省略するには苦労したんだから聞いてよ
神々の思惑。
もしかしたらそんなだいそれた物じゃないかもしれないし、もともとそんなもんないのかもしれない。
わからないのが怖い。
わたしを担当した女神様の言う通りなら、神様は4人で来訪者(異世界転生者憑依者転移者をひと括りにした勝手な名称)が31人。
それとこの世界の神様が行方不明ってのも気になる。
なんだろう?サスペンスの主人公って気分になってきた、事件はまだ無いけどな。
とりあえず考え過ぎても無駄なので一時放置。
目先の問題を考えよう。となったのが10〜12歳の頃の出来事。
未だにこの話はプロローグですって感じ。
孤児院や学園がどうにか完成したのは話したけど、その苦労を少し?は語りたいのでいっちゃう。
というわけでジャンヌと来訪者支援をやってもいいかなと決めてからの出来事。
10歳なわたしは勝手にアチコチ出歩けない。
なにしろ令嬢だし誘拐され経験者だしね、ちなみに一度コッソリ屋敷を抜けだそうとしたら御庭番みたいな人にアッという間に回収されました。
どうやら過去シャルが行方不明になった件から護りのレベルが飛躍的に上がったぽい。
貴族相手だと面会の手間とか理由があるから、王都におそらく住んでいるだろう平民の憑依者に会いに行こうとしたんだけど無理だった。
無策でいきなり会うのは無理か。
ていうかそもそもわたしが動かなくてもいいんじゃないかなぁとか、ご都合主義でうまくいくんじゃね?とか尻込みしてみたり。
ってそんなわけないんだよな。既に盗み聴きもとい情報収集で、亡き者になっちゃった転生者の存在を聞いちゃってるんだし。
でもわたしの他に動いている人はいるかもしれないってのは思ったわけで。
誰かイイポジションになってるやついないかな?その人が動いてくれないかなぁと考えたのが、貴族に憑依した人物。
ちゃっかり現世で王族になったという王弟ランス様22歳貴族議会の1員でもある人物。
この人動いてくれないかなぁ?そしたらわたしいらんやん。
情報収集に努めてるとはいっても基本盗み聴きだし、世情はほとんどわからん。
焦燥感はある、転生者がいくらスキル持ちといっても発動してないと使えないし、そもそも発動方法知ってるのか?それに赤ちゃんじゃスグ死ぬ。
今も誰かがと思うと居ても立っても居られなかった。
ジャンヌはお昼寝タイムだがな、羨ましいぜ。
結局行き当りばったりで、できそうなことからはじめてみました。
とりあえずお父様が割と大物なので、とっかかり位にはなるだろうと台本無しで。
その日お父様はごゆっくりされていてテラスで紅茶を口にしておいででした。
「お父様…耳に挟みましたけれど、赤ちゃんが殺されてるって本当ですか?」
わたしは沈痛な表情、苦しそうな声で尋ねたのだった。
ごめん、そんな優雅なタイムをブチ破って。
油断していたお父様は紅茶を口から噴いてむせた、つくづくごめん。
でもアッという間に取り繕い優しい顔になると、わたしを見詰め問うてきた。
「どこでそれを?」
「申し訳ありません。先日お父様がお客様とお話をしていらっしゃる時にですわ」
「盗み聴きは感心しないな、だが気に病ましてしまったのか。そんな話もあるということだが…辛い経験をしてきた君のことだ、気になるのかな?」
「はい。今も不幸な目に会うかもしれない子供がいるのかと思うと胸が痛みます」
これは本当。あらかじめ色々考えてなかったけど、どうにかしたい気持ちで溢れてます。見捨てるなんてできない性分なんだよね。
「おいで」
お父様に手招きされ抱きかかえられる。
「ン〜わたしのかわいいかわいいシャルちゃん〜心配することないでしゅよ〜。お父様がそんな心配チリにかえちゃいます」
鼻息荒いよ父ちゃん。ジャンヌという赤ちゃんがいるせいかわたしにまで幼児言葉で接してくる父、そんな趣味じゃないよね?
だが我慢して頬ずりされておく。ヒゲなんてメイドさんがバッチリ処理してくれてるから痛くねぇ。
「アイツラお取り潰しにでもするかなぁ」
なんでやねん!
