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紅ノ戦記 神殺しの物語  作者: 榎木 岳
第二章 白夜に舞う雪
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第二章二話 『七賢』

 朝八時を少し回った頃、屋敷に向かうために龍太郎、タケル、ミコトの三人は竜吾に見送られて家を出た。今日は竜吾は仕事に行かないのかと聞くと、今日は夜の見回り番ですからね、日中は休みなんですと答えた。そういえば時々、祝日でもない週の真ん中で竜吾が家にいた日が時々あったな、とタケルは思い出した。その当時は、叔父二人が会社勤めだと思っていたため、まさかそんな理由があったとは微塵にも思わなかった。

 二人揃って来て欲しいってことは、何か仕事なのかなと横を歩くミコトが誰に話しかけるわけではなく呟く。龍太郎曰く、『神殺し』の仕事は基本的に一人で行うようだったが、手に負えていない事件が起こっている以上、人手が足りなくとも複数人で解決していかなくてはならないのだろうか。そんなことを考えているうちに、もう見慣れた鳥居が現れ、それをくぐり抜けて、屋敷の中に足を踏み入れた。

 いつものように廊下を通って、大広間へと入る。そこはいつ来ても騒々しいわけではないが、雑然とした空間が広がっていた。ただ、いつもの違うのは例の五角形の机の横に、景虎ともう一人の女性が立っていたことだった。


「やあ、おはようタケルくん、調子はどうだい?」


 三人が近づいたことに気がついた景虎が声をかけた。はい、どうにかとタケルは返事をする。それならよかった、と景虎は人懐っこい笑みを浮かべた。ミコトにも調子は戻ったか?と質問していた。


「あの、景虎さん、今日はどうして呼ばれたのでしょうか。仕事ですか?」


「ああ、そうだった、今日の目的はそれだったな」


 ミコトに聞かれた景虎は、一息をついて、居住まいを正した。


「今日は二人にある人を紹介しようとして呼んだんだ」


 そして、景虎の横に立っていた女性に、二人の前に来るように目で合図した。その女性は色素の薄い髪を、ハーフアップにして、ゆっくりと瞬きをしているようだった。その瞳が、朝日に照らされた凍った池のような感じがした。だが同時に、幼い頃に読んだ絵本に出てくる氷の女王みたいだ、とタケルは思い出したのだった。


「こちらは、氷室静(ひむろしず)。本部の人員不足を受けて、(こく)地方の分隊から来てくれた。それに、久しぶりに七賢が出たってことで世話役として色々と教えてもらおうと思ってね」


「氷室です。よろしくお願いいたしますね」


 透き通るような美しい声で名乗った静は、柔らかく微笑むと軽く頭を下げた。こんな所作をされると、益々本当のお姫様なんじゃないだろうかと、タケルとミコトうっとりと見とれていた。だが、その隣で見ていた龍太郎は恐ろしいものでも見たかのような顔つきで、静を見ていた。


「えっ、嘘だろ氷室、お前そんな感じじゃないだろ」


 龍太郎がそう言った瞬間に、彼の鼻を掠めて何かが飛んでいき、壁に突き刺さった。あまりに突然のことに、二人は何が起こったのかわからなかった。だが、暗器でも投げた後のような仕草をしている静と、あぶねぇと言いつつも楽しそうに笑っている龍太郎、そして壁に突き刺さった氷柱を見つけ、タケルは瞬時に何が起こったのかを悟った。


「次にそんなことを言ったら本当に殺すわよ」


 そう言い放った静の変わり様に、タケルとミコトはあまりの恐怖に鳥肌がたつのを感じた。優しげだった彼女の表情は一変し、格闘技の有段者ですと言われれば疑うことなく信じるだろうと思わせる、気迫に満ちた顔つきになっていた。しかし、殺されかけた当の本人は、いやあ、すまんすまんと全く反省の色が見えない謝り方をしながら、楽しそうに笑っていた。そんな龍太郎を睨みつけた静は突然頭を抱えてしゃがみこんだ。


