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紅ノ戦記 神殺しの物語  作者: 榎木 岳
第一章 残された灯火
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第一章五話 『神守衆』

 

「神守衆…」


 先ほど聞いたばかりの言葉を口に出して復唱する。自分には身の覚えがない言葉だったがなぜか懐かしい感じがする。景虎は説明を続けた。


「大まかに何をしている組織かは聞いただろう?ここはそこに属する人間が集まる本部のようなもの、公には出ていないが違法な組織ではない、そこは安心してくれ」


 タケルははぁ、と頷いた。景虎は大広間の中を歩き回りながら詳しく解説してくれた。


「まずは『神守り』、このご時世過疎化だの高齢化だので、その地を鎮守してる里ノ神だったり山ノ神だったり、まぁ俗に言う土地神だな、信仰が薄れていき、忘れ去られていく。氏子がいたりするところもあるのはあるが、それも高齢化していって難しくなってくる。そこで私達の出番なわけだ。忘れ去られてしまってもその地の神、その地にしかいられない、そんな神は地区ごとに担当が決められているから、その神を定期的に訪れ、守っていく、またどこかに本社がある神様なんかはそこにお返しする、それが『神守り』だ」


 景虎は和綴じの本を開いていた男性の前に止まり、こいつが『神守り』の長、古い文献を調べ上げてどんな神様でどんな対応を取るべきか調べてくれるのさと紹介した。男は軽く会釈し、作業に戻った。


「次に『神鎮め』、荒魂と化してしまった神を鎮める仕事。神が荒魂となる理由はいくつがあるが、『神守り』の対応が遅れてしまっただとか、最悪の場合だと呪いの類だな。元々荒魂として祀られている神を監視するのもこいつらの仕事だ。大抵は神職の仕事なんだが、たまにそいつらの手には負えない時がある、そんな時に行くわけだ。鎮めるといっても清めの儀式を執り行えば神は鎮まってくれる」


 今度は地図の前で印をつけている女性の横に止まった。地図には朱と黒の印がつけてあった。彼女が『神鎮め』の長、元々神職についていた者なんだが、自分のいた神社の神が荒魂になって手に負えなくなって助けを求めてきて以来、こっちで手助けをしてもらっていると紹介した。女性は微笑み会釈してくれた。


「最後が『神殺し』、本当に殺すわけじゃないが、まぁ、そんな例外もたまにはあるんだがな。普通の神は人間に害を与えず、私ら人間も害を与えない。しかし、その均衡が崩れると神は暴走する。いかなる者もそれを鎮めることは出来ない。だから私達がいる。人に害を与えるようになった原因を探し、それを排除し、憑き物を落とす。だがな、偶に本当に狂い果ててしまった神もいる。その神を浄化し、高天原に送る。七日経てば元の社に神が戻ってくるか、代わりの神がやってくる。その留守を預かるまでが『神殺し』の仕事だ」


 机の横に戻ってきた景虎が自分の胸に手を当てて言った。副長なんて呼ばれてるが、一応『神殺し』の長ではあると教えてくれた。


「…副長ってことは、その上に長がいるんですか?」


 その質問に、景虎はなんと答えるか困ったような顔をして、頭を捻った。


「いるのはいるんだが、いないようなものなんだよな…」


 その表情を見て、聞いてはいけないようなことを聞いてしまった気がして、タケルは咄嗟にすみませんと謝った。いいんだ別に構わない、と景虎は手を上げて制した。


「さて、この組織が何をやっている存在なのかとしてはこんなものなんだが、何か質問はあるか?」


「えっと、昨日叔父が家に連れて帰ってきた女の子なんですが…」


 一瞬困惑したような表情を見せたが、龍太郎が目配せするとああ、あれのことだなと納得したらしく説明をしてくれた。


「勝手に治します、のくだりだな。我々神守衆には、衆であると証明するための徽章が支給されている」


 そう言うと、龍太郎が服の後ろに隠れていたものを首から取り外し、タケルの手に乗せてくれた。それは丸い石だったのだが、光によって赤にも緑にも見えるようなものだった。それに穴を開け、赤い紐を縒って首飾りにしたものだった。手の上で石を転がしていると、じんわりと温かい気がして、握り締めてみると、手の内に暖かいものが広がっていった。体温で温められたわけではなく、玉自体がほんのりと熱を発しているようだった。