そんな軽いノリで言うことじゃないだろう〜。いやいやそれはヤバイてやり過ぎ!それに転生者達の実家が無くなるのは違うやん、かわいそう過ぎる。
「お父様、落ち着いて」
「だがね、貴族における親族殺しは判明すると重罪なんだよ。一応疑惑で留まってはいるが議会でも問題視されているんだよなぁ」
そんなお父様は貴族議会議長をやっていた。
この国の制度を簡単に解説。
トップは王様、その下に王族等も所属する貴族議会と宰相。
国家運営は宰相以下官僚がしてるんだけど、重要案件は貴族議会が審議してからとなっているため実質な重要事項の決定の場になっている。
ウチのお父様ってば大物だね、わたしの将来は安泰だな。
それに貴族間での問題は貴族議会のものになるため、お父様は丁度いい駒でもあるのだ。正直言って。
「シャルちゃんは優しい子になったねぇ。お父様嬉しいよ、嫁にはやらん。」
ん?もしや婚約の話がないのは親馬鹿?いやいや貴族だしそれはないだろ。
それはともかく優しいと言われると心苦しい。だってそもそものわたしの存在はニセモノで、本当の娘であるシャルを乗っ取ったんだもの。
一瞬心の奥底に封じ込めていた狂気が湧き出しそうになる。
ってちゃうやん!こんなことしてる場合じゃない、ソレいらん。
「お父様、わたし助けたいの」
気を取り直して宣言という名の暴発。
正直無策で気持ちだけだったけど、父はデレレした顔から真面目な顔に戻った。流石大物貴族。
「わかった。とりあえず例の子供達を親元から引き離そう…がどの子までをその対象とするかだな。それに養子縁組や後見人をつけるにしてもなかなか各家の問題もあり厄介ではある」
簡単にはいかなさそう。
パワーバランスや体面の問題かー。
それに親元から引き離すことで本当に問題は解決するのだろうか?お父様が『とりあえず』と仰ったように最善策ではない。
現世の親とは言え、捨てられた記憶は彼らに深い傷を残すんじゃないかと思った。
だってジャンヌですら赤ちゃんに同化し感情がだいぶ幼くなってるんだもの。
ついでにチ…性器の存在とか大きくなったら忘れそうだなぁ完全に女の子になるんじゃないかな?
それにわたしですら思考がかなり変わってしまった、元の自分のキャラがアヤフヤになってきた、口調もなんだかシリアスな感じになりつつある。きっと萌えがないからか?
でもそれでいいと思った、前世はもう終わり現世を生きるのがわたしなのだから。
それにしてもこの世界ってオタシュミになりそうなものは小説しかないんだよね。マンガはないなぁ、アニメは無理だろうなぁ。
しかも本屋に行けないし図書館は大人向け恋愛物ばかりなので、いわゆる萌え…ジュブナイルがない、せめて『なろう』が読みたい。
こんなことしてる場合じゃない、これが終わったらオタク作成の場を作ろう。
そんなわけでわたし達は感受性豊かな子供に戻ってしまっている。
だから養子に出される子がこの世界を憎んだり否定するのではないかという懸念もある。せっかくこの世界に来たんだから害悪な存在になって欲しくない。
大人の政治的な問題で解決したんじゃダメだ。
異世界から来たわたしがどうにかしないといけない。
「養子に出された子達は無事に育てられるでしょうか?」
「もちろん選定するから心配はいらない」
「でもその子達の心に傷が…」
突然父が泣き出した。
「なんんて優しい子に育ったんだ。相手の心まで心配するとは素晴らしい!お父様はねシャルちゃんがいなくなったことで深い傷を持っているんじゃないかと心配ばかりしていたんだがね、その傷を人の心のために想うなんて、もんのスゴク優しくて素晴らしい淑女に成長したんだねぇ大感激だ。大好きだ」
やめて恥ずかしくて死ねる、つか…ちょっと正直ウザイ。
親子関係も良好です。
「赤ちゃんだから記憶に残らないさ。それに早目に新しい環境に慣れさせる方が傷も少ないだろう」
記憶に残るんだなぁコレが、だって転生者だもん。
でも早く新しい環境に慣れさせるのは大事なことだ。
いっそ一緒に育てられたらいいのに…それいいかも?
転生者を1ヶ所にまとめておくのは色々好都合かも?
なにしろ安全な生活、スキル発動の機会提供になるし、それにアホな奴が異世界転生オレスゲーとかやらかすかもしれんし。
来訪者同士が集えば心強い…?気も楽かな?どうかなぁ?まぁそれはこの際後で考えよう。
そもそも赤ちゃん状態で不遇を受けてる人対策だし。
あーでも転生者がどんな奴か把握するにはいいかもなぁ、リスク減るかも?
…悪くはないよね、そうしよう。
ていうか今貴族の話ばかりだけど、平民にも転生者はいるのよね。
それに転生者の好感度上げて親代わりしたら、将来何があっても大丈夫そう。
よし!子育てをしてこの世界を征服しよう!
違った。
というわけで孤児院計画のイメージと方向性を考える。
そしてお父様を丸め込み、具体的に煮詰めてもらったのでした。