ー第6話ベリー ペット グッドレストラン21号店
ー第6話ベリー ペット グット レストラン21号店
「とにかく、子犬達をゲージから出してあげましょう。」
小谷師範が言った。一匹でも子犬にしては重かった。
「なんで鳴かないの?。」
直が聞く。
「体は暖かいから、睡眠薬か何かかもしれない…。」
「死んでないよね。おかあさん。」
「死んでないよ。直。大丈夫。」
車は、岐阜から名古屋に向かう国道21号線に入っていた。透くんが、またルームミラーを見ながら言った。
「知り合いのペット同伴レストランが、この先にある。ベリー ペット グット レストラン21号店って云うんだけど…そこは獣医も居て、治療もやってるんだ。」
夫が怪訝な顔をした。
「透。なんか店のネーミングが悪すぎる気がする。まるで…。」
「…ゴーケアフォーナカジマ店みたいか?。」
「あ〜。まさにそのセンス。」
「経営者が同じなんだ。でも中身のレベルは高い。獣医も腕が良くて、東京や大阪から高速でやってくる人もいるくらいだ。」
なんだか詳しいので私が聞いた。
「透くん所は、ペットいないよね?。」
「あぁ…。この前のメモリアルの事件で、知り合いの記者に頼まれてね…社長とのインタビューを設定したんだ。ホラ‥ゴーケアフォーナカジマ岐阜店で、分部がネットを使おうとしただろ?」
夫が言った。
「確か…本で読んだ。ニューグリップタイヤ社員失踪事件で被害にあった1人だ。(クライムズクライシス参照)なら…こっちの事情を話しても大丈夫だろうな。」
オープンカフェのデッキの奥に、ヨーロッパ風の店舗があり、筆記体の英文で店名が書かれている。駐車場はいっぱいだった。
「ハジメ。俺は社長に事情を話してくるから運転席に居てくれ。みんなは一緒に…。」
4匹は透くんと直が抱いて、残りはゲージに戻してレストランに入っていった。
中には20人程度の人達と一緒に、様々な種類の犬が食事したり、会話したりしていた。私は犬を飼った事がないので、チワワにダックスフンド、ブルドックくらいしか判らない。そう言えば…この子犬達は?何て云う名前の犬なんだろう?。透くんはウエイトレスに社長を呼んでもらった。動物病院の方から、ノソリと社長が現れた。
「どうも竹山さん。…オヤ?どうしました?。」
社長はいきなり、グッタリしている子犬に近づいて、見た。
「すぐ診察室に!。話はそこで、先生と一緒に!。」
中は国立病院かと思う程の設備だった。獣医の先生も何も聞かずに、子犬を抱き上げて診察を始めた。透くんが事情を話そうとした。
「先生…。」
「黙って!。これは…睡眠薬を大量に投与されてる。しかも長時間狭い所に押し込まれてたな。」
「その通りです…。」
「黙って!。」
私達は完全に黙らされて、延々と治療が続いた。
夫も来て黙らされた。1時間程して、先生が夫に顔を向けた。
「解毒しました。もう心配ありません。屋上に屋内ドッグランがあるので、そこに移して様子を見ましょう。」
「はい…。」
「この子犬は、ウェルシュ コーギー ペンブローク種ですが…噂に聞いたナノマーク犬ですね…。」
「ナノマーク犬?。」
「中国が独自に開発した技術で、親犬の遺伝子に入れたい情報を入れる。すると、子犬のDNAの表面にナノサイズの凸凹が規則に従ってできる。その子犬の全てのDNAに。一匹の子犬に単行本100ページ分の情報が入れられとの事です。」
私は聞いた。
「そんな事して、犬に異常は起こらないんですか?。」
「成犬に達するのが60パーセント。成犬になっても、全体に寿命は短いと言われています。」
「ひどい。10匹に4匹は死んじゃうんですか?。」
「中国の研究者は100パーセントにすると言ってますが、方法は見つかってないようです。」
「どうして、そんな事をするんです!。」
「個人所有の犬のDNAを採取するのは、よほどの理由がなければ困難です。さらに、ナノマーク犬のDNAの表面を読み取る装置は、北京大学に、共同研究を行っている日本の岐阜大学。中国人民解放軍技術研究所しか持っていません。つまり、犬に情報が入っているかどうかを、空港や港で確認できない。証拠を挙げる事が出来ないんです。」
「ナノマーク犬だけで、止められないんですか?。」
「私がナノマーク犬だと判ったのは、この犬の顔を判別できるからです。」
「顔…ですか?。」
「動物愛護団体が、ナノマーク犬として入手した写真を見せてもらった事があります。これは、あの写真の犬です。」
「全部同じに見えますけど…。」
「ほとんどの人がそうです。空港や港に犬の顔を見分けられる人はいません。おそらく、これからは多くの犬が情報戦の犠牲になる。実験の段階の犠牲もあったはずです。」
「この10匹を救っても…ですか?。」
「救える10匹は救わなければなりません。これは、明らかに虐待です。世論に訴えてナノマーク犬を造る事を止めさせなければなりません。今に、人間に転用されかねません。そんな未来を残してはいけません。未来は素晴らしいものでなくてはならない。……そうでしょう?。」
夫も私も直も、透くんも小谷師範もうなずいた。
コーギー達を屋内ドッグランに移そうとした時に、レストランの方から叫び声と、犬の吠える声があがった。
「来たようね…。直。行きますよ。」
小谷師範と直はレストランに向かった。
「犬を上に…。」
夫と私に透くん、獣医さんに社長で、診察室からの階段を上がり、下に通じるドアを閉じてカギを掛けた。
ベリー ペット グットレストラン21号店の経営者、中島勝義は竹山透と共に、外に現れた20人程の集団を見た。これに、老婦人と小学生が、入口を出た所で、体を半身にして構えている。
「社長。あの2人は合気道の師範と天才少女です。心配ないですから。」
「いや…そんな事言われても安心できるわけないでしょう!。竹山さん、警察を呼ばないと!。」
竹山は携帯を出そうとする中島社長の手を押さえた。
「駄目です!。コーギー達が、それではアメリカの手に渡ってしまいます!。信じて…あの2人を!。」
洪少平を中心に、20人が小谷師範と直を包囲するつもりで、間合いを詰め始めた。
次話!
ー第7話 理由
につづく!