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紅ノ戦記 神殺しの物語  作者: 榎木 岳
第二章 白夜に舞う雪
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第二章一話 『"赤い瞳"』

 夕焼けが目に染みる時間帯、この街唯一のスーパーでは、週に一回の大安売りが行われていた。夕方のこの時間になると最大で五割引にもなる商品も多く、大勢の客が詰めかけていた。タケルも、それを目当てに来た客の一人だった。毎週木曜日、一人でこのスーパーに間に合えば、叔父と合流してここで買い物をして帰るのが習慣になっていた。ただ、いつもと違うのは、今日は一人だけではなく、ミコトも一緒に買い物しに来ているということだった。

 買い物を終え、二人は大量の食品を袋に詰め込んでいた。タケルはミコトの持つ袋に重いものが入らないよう、自分の方に多く詰めているつもりだったのだが、彼女の詰めるスピードが早く、結果的に持ってる袋の数が多いのはミコトの方になってしまった。


「重くない?そんなに袋持って…」


「これぐらい平気だよー。てか、病み上がりなのにタケルに持たせられないでしょ」


 体力が回復し、居間に出てきたタケルを迎えたのは叔父ではなくミコトだった。それだけでも驚いたのだが、もっと驚いたのは、帰ってきた竜吾が、ミコトさんを家で預かることにしました、と告げた時だった。

 俺は反対したんだぞ、こんな男ばっかりの家に、と不貞腐れたような顔をして言ったのは龍太郎である。勿論その意見にはタケルも賛成だったのだが、そうはいかない理由があった。


「ミコトさんの家は西園寺、西園寺一族は先日の神職一家行方不明事件の被害者達です。ミコトさんは『神守衆』の仕事に出ていたため事なきを得ましたが、あのまま家に置いておくのは危険なので、家で面倒を見ることにしたんです」


 そう竜吾が言うと、迷惑をかけませんのでどうかよろしくお願いしますとミコトが頭を下げた。その理由を告げられてしまった以上、龍太郎とタケルは反対することは出来なくなってしまっていた。そして、叔父二人とタケル、ミコトの四人生活が始まってしまったのだ。

 タケルは最初は何を聞いていいのか戸惑ったのだが、自分と同じ年頃なら学校は行かなくていいのかと尋ねた。すると、返ってきた答えは


「学校ね、行ってないんだ」


 だった。ミコトは17歳だと言ったが、中学校卒業後からは家業を継ぐため実家の神社で修行をしていたようだったのだが、あまりむいていなかったようで、半年ほど前に『神守衆』として、神に携わる仕事に就いたようだった。

 逆にミコトの方からも学校は行かないの?と聞かれた。こっちから聞いたことなのだから、同じことを聞かれるというのは当たり前なのだが、タケルはどう答えていいものなのか困ってしまった。ミコトにはしっかりとした理由があるが、自分の学校に行っていない理由はどう考えても甘えのようなものだったからだ。

 しかし、話さないわけにもいかないので、母親のことも含め話したが、ミコトはそっかそれは仕方ないよねと、納得したようだった。あまり自分のことを話したくないタケルだったので、その反応をしてくれたのがありがたかった。

 スーパーを出ると、夕日が眩しくて目を細めた。こんなに夕焼けが綺麗なら明日も晴れるのだろうなと、そんなことを思いながら横を歩くミコトを見つめた。ミコトも眩しいね…と言いながら目を細めている。細い瞼の隙間から、タケルと同じ色の赤い瞳が輝いて見えた。

 タケルはまだ、赤い瞳の話をミコトに持ちかけていなかった。今まで叔父二人のように、赤みがかった瞳を持つ者は時折見かけたのだが、自分のように真紅の瞳を持つ者は誰一人としていなかった。果たしてそれを聞いて良いものなのだろうかと悩んでいたのだったが、それはミコトも同じだった。