「あああ、やっちゃった…今度こそは優しいお姉さんをやろうと思ったのに…」


 そう言う静にタケルは声をかけようとしたが、面白そうに龍太郎がそれを制止した。


「いいんだこいつは、どうせ最初猫かぶってたにしてもそのうちボロが出るんだからな」


 そう言った龍太郎に対して、静は脛に向かって右拳を殴りつけた。油断していた龍太郎が痛てぇ!と叫んだ。それが可笑しくて、タケルもミコトも思わず笑ってしまった。その横から、いつか本当に殺されるぞと景虎が笑いながら声をかけた。


「まあ、兎も角、静とはこういう奴だ。また話がズレてしまったな」


 景虎は少し無理矢理に話を落として、本題に戻した。タケルとミコトは我に返った。静も龍太郎を睨みつけながら、次同じことをやったら覚えてろよと言わんばかりの表情で立ち上がった。


「本題に戻ろう。タケルくんとミコトさん、二人はまだ"始祖の血"の力を使い初めたばかりで、加減もよくわからないだろうからこの静が教師として教えてくれる。それとさっきも言ったが、七賢の使い手という者は数少ない上に、タケルくんは珍しい『闇』の力を使う。こちらでも調べはするが、同じ七賢である静の手助けがあれば多少は自分でなにか掴めるかもしれないから、鍛えてもらってきてほしい、今日お願いしたかったのはこういうことだ」


「そういうことなので、お二人ともこれからよろしくお願いするわ」


 景虎の説明の後に、静は二人に近づき無理矢理手を取って握手をした。その手が氷を触った時のような冷たさをしていてタケルは驚いて、静の顔を見た。ミコトもおもわず顔を見てしまったようで、その視線に気づいた静が「あっ」と声を上げると、慌てて手を引っ込めた。


「もしかして静さんの"始祖の血"の力って…」


「そう、もしかしなくても『氷』よ」


 ミコトの質問に、静は少し悲しそうに微笑んで答えた。それを見た龍太郎は何か言いたげに静を見つめていたが、誰もその目線に気づくことは無かった。

 タケルは、もしかしてといったミコトの言葉に頭をひねった。七賢と言うぐらいだから、七つの"始祖の血"の力があるのだろうというのは何となく察していたが、その七つにあたるのが自分の『闇』の力以外を知らなかった。すると、その話も聞いていたのか、はたまたタケルの心中を察したのか静が付け加えてくれた。


「タケルくんには、まず七賢が何かっていう詳しい説明もするから安心して」


 その言葉にタケルは安心した。多少は叔父二人に質問したり、ミコトに話を聞いたりしていたが、その三人も全てを知っている訳では無いので、分からないことが多かったのだ。

 一段落ついたところで、龍太郎が再び口を出した。


「修行、つったってどこでやるつもりなんだ?適当にそこら辺の公園でやるわけにはいかんだろ」


「それぐらいわかってるわ。だからこっちにある実家の神社の分社に結界を張ってやるつもりよ」


 まるで、壁に張り紙を貼るかのような手軽さで結界を張るという静の発言に、タケルは衝撃を受けた。そんな簡単に結界を張ることができるんですか、と思わず質問したタケルに、面白そうに笑う景虎が答えてくれた。


「結界と言っても色々あるからな、ここの本部にあるような絶対にたどり着けない結界を張るには時間がかかるが、数時間他人を寄せ付けさせないようにさせるための結界だけなら結構簡単だ。気になるなら張るところを見せてもらったらどうだ?」


 タケルは是非見てみたいですと答えた。それに賛同してミコトも私も見たいです!と手を挙げた。そんなに気になるものなの?と静は疑問だったようだが、まあいいわと呟いた。


「わかったわ、じゃあ二人とも明日は朝早くから準備を始めておかないといけないから、早く寝て早く起きるのよ。龍太郎、帰ってちゃんと準備させときなさいよ」


 そう言って静は龍太郎の額にまさかのデコピンを食らわせた。油断していた龍太郎はわかってるよいてぇなと額をさすった。


「よし、これでこの件は大丈夫だな。それと申し訳ないんだが、仕事の都合で私は暫く本部を空けるが、長としての仕事はある程度龍太郎と竜吾に任せている。何か起こったらすぐにその二人に相談してくれ」


 わかりました、と静が返事をした。

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