薔薇姫
異世界憑依で他人の体を奪ったと思ってた。
苦しかった。
でもそれは死ぬ定めの人から譲り受けることだったと知り、ようやく新しい人生を受け入れることができた。
わたしこの人生を頑張らないといけないんだ。
罪悪感にこだわってた馬鹿な自分はもう終わりだ、救いの言葉も手に入れたしこれ以上何を悩む?
わたしはシャルロットを全うする!
そのためには方向性をどうしよう?
今回は前世のように金髪に染めてヤンキーになるとか無理だし違うし、公爵令嬢といえばアレだよな悪役令嬢…って思っちゃうわけで、だって前世はライトオタクだったし。
ちなみにライトってつけたのはモノホンにはかなわねーよなぁといつも圧巻されてたから。
それに最近流行りの悪役令嬢モノ大好きだったりする、ていうか自分がその立場やん爆笑。
異世界で公爵令嬢になったのに、目指さずに何になれと?
なんだか吠えちゃう、わたし馬鹿。
それはともかくわたしには昔奴隷になっていたって弱みがある。だから他の貴族から下に見られるだろうし、令嬢教育だって受けてないから馬鹿にもされると思う。
血統良くても傷物扱いなんだよな、悔しいことに。
そういうのは見返したいし悔しいし、なんといってもシャルロットのために、それにお世話になってる両親のためにも。
となるとやっぱり貴族令嬢を突き詰めた『悪役令嬢』をモチーフにするのがイイよね?イイよね?。大義名分る。
もちろんワガママとか高飛車じゃなしに、強い令嬢って意味な。見下してくる人間を逆にギャフンと言わせて尊く思われるような気高く麗しくを極めた令嬢路線といえばコレっすよね?大義名分るよ。
それにはこの世界の礼儀作法を身に付けないとな、前世での作法もそれなりには身に付けてるから頑張っちゃうよ。
都合のいいことにこの世界には貴族の令嬢で最高と賞賛された者のみに送られる称号がある。
『薔薇姫』っていうんだけどね、既婚未婚問わずの16歳時点の女子のみに与えられる栄誉。
地位よりも作法優先で知性コミュ力で話題に上がった者を投票で選ぶんだけど、得票数次第では毎年選出されるわけでもないというミスコン?
薔薇の色といえば赤色。髪の色の問題じゃないんだけどさ、お父様の髪色のような赤に近づいてみせるってこじつけたら親孝行になるかな?
がんばるべ。
そうと決めたら、心のオモリが取れて気分爽快なんでコミュニケーションも頑張っちゃうよ、特に親子仲。
そもそも異世界の人間と会話できるってスゴイ楽しみじゃん、前世でも海外の人どころか色んな場面で人は違った。
狭い世界しか知らなかったわたしは、自分を変えたくて色んな所に体当りした。最初は怖かったし失敗も多かった、でももっと早く知っていれば悩みも苦しみも違う答えを見つけられたんじゃないかと思ったんだよね。
そういや体術の師匠が『人生は道。自分の道が狭いと渋滞しちゃうだろ、色んな道を通ってもいいしそうすることで自分の道を広くしないとショボイ道のままだぞ』とか言ってたっけ。
変な表現だ、言わんとすることはわからんでもないけどさ。
というわけで親子仲改善キャンペーン。
夕食事時、普段は忙しさを理由に父はいないが、今日の席にはいらっしゃられた。
この世界の食事中に会話はタブーということはない。
だから会話しても構わないんだけど…今までだと会話はスグに途切れて静かな食卓にしてしまっていたんだよね、変えよう。
「お父様、本日はご一緒にお食事が出来て嬉しいですわ」
たまにはわたしから声をかけてみた、だって変わると決めたんだもん。
父との言葉のキャッチボール。最初は今までのように気を使ってくれていたようだけど、わたしの心境が変わったことに気付いたのかリラックスしてきてくれた、と思う。
今までごめんなさい、わたし頑張りますね。
ネタなら豊富やで『世界の知識』あるもん。
今まで遠慮とか身バレとか気にし過ぎてて話せなかったけど、心を向かい合わせての会話は楽しい。
父も流石は一流貴族だけあって会話がうまい、嫌味さもネガティブワードもない、気分をよくさせてくれる。
もっと早く打ち解ければよかったなぁ。
それにしてもお父様ってば乙女ゲームのキャラみてぇだ、うへへへへ。アホ思考。
おいといてぇ~。貴族社会の一員である者との会話は、流石異文化と圧倒される。今度はソッチの方にボロが出ないかと心配になってきた。
いくらわたしにこの世界の知識があったとしても、この世界の人間特に貴族とは異なる考え方や会話の切り口なんですもの。
おそらくお父様は、わたしのことを、平民であるメイドさん達はもとよりどの人種や身分とも違うとお気づきになっていらっしゃるでしょうね。
そんな鋭さをヒシヒシ感じる、流石大貴族の現役当主様。
奴隷をしていたという言い訳でどうにかスルーしてもらえてるといいなぁ。
というかお父様なんだか面白そう…結構癖のあるキャラかも?こっちはドキドキもんで怖いんですけどね。
それはともかく対人会話というか貴族社会の雰囲気に慣れるにはお父様が最適ね。
そんなわけでこの日から世間話をしたり、一日の出来事をお互い話すという日課を持つようになる。
…父がどんなに忙しいかはわかってるけど知らないフリして毎晩夕食を一緒に食べた。
父も娘との食事を好意的なものとして受け入れてくれたんだろうな、スケジュールとか無理してくれてる。…怪しんでるとかが理由じゃないとイイなぁ。
一方母は産後から調子を崩し、未だに寝食を自室で行っていた。
本来の運命だと妹は死産だったのかな?
