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紅ノ戦記 神殺しの物語  作者: 榎木 岳
第一章 残された灯火
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第一章三話 『変化』

 それから暫くも経たないうちに、竜吾は再び居間に姿を現した。そして、龍太郎が目配せをするとなんとなく状況を察したのか、彼の隣に座った。

 二人は何から話すべきか悩んでいるようで、中々口を開かなかった。やがて、最初に口を開いたのはタケルだった。


「あの女の子は大丈夫なんですか…?」


 そう言うと、龍太郎は一瞬竜吾を見た。竜吾も少し困ったような顔をしながら答えてくれた。


「大丈夫ですよ、一応の応急処置はしましたから。後は彼女が()()()回復します」


 それを聞いてタケルは安心したのだが、日本語の文章としておかしな所があることに気づいた。それはどういうことだと尋ねる前に、龍太郎が口を開いた。


「まぁ、なんだ、口頭で説明すんのは難しいから、タケルが明日、俺の職場に来るってことでどうだ?」


 それが一番早いという龍太郎に、竜吾は反論した。


「口頭で説明するのが難しいって言っても、ここで多少なりとも話すことはできるでしょう?」


 それを聞いた龍太郎はムキになり


「だーかーら、タケルの今まで生きてきた状況考えりゃ口頭で説明したって難しいに決まってるだろ」


 と返した。段々と口論は熱くなっていき、とうとう二人は席から立ち上がり、今にも掴み合いの喧嘩が始まってしまうのではないかとタケルは心配になった。


 暫くそうしていたのだが、やがて二人とも落ち着いたのか、というより、口喧嘩だったのが、最後の方には罵声の飛ばし合いに発展してしまったせいで、さすがによろしくないと思ったのか、叱られた直後の犬のようにすごすごと椅子に座ってしまった。

 竜吾は食卓に置いてあったお茶を一口飲んで、息を整え、改まって事情を話し始めた。


「タケルくん、君は()()の存在を知っていますか?」


 タケルは一瞬なんのことを言っているのか理解できなかったが、首を横に振った。神様なんて信じちゃいないし、それより存在を知っていますかというのは言葉的におかしくないか?と違和感を覚えた。


「そりゃそうですよね、私達の所為もありますけど、あんなことがあれば誰だって神は信じたくありません、君は覚えてないでしょうけど」


 と、竜吾が話し終えた所で今度は龍太郎が話を始めた。


「タケルは最近連続して起こっている怪奇事件について、知っているな?」


 タケルは頷いた。つい先ほどもニュースで行方不明の事件をやっていたところだし、街の噂にもなっている。いくら社交的ではない自分でも、そこまで騒がれていると自然と耳に入ってしまうのだ。


「その事件に、神様ってやらが絡んでいるんだ。まぁ、細かいことは俺たちの職場で話すとして、だ。お前が知りたいのはそこじゃないだろう?」


 再びタケルは頷く。今度はさっきより力強く頷いた。争いなんてそうそうあるわけではないこんな世界で、どうして一人の女の子が血塗れになってしまうのか。


「あの女の子はな、俺が今日の仕事、()()()をやっているときに、怪我をしちまったのか、血塗れで倒れていた」


「神殺し…?」


 耳にしたことのない言葉にタケルは首を捻った。神殺しだと?神様というのは人間を救ってくれる存在であろうに、なぜ人間を血塗れにさせるほど怪我をさせてしまうのだろうか。

 そして、神、神様、この世界を創り出したとかいう高位の存在、いくら神様を信じていないタケルでも、神とかいう存在を殺してしまうのはまずいのでは?と感じた。

 その疑問を察していたかのように竜吾は補足してくれた。


「神殺し、と一口で言っても実際に神様を殺すわけではありません。それに、今日の仕事がたまたま神殺しであっただけで、毎日神様を殺しているわけではありませんよ」


 それも確かにそうだ、いくらこの国には八百万の神がいると言われているとはいえ、本当に毎日殺しているのならとっくにこの国の神様はいなくなってしまうだろう。タケルは少しだけ納得した。

 竜吾曰く、神殺し以外にも仕事があるらしく、掻い摘んでどんな仕事があるのかを教えてくれた。

 人々に忘れ去られつつある神様の信仰を守るために行う『神守り』、何らかの事情、人々に忘れ去られる事以外によって荒魂と化した神を鎮める『神鎮め』、そして、荒魂と成り果て神としての体裁を保てなくなったものを殺し、新たな神へと創りかえる『神殺し』、大きなものの他に神様に関するいくつかの仕事があるようだった。タケル本人が全く神を信じていない一方で、その神を守るための仕事があるのだと想像もした事がなかったため、非常に驚かされた。


「でも、それって神職につく人々がやることなのでは…?」


 タケルはふと感じた疑問を口にする。龍太郎は、まぁそう思うのも無理ないなといった表情をした後にその答えを教えてくれた。


「神職は主に神に仕えるっていう仕事だな、だが俺たちは違う、昔からいる神様を守り鎮め、後世に伝えていくっていう仕事だな」


 そう教えてくれたものの、いまいちよく理解することができなかった。その表情を読み取ったのか、竜吾がまぁいきなりこんな話されてもわかりませんよねぇ、とほほえんだ。


「やっぱり、職場に呼んで一から説明するべきでしたね。上司には通しておくので明日一緒に行きましょうか、さぁタケルくん、明日は忙しいですよ、早めに寝てくださいね」


 そう言って食器を持って流し場の方に消えて行った。じゃあ俺も疲れたから先に風呂入るぞーと言いながら、龍太郎も部屋の外に出て行った。一人残されたタケルは湯飲みの中をじっと見つめながら、ぐるぐる回る頭で必死に考えていた。ただでさえ神など信じていないのに、その神を守る仕事?なんだそれは。今まで自分には神の存在をなにも示唆しなかったくせに、自分たちは神様に関係する仕事についていたときた。全くもってなにも理解することができなかった。

 そうして暫く、竜吾からお風呂に先に入りませんかと声をかけられるまでの長い間、考え続けた。布団に入り、辺りを闇が包み込んでいる中でも、考え続けた。

 その日は殆ど眠ることはできなかった。

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