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アメリカ在住、40代のガン闘病生活。  作者: 黄色い万年筆
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第1話 腫瘍の発見、そして宣告

「それ」に気がついたのは2016年の11月になろうかという日でした。


昔から体調が悪いときに辛いものを食べたりすると

舌の付け根に血豆ができることがあったのですが、

今回は特に辛い物を食べ過ぎたという記憶もないのに、

舌の裏に出来物があったのです。


痛みを伴うと言うこともなく、

皮膚を破って肉が盛り上がっている様です。

大きさは一センチほどでしょうか。

表面の見た目は舌の上側の様に小さなでこぼこがあり、

素人目にみても違和感がありました。


*****


私は北米のとある大学で教えております。

元々勉強家というわけではありません。

高校時代は親の見栄で入れられたような進学校で、

(少なくとも当時はそう感じていたのです。

まあ、きちんと将来を考えなかった自分が悪いのですが。)

入学後やる気を無くした私は毎日授業をさぼりまくっていました。


いよいよ持って大学受験となったときに、

唯一やる気の持てた英語の勉強に特化した結果、

その当時流行っていた北米の大学が提携している日本校の一つに合格。


その後は入った大学がそれほど優秀ではなかったのが幸いして、

高校時代さぼっていた勉強を大学の一般教養課程で補うことに成功。

三年生からアメリカの本校に編入して、

留年することもなく無事に卒業しました。


卒業後は帰国して三年ほど働いていたのですが、

中途半端であった英語力を高めたいという欲が出て

稼いだお金を元に修士(M.S.)課程に進み、

幸運としかいえないような人達との出会いを経て、

気がつけば博士号(Ph.D)課程も修了、

いくつかの研究職を経て、今の仕事に就きました。


それまでは自分のことで精一杯でしたし、

周りに母国語にこだわるあまり、

アメリカ人とコミュニケーションがとれない人たちがたくさんいたので、

日本の研究者に伝手を作る、

と言うことは考えていなかったのです。

しかし、数年前に偶然出会った日本の研究者の方から話が広がり、

ありがたいことに日本の大学で講演をする事になり、

その準備に追われている時の事でした。


*****


その出来物は小さいのに圧倒的な存在感で、

無視はできないと感じた私はいつもお世話になっている

近所のクリニックを訪ねました。

そこで炎症を抑えるマウスウォッシュを処方してもらいましたが、

二週間たっても変化は無し。


クリニックから専門医を紹介されて、

生検を採取されました。


と書くと簡単に聞こえるかもしれませんが、

実際にはその出来物にメスを入れられ、

その一部をサンプルとして採取され、

二針ほど縫ったので、

数日間は堅い物を全く食べられないくらい舌が痛かったです。


そして2016年12月2日。

その日は地元で行われる中規模の学会があった日でした。

私は前年度の会長でしたので、

色々と裏方の仕事に追われた上に、

自分の研究発表もあって、朝から大忙しでした。


無事に学会での会議も終わり、

昼食を軽くとった後に専門医の所へと向かいました。


診察室で椅子に座って待っていると、担当医が来て、

私に一枚の紙を渡しながら言いました。


「悪性腫瘍だね。いつ切る?」


「今なら二週間後が空いているけどどうかな。」


*** 心の声 ***


「いやいやいや、無理無理。

あんな下手っぴなメス捌きで

縫合糸すらきちんと結べなかった人に手術頼むとか、

無理だから!て言うか、

もう少し言い方ってもんがあるんじゃないの?」


「二週間後は日本なんですけど!

小さな講演会のはずが、

いつの間にか話が広がっちゃって

凄いことになっているんですけど!

今更断るなんて無理!」


*** 心の声はここまで ***


「そうですね、家族と相談して決めたいと思います。

すぐに連絡をいたします。」


そう言って医院を後にした私はとりあえず嫁さんに連絡し、

その足で職員会議に向かいました。




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