「それを持っていると、体に受けた傷はたちまち消えてしまう。神様の加護を受けた特別な石さ。特殊な仕事故、我々は病院に行けない、というか神から受けた傷なんて医者に治せると思わんけどな。彼女は衆の一人、徽章を持ってたからな。あの石をもってすれば血塗れでも元通りってわけだ」


 俄かには信じ難い話だったが、手の上にある不思議な石を見ていると、何故かそのような事が可能になるのではと思えてしまうのだった。

 この徽章飾りはそれだけの役割じゃないぞ、というと、景虎は、今まで全く見えなかったのだが、背中に差していた刀を取り出し、鞘に巻き付けられた同じような飾りを見せてくれた。龍太郎のものとは違い、濃い紫をしていた。横の座卓で書き物をしている人に、君のも貸してくれと景虎が声をかけると、真っ白の紐に通されている石、これは腕に巻きつけられていた、を見せてくれた。


「このように紐の色によって階級、というより役職なんだけどな、それを分けているんだ」


 考えるのが面倒くさかったから、かの有名な冠位十二階の色をそのまま採用してしまった、と自嘲気味に笑っていた。

 紫と青の色を持つ『徳』と『仁』の階級が『神殺し』、赤の色を持つ『礼』の階級が『神鎮め』、黄の色を持つ『信』の階級が『神守り』、残りの白と黒の色を持つ『義』と『智』の階級は、本部での仕事や、その他階級の補佐の仕事をしているようだった。


「そしてこれが最も重要な役割なんだが、この石は”始祖の血”の力を引き出してくれるんだ」


「”始祖の…血”?」


 今度ばかりは全くの覚えのない言葉だった。首を傾げていると、景虎は龍太郎の方を見てお前まさか、と口を開いた。


「全くそう言う知識は教えていないとは聞いていたが、”始祖の血”についても教えてないのか!?」


「こればっかりはどう教えたらいいのかわかんないんですって!!」


 龍太郎は狼狽して後ずさり、手を目の前で振って、勘弁してくださいとでも言いだしそうだった。教えるのは面倒くさいが、民話ぐらい教えてるだろ!?と問い詰めるが、知りませんよ!そこら辺教えるなって言ったのは竜吾なんですよ!と必死に答えていた。

 景虎は溜息をつき、どうしたらいいのかわからず困惑するタケルに向き直った。


「ちょっと長くなるが、聞いてくれるか?」


 タケルは頷いた。

 ”始祖の血”というのは、大昔の伝説から現代に伝わる話である。昔々、かみさまはこの世界を創り出し、人間を創り出した。しかし、何もないこの世界で人間が生きていくことは困難であった。そこでかみさまは人間を十二の民族を創り出し、それぞれに生きていくための力を与えた。その中でも、世界を開拓し、人間が暮らしていける土地を生み出したものを五家、生活を豊かにしていったものを七家と呼んだ。やがて、その血は混ざり合い、段々と薄れていったのだが、僅かでもその血を引くものは左目の下に痣や黒子のようなものが現れる。

 誰がこの名前をつけたのかというのは、はっきりしていないのだが、この南蛮屋敷に残ってた記録を見ると、五百年前にはあったようだ。


「それが”始祖の血”の力。この石にはそれを引き出し、強める力がある」


 昔話、というより神話のような話だとタケルは感じた。突然非現実的な話しをされても、理解できるものではなかったが今はわかったふりでもしておくのが最善だろうと、取り敢えず相槌を打っておいた。帰って自分で納得するなり、叔父二人に解説してもらおうかと考えた。

 そんな思考を露にも知らず、タケルの運命を変える一言を景虎は発した。


「タケルくんも試してみるか?」

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