学園の始まり
あー…,ドキドキする.
壇上ではたった今,校長の挨拶が終わったところだ.
新入生の俺たちに対して,この学園生活が素晴らしいものになるようにとか,規律を守って皆の模範となるようにとか,どこでも聞いたことのある内容だが,果たしてちゃんと聞いている学生はどれほどいるのだろうか?
入学式の流れに沿っていくと,次は新入生代表の挨拶.
そう,俺の出番だ.
自分がそもそもそういうことに向いてない性格だということは嫌というほどわかっている.
俺は小心者だ.
正直,この後のことを考えると心臓が飛び出そうなほどバクバクする.
でも,ここは大事なところだ.
避けては通れない.
今後の学園生活を大きく左右する,最初の関門と言ってもいいだろう.
失敗は許されない.
「それでは,次に新入生代表による挨拶にまいります.」
ほら来たぞ….
「新入生代表,1年A組アレク・リデルくん」
俺は無言で壇上に向かって歩き出す.
こつ.こつ.
靴音を鳴らすように意識しながら.
こつ.こつ.
周囲では,生徒たちがひそひそと俺の事を噂している.
「見ろよ…あいつが噂の…」
「あれが勇者ってまじ…?」
こつ.こつ.
俺は壇上に上がり,ゆっくりと生徒たちを見まわした後,挨拶を口にする.
「凡人ども,俺はおまえらに1ミリも興味はねぇ.」
皆がぽかん,としている.
何を言われたのかまだ呑み込めていないようだ.
それは生徒たちだけでなく,先生たちでさえ.
「俺は勇者だ.精々,俺の邪魔にならねぇように生きろ.」
皆,まさか勇者がこんな人物だとは思わなかったのだろう.
次第に,言われたことを理解し始めた生徒たちの顔が怒りに歪む.
「以上だ.凡人ども.」
そこからは野次や怒号の嵐だった.
うん.
我ながら上手くできたと褒めてやりたい.
そして,できることなら,意識を手放して夢の世界に逃げ込みたいな.
そんなことを思うのだった.