幸いかどうかわからんけど転生者としてキチンと生まれたんだけど…その悪影響か母の体調は思わしくない。
なのに母はコーヒー大好き人間。
最近自室から出ないので、暇つぶしにコーヒーを物凄い回数飲んでいるのを知った。
飲み過ぎだよ!それが原因じゃないにしてもカフェイン摂り過ぎやろ。
というわけで薬膳とまではいかなくても漢方茶らしきモノを準備しました。
そもそもこの国ってばカフェインの強い飲み物が主流で、珍味扱いな位レア、トドメに激マズ扱い。
でもやっちゃうわたしはチャレンジャーなのだよ、なにしろ前世から割とお茶マニアなんよね攻略したい。
更にこういう時『世界の知識』があると便利です、あまり認知されていない飲み物も簡単検索。
「お母様、体調はいかがですか?母乳にはコーヒーはあまりよくないという記述を発見しました。それに体調が思わしくないようですので薬になるお茶を見つけてきました。あまりお好みではないかもしれませんが、できる限りのものを準備してまいりました」
子供の行為だからと強引に一気に喋りお茶の準備、逃がさへんで。というかわたしも勢いないととっかかりが掴めないのだ。
口実にしてるけど母はもともと体が丈夫ではないため母乳の出も気にしていた。
それなのに前世持ちの赤ちゃんだから母乳の吸い方が下手なのか、それとも照れがあって飲みたがらないのかあまり母乳を飲んでいないという悪循環。
そこに浸け込むわたし。
母は内心では嫌だろうけど、子供の準備したものだからと頑張ってくれて、おそるおそる口につける。
内心ハラハラ。
でも母はスグに嬉しそうな顔をした。
「あら!美味しい。ありがとうシャルロット」
喜んでもらえた。なにしろ母の好みも『世界の知識』でバッチシだからね、吟味したんだよ。
ここぞとばかりにふくらはぎを揉みはじめる。
「早く元気なお姿を見せて下さい」
せめてこれくらいの親孝行はさせてよ、シャルの代わりにできることをしたいんだ。
あざとくてごめんよ、でもこの大根演技がコミュニケーションでは大事なんだよ。
家族の雰囲気がいいと体調回復も早いのか、母は日に日に元気になっていった。
そして母がようやくベッドから体を起こし食事テーブルへ集った日に宣言することにした。
「淑女を目指したいのです、そしていつか『薔薇姫』になりたい」
もちろん決意表明だから両親の目を見て話す、でもブリッコして遠慮がちに言ったけどね。
両親は喜んでくれた。なにしろ今まで自発的に何かを欲求してこなかったからね、それに保護されてからも令嬢教育なんて受けてなかったから頃合いでもあったはず。
というか貴族である両親からすれば、令嬢としての能力を有しないシャルは扱いにも将来的なことを考えても難しかっただろう。
だからわたしは立派なレディを目指すことで両親の望む娘になろうとしたのだ。
薔薇姫というシャルの弱みを覆す高貴なる令嬢への道。
いいじゃん、目指す方向性が一緒ならさ。わたしはなってみせるよ悪役令嬢もとい高貴なる令嬢に。
というわけで様々な教育を施されることになるんだけど…女神様から頂いた膨大なデータと前世で身に付けた行儀作法があるから超余裕。これってチート?
むしろあまりに優秀過ぎると逆に気味悪く思われそうなので、いっそ融合アレンジで独特な文化を生み出してやろうかな?そうすれば崇め奉られそう。
それに好感度の変化を見ながら接すれば、もともと公爵の実の娘であるということもあり、好感度はアッサリ高くなった。ズルい?
それどころか些細なキッカケで、様々な人達からお悩み相談を受けるようになった。だって『世界の知識』で相手の過去を知ってるし。インチキ占い師だ。
なお過去といってもシャルとして憑依するまでの出来事までしか知らんから、最近の悩みは無理。
それと日課のお父様との会話も最近は政治問題がチラホラリ…いいのかな、やらかしてないかなと多少は不安。
きっとわたしの独特というか別世界の考え方が参考になるんだろう、たぶん。
だからもうわたしは迷わない、わたしがシャルロット。
大事なのは罪悪感より生きること、薔薇姫になること。
ズルイけどウィンウィンな関係になるんだからいいよね。
忘れないよ、シャルのこと。
シャルロットを薔薇姫にするよ。
それと妹だけど、お母様のいない隙に『怪しまれない程度に赤ちゃんのフリしてなさいよ』と説教したせいで、恐れられつつも無難な関係になれた。
あとひらがな表を作って、質問に答えさせる形で相手の正体等を把握した。というのもステータスを見ることができるのは秘密にしたからだ。
享年15歳な男子中学生だった、エロガキ。大きくなったらイジメちゃる。
それからも順調に地盤を固め、シャルロットの地位向上を目指し2年が過ぎ10歳(17歳)になった。
世の中の混乱が次第に大きな噂となり知れ渡るようになっていた。
ようやく暗さメインな出だしが終わりそう。
今後は楽しい場面を織り交ぜて書いてるつもりです。
忙しい時期にメドがついたので更新頻度and短編、新作もあげていきますので、よろしければ続きもご覧になって下さい。
読み専の頃から書き溜めてあるので、今の自分が読んでみて修正してから投稿する予定です。
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初っ端に観想頂いてスゴイ嬉しかったんですよ、欲望が生まれてしまいました。
そういえば欲望と異世界転移モノって相性よいような?フト思い立つ。