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ー第7話理由



ー第7話 理由




屋内ドッグランは天井までネットで囲まれている。そこから洪少平や小谷師範、直が照明に照らされて見えた。声も聞こえてくる。

「小谷師範。本国を説得して、子犬が持っている情報について、話す事が出来るようになりました。」

小谷師範は構えを解かない。

「洪。聴きましょう。」

「子犬に入っている情報は、戦闘機のデータだけでは有りません。それも本物ですが…もう一段ナノサイズの小さい情報が入っているのです。」

「それが、子犬を渡す理由となるのですか?。」

「はい。この作戦は戦闘機データを奪取するのが目的でした。しかし、アクシデントで、BC兵器の情報まで偶然…現地の組織が入手したのです。」

「BC兵器?」

「生物化学兵器…ウイルスや毒ガスです。アメリカの軍事研究者は、ウイルスの遺伝子を操作して、特定の人間だけを殺害するウイルスを開発しています。そして、アメリカに好意的でない、我が国の軍人及び軍需産業に携わる人間の、家族のみを殺傷する、ウイルスのデータが戦闘機のデータに紛れて発見されたのです。」

「それは確かなのですか?。」

「残念ながら…現地組織が有ったビルは、ニトログリセリンを積んだタンクローリーが突っ込み、全員が行方不明になりました。」

「なんと云う事を…。」

「10匹のうち1匹に、そのデータが入っているはずです。それは人民解放軍の研究所でないと、小さ過ぎて読み取れないのです。私はそのデータを本国に持ち帰らねばなりません。そのデータをアメリカ政府に示す事によって、このウイルス攻撃を阻止できるものと、本国は意図しています。」

「何故…その様なものを?。」

「解りません。私は政治家でも将軍でもありません。ただ、このウイルス攻撃が行われる事は予測できます。過去に、経済解放に反対していた党の幹部や軍関係者の家族が、ウイルス感染して1時間で全員死亡した事が有りました。これは中国国内でも発表されませんでした。」

「それが。理由ですか…。」

「大ざっぱでは有りますが、小谷師範には判ってもらえると信じます。」

この話を聞いていた全員が、暗澹あんたんたる気持ちになった。何故これほどまでに、国家と云う物は酷い未来世界を目指そうとするのだろう。こんな事で築かれた社会の中で、誰が幸せや希望を見いだせるのだろう。

「やめさせなきゃ…。」

下のレストランから透くんが歩み出て言うのが見えた。

「国家のする事を、個人が止める事は出来ません。」

洪少平が残念そうに言った。

直の声が聞こえてきた。

「かわいそうだけど…。コーギーをあげましょ。中国の人達が殺されちゃうよ。」

泣いていた。小谷師範が抱き寄せるのが見える。



「いえ。渡しません。」

小谷師範に全員が何で?と驚いた。

「中国政府が、今後ナノマーク犬を造らない事と、このウイルスがどの国も使用出来ない条約の作成を先導する事を約束するまでは…一匹たりとも渡しません。」

洪少平は、あきらめた顔になった。

「師範。お気持ちはわかります。ですが、現実的では有りません。そうする事で生じる犠牲も考えて下さい。」

「国家は。明るい未来を造る努力を放棄しています。子犬の命をもてあそび、家族をウイルスで殺そうとする。そんなやり方が、どこにも通じていない事を、私達は国家に言わなければなりません。違う。ノーだと。たとえ撃ち殺されてもね。」

「理想はわかります。私だってそうしたい。私と師範がノーと言って殺されたら、世界は変わると思われますか?。死体を積み上げてきた国家が変わりますか?。」

「見なさい。日本国民は30年以上も、戦争にノーと言い続けてますよ。日本を取り巻く状況は、戦争を必要としているにもかかわらずですよ。日本政府は国民がノーと言う為に、武力以外の方法で努力しているのです。国家を甘やかしてはいけないのです。」

洪少平はしばらく沈黙した。

「では師範。私はどうすべきなのですか?。退く事も闘う事もままならない。」

「私に命を預けなさい。中国政府との交渉を手伝うのです。」

意を決すると洪少平は、北京語で周囲に何か言った。20人の洪の部下に動揺が走った。

洪は、部下の方に向き直り、下がって小谷師範の横に立った。

私は体が震えた。

2部と交渉する覚悟は有った。でも、中国政府と交渉する覚悟はない。死にたくない。でも、小谷師範と洪少平は…それをしようとしている。夫と私だけなら、あきらめてた。

私は…この師弟に、すいませんと言うしか無かった。




次話…。

ー第8話 交渉 負けるな私!

につづく!





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