 そう問われた龍太郎は、一瞬答えに困ったように言葉を詰まらせたのだが、タケルはそれに気づいてはいないようだった。


「俺は…そう、『水』だな、竜吾と同じだ」


 タケルは質問を続けた。


「その”始祖の血”の力とか、有無によって何か変わるんですか?」


「さっき掻い摘んで話してくれたのもあるが、まずはあの石を持つものの力を増大させる。神相手に戦うんだからな、普通の人間の持つ力じゃ全く敵わんからな。そしてこれは”始祖の血”の力なんだが、上手くその力を引き出すことができると、魔術のようなものが使える」


 魔術?と言われて、あまりピンと来なかったタケルだったが、『火』なら火を自由に操り、『水』なら水を自由に扱い、神と対峙し、自らの身を守り、場合によれば神を鎮めるための大きな助けになる、魔法使いみたいな事が出来るって事だな、というとなんとなく納得した。だが、前述の通り『闇』に関しては例が少なく、また記録もほとんどないので詳しいことはわからないそうだった。

 しかし、これも個人差があるようで、使える者と使えない者がいるようだった。使えない者でも、”始祖の血”を持つことには変わりはないので、力を増幅させ、力をもつ前の神なら鎮める事ができるようだった。それは、先程の試しの結果によって、副長である景虎がどの仕事を頼むか判断するようだった。


「俺は『水』の力こそもつが、うまく引き出せなくてな、基本的に裏方担当事後処理みたいな仕事やってるわけだ、万が一があっても自分の身ぐらいは守れるしな。そして、昨日もその最中にあの女の子を見つけたわけだ」


 龍太郎は女の子が寝かされている部屋の方角を眺めた。それにつられてタケルもそちらを見た。

 あの子が持ってた徽章の色は濃青、『神殺し』の役職であり、ある程度は”始祖の血”の力を操り、神相手に対等に戦えるような力を持っている事を示すものだった。

 自分とあまり歳の変わらないような女の子が、神と戦えるまでの力をもたらしてくれる”始祖の血”、それが自分の中にもあり、ましてや珍しい七賢のものだという。なんだか恐ろしい事に巻き込まれてしまったような気がして、密かにタケルは震えていた。


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