「ねぇ、タケル、その瞳のこと聞いてもいい?」


 突然話しかけられて、タケルは文字通り飛び上がりそうになる。たった今考えていた事をミコトの方から持ちかけられ、まさか心の中を読まれたのでは、と疑ったがすぐにそんなことはあるはずがないと、心の中で否定した。心の内を読んだ訳では無いが、ミコトの方もずっといつこの事を聞くべきかと悩んでいたのだが、今のうちに聞いてしまおうかと思い立ち、質問したのだった。


「うん、竜吾さんや龍太郎さんみたいな瞳なら見たことがあるんだけど、俺みたいな真っ赤な人は見たことがない」


「私も。…お母さんかお父さんか赤い瞳だったりしたの?」


 タケルは首を振る。


「父さんは会ったことがないし、写真も残ってないからわからない、叔父さんに聞いたらわかるかもしれないけど。それに母さんも少し赤みがかっただけだったような気がする。ミコト…は?」


 タケルはさん付けで呼んでしまいそうになり、一瞬言葉に詰まった。つい先程家を出る前にもうっかりさん付けで呼んでしまい、釘を刺された後だった。一緒に暮らすのにさんはいらないの!腰に手を当てて少し憤りながら言っている姿がすぐに目に浮かぶ。


「私は、両親とも黒い瞳よ、親戚にも赤みがかった瞳の人はいなかったはず」


 ということは、遺伝ではないのだろうか…とタケルは考えた。その後も二人で何か二人に共通することがないのだろうかと、議論しながら歩いていったのだが、特にそれらしいものが出ないまま、自宅の近くに着いてしまった。


「それらしいものがないのよね、まだ何か私たちの知らない情報とかがあるのかな」


「どうだろう、俺は先祖とかがどんな人とかは知らないけど」


「実を言うと私も。歴史ある神職の家とは言うけど、御先祖様に関しては何も知らないの」


 じゃあその事を調べてみようか、という結論を出した時、こちらに向かって歩いてきている人物が二人に手を振っていることに気がついた。近づいてくると、それは龍太郎だった。


「よう、おかえり。買い物帰りか?」


 タケルが頷くと、重いだろと言ってタケルの持っていた袋とミコトの持っていた袋を全て奪い、一人で全部荷物を持ってしまった。慌てて二人は取り返そうとしたが、家まであと少しなんだからいいだろと言って取り合ってくれなかった。二人は困ったように顔を見合わせると、なんだか楽しくなってきてクククと笑い声をたてた。最初に同居することを告げられた時はどうなる事かと思ったのだが、もしも自分にきょうだいがいたらこんな感じなのだろうかとお互いに考えたのだった。


「なに笑ってんだ、先に帰るぞ」


 もう随分と先の方まで歩いてしまっていた龍太郎が、袋を胸の辺りまで持ち上げて振っていた。はぁいと二人は返事をして、龍太郎の元まで駆けて行った。


「なんだ、結構仲が良くなったんだな、安心した。それと、景虎さんが明日は二人とも屋敷まで来られるか?って聞いてたぞ」


 あの初仕事以来、タケルはまだ屋敷に顔を出していなかった。ミコトは、時々行ってはいたそうなのだが、長居はせず、タケル達の家にいることの方が多かった。二人とも体調はもう万全だったので、行けます、と返事をした。よし、じゃあ明日は俺と一緒に屋敷に行くか、と龍太郎が言ったところで、ちょうど自宅に到着した。


「ところでお二人さん、結構買い込んでるようなんだが今日の晩御飯は何を作るご予定で?」


「「今日は豚肉と白菜がたくさん入った鍋です!」」


 二人が声を揃えて言うと、龍太郎は愉快そうに笑った。この二人を見ていると、昔の竜吾と自分を思い出して、懐かしい気持ちになるのだ。ずっと一人だったタケルを見て来たので、こうやって楽しそうに他人と話をしている光景を見ていると、自分まで楽しくなってしまう。


「よし、竜吾が帰ってくるまでに作ってしまおうか」



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