ー第3話作戦計画
ー第3話作戦計画
まず、歩と桜を清美に頼まなければならない。2人共清美ねえちゃんが大好きなので問題ない。特に桜は、清美の子供である久志くんを弟と思っていて、嫌がる事はない。
問題は私達の作戦を、清美が承認してくれるかどうかだった。夫と竹山家に出向いた。
「2人とも子供じゃないんだから。そんな事に関わっちゃ駄目よ。」
「清美。見捨てるの?。子犬達を?。」
清美はしょうがないなと云う顔になった。
「わかった。横山さんに電話して、2部に任せましょ。…だいたい直ちゃんにボディーガードさせるなんて、どうかしてるよ。」
「2部は駄目。」
「あっさり否定するのね…根拠は?。」
「子犬にはアメリカの軍事機密が書き込まれてるのよ。2部だって子犬を処分するしかないわよ。」「じゃあユウ?。あなた中国スパイと2部を相手に、どうやって子犬を救うつもり?。」
「2部は敵に回さないわよ。」
「ユウさん?。話しのつじつまが合いませんけど?。」
「救うのは私達がする。2部は駄目だけど…白根さんなら。きっとわかってくれる。」
「会った事もないのに、なんでそんな風に思っちゃうわけ?。」
「メモリアルセンターの事件の話しを聞いた時に、白根さんは命を粗末にする人じゃないって感じた。ちゃんと説明すれば…2部は駄目でも、白根さんは殺さない。殺さずになんとかしてくれる。そう思うの。」
「少女漫画じゃないの。ユウの都合でハッピーエンドにしてくれるのは、小説家になろうの武上先生だけ。…そりゃまぁ白根さんがそうしてくれる可能性は、ないとは言えないけど…。」
清美は反対することに少々弱気になったようだ。ここを一気に攻めなければ…。
「でしょ?。白根さんが殺さないと言うまで、子犬を渡さなければ良いのよ。私、自信ある。」
清美は夫に矛先を変えた。
「ハジメはどうなの?。」
「俺か?。俺はトコトンユウをサポートする。それだけだ。もし見捨てるなら、ユウの気持ちを見殺しにする事になる。これは救える命だ。…ツキも必要だけど、ユウの作戦には成功する根拠がある。俺はノルよ。」
「ロマン有りすぎよ。多分透くんも反対する可能性は低そうね…。」
私はたたみかけた。
「じゃあ清美も長沼レスキューに入隊ね!。歩と桜をお願いします。」
「いいけど…。やっぱり心配だよ。あっさり行けば良いけど。」
「物理学者と格闘家が揃ってるんだから、心配無いって。」
「それが一番心配なんだけど…。」
そう言う清美の家を出て、直と歩と桜を小学校から引き取って、再び竹山家に向かった。
車内は質問責めになったが、清美ねえちゃんの所に行くの一言で静かになった。親の私にも、何故静かになるかは謎だけれども、利用出来る物は利用させてもらうしかない。
しかし、直を救出に参加させるには説得が必要だった。
「待ってよ。どこの世界に、親を中国スパイから守る娘がいるのよ!。逆でしょ?。」
「いいわよ。やってくれないなら。無理にとは言わない。」
直はこう言われたら、引けないはずだ。
「じゃあどうするのよ?。かなうわけないんだから…。私がやるしかないんだから…。」
「じゃあお願いね!。」
「いいけどさ〜こんな事広まったら、お嫁に行けなくなっちゃうよ。清美ねえちゃんみたいなお嫁さんになりたいのに。」
「何言ってるの。これからは、強い女の子に男の子がついて行く時代よ。」
「私はチクザンのおじちゃんみたいな男の人が良いの。」
「透くん?。もうああいう人は居なくなるね。残念だけど。」
夫が口を挟んだ。
「なんで、直は透と清美が良いんだ?。」
「だって、愛し合うって事がどういう事か、初めて教えてくれたんだもん。」
「お父さんとお母さんも愛し合ってるんだけど?。」
「家はさ〜ほのぼのし過ぎてて。熱くないじゃん。熱くなる必要がないんだろうけど…やっぱり〜熱い方がさ、いい感じだと思う。」
夫はあきれて笑い出してしまった。私はチョット嫉妬した。
「疲れるわよ。熱いのは。」
「私の好みですから。」
私ソックリの口調で言う直に降参した。きっと夫のような男性を連れてきて、ほのぼの暮らすに違いない。
「直。」
「…何?。」
改まった私に、直は緊張してみせた。
「頼むわよ。子犬とお父さんとお母さんの命がかかってるの。」
「うん。まかせて。」
直に合気道を習わせたのは、私でも夫でもない。ある事をたまたま目撃した、小谷流合気道の小谷佐恵子師範だった。
ある事とは、車に跳ねられそうになった幼い姉妹を両脇に抱いて引きずりながら、歩道に救い出したのだ。小谷師範は、直を100人に1人の逸材と見た。それは筋力ではなく、合気道の極意を産まれながらに持っているのだと…。直は小柄な小学4年生であり、2人の子供を素早く動かせる筋力はない。そして、その能力は小さな虫であろうと、命を救う時に発揮される。技術的には小学生レベルであり、力を発揮していない時の直は、私でも充分ねじ伏せられる。しかし。前のアパートの公園で、カマキリを踏みそうになった時…見事に○○Kgの私の体が宙を舞った。
おそらく。世界最強の技で、作戦を成功に導いてくれると私は信じていた。
作戦自体は難しくない。
夫は大学教授であり、学内に出入り自由だ。子犬が居る遺伝子工学棟には、研究室訪問と云う形で入ってゆける。実際一度そういう形で入った事があると夫は言った。私と直を伴って行けば、中国人の2人は舐めてかかってくれるだろう。数秒で気絶してもらって、犬を連れ出し、2部に電話して交渉。ハッピーエンドで終わる。
完璧。
だと良かったんですけど…。やっぱり現実は厳しいものでした。
次話!
ー第4話突入
につづく!