第5話 セカンドオピニオン:CTCAのオリエンテーションに向けて。
CTCA(Cancer Treatment Centers of America)と連絡を取り、
オリエンテーションに参加すると決めた私は
保険内容などを記入した願書をCTCAに送り、
その後は以前から入っていた
日本からのお客さんのおもてなしの仕事に取りかかりました。
このお客さんは今回の出張に関わってくれた方で、
お互いに行き来をしあって情報交換をする、
と言う段取りになっていたのです。
一週間かけて州内を旅して、
お客さんにうちの州で行われている産業を紹介しました。
何ヶ月もかけて関係各所の予定を整えたので、
これが中止にならなくて良かった。
日本への伝手はつぶれても我慢できますが、
いつもお世話になっている地元の有力者に
悪い印象を与えるわけにはいかないのです。
州の中を飛び回っている間もCTCAから次々に連絡が入り、
願書が通ったこと、
オリエンテーションの際に担当医と会うこと、
移動費は保険でまかなわれるので、
費用は一括75ドルのホテル代のみだ、
と言うことが知らされてきます。
オリエンテーションの日付は12月13日。
電話を入れてからわずか11日後に
専門医と相談する機会をいただけたのです。
実際には電話をしたのが金曜日の夜ですから、
月曜日に病院に話が行ってからすぐの予約が取れたことになります。
さらに私を担当してくれる看護師の方から電話があり、
現在の病状や病院に行くに当たっての質問などを聞いてくれます。
その時点で私の問題は舌の裏に出来物ができているだけでしたので、
特に伝えることはありませんでしたが、
病状が進んでいて車いすや他の介助器具が必要な場合、
この看護師さんが手配してくれるそうです。
私自身もCTCAのサイトで病院のことを学んでいきました。
一つ目を引いたのは病院内に大きなカフェテリアがあり、
健康的な食事がとれるということ、
さらに患者は30%引きで食事ができるとのこと。
術後何週間入院するか分かりませんので、
このサービスはとてもありがたい。
アメリカというと食事が残念な印象を持たれる方も多いと思います。
ファーストフードに代表されるような
塩分と脂で押し切られるような食事。
実際にファーストフードはまだまだ健在ですし、
味的にハズレのレストランもそれなりにあるのですが、
この10年位は健康志向の高まりとともに
小さな町でもそれなりに美味しくて
健康に気を配ったメニューを提供してくれるレストランが増えているのです。
病院のウェブサイトの感じだとこのカフェテリアは
当たりの方ではないでしょうか。
一つ誤算だったのは一番近くの病院が保健の関係で使えないと言うことでした。
アトランタかシカゴなら保険が利くとのこと。
冬でしたので、暖かいアトランタも魅力だったのですが、
以前イリノイ州に三年ほど住んだことがある私はシカゴを選択しました。
シカゴには数回しか行ったことはありませんが、
それなりに土地勘がありますし、
アメリカは州や地域によって、
人種はもちろん文化も変わってきますので、
そのあたりを知っている中西部の方がストレスが少ないだろうと見込んでのことです。
とんとん拍子に話は進み、
日本からのお客さんが帰国する頃には
飛行機やホテルの手配も病院が行ってくれて、
後は荷物を用意してシカゴに飛ぶだけ、となっていました。
この病院に丸投げするシステムは万全ではないですし、
常に自分の都合良く進むとは限らないのですが、
病院にまかせっきりでも話が進んでいくというのはとても助かりました。
仕事が忙しかったこともありますが、
ガンの宣告を受けてから、
とにかく色々と考えることが増えています。
体調の事、病院選び、仕事、家庭の事、
そして今後の事。
その上ホテルや飛行機の手配を自分でするとなると、
それなりにストレスになったと思います。
その間も近郊の病院に電話やメールを入れ、
予約を入れようとはしました。
何度も電話を入れ、部署をたらい回しにされた結果、
前述したように、現在の担当医からの推薦がないと予約は入れられないと断られました。
それならそうとウェブサイトに書いておいてくれればいいのに。
そして現在の担当医からの推薦や書類を貰うのも一苦労でした。
担当医がどう思っていたのかは知りませんが、
受付の方が患者を失うという事に過剰に反応したのか、
あれもできない、これもできない、と言い始めたのです。
もちろん患者にも医者を選ぶ権利がありますから、
受付の方は無茶を言っているだけにすぎないのですが、
とても面食らいました。
幸い騒ぎを聞いていた看護師の方が
私の身柄ごと受付から引き取ってくれて、
彼女のデスクですべての処理をしてくれました。
セカンドオピニオンのためだけではなく、
取りやめた日本行きの航空券のキャンセルなどにも
診断書の提出が必要でしたので、
彼女がいなかったら、どうなっていたことやら。
ただでさえストレスがたまり始めていたので、
小さな事でつまずくだけでもダメージが大きくなります。
結果的に推薦も取り付けてくれる話になりましたし、
必要な書類も出してもらえましたが、
このクリニックに対する不信感は募るばかりでした。
そしてオリエンテーションの日が近づいてまいりました
本来ならもっと癌治療について調査をするべきなのでしょうが、
一週間の出張で時間を取られてしまいましたし、
手術やその後の入院のことを考えると、
前倒しにしなくてはならない仕事も多くて、
それどころではありませんでした。
ガンになったからといって全てを投げ出していいわけではないのです。
とにかく疲れ切ったまま荷造りをするのでした。