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プロローグ

どうもみなさん、一年ぶりです。

本文を見ていただき、とても嬉しく思います。

こちらは一年前まで更新していた小説、エレクトリック・ワールドのリメイクとなっております。

最初は説明的で退屈でしょうが、楽しんで頂けると幸いです。


それでは、どうぞ。

 煌く刃が、私の二の腕の肉を切り裂いた。

 傷口は少し深めに入り、血を吐き出す。電気が走るかのような激痛が、私の身体を襲った。

 脂汗をにじませながら、切りつけた人間をキッと睨む。しかし相手はひるまない。脱力したような、力なき身体と目。私の妻は、赤く濡れた包丁を片手に、死んだ魚のような目で私を見つめていた。


 逆光のせいで、表情のない妻の顔が一層恐ろしく思える。


「お母さん……?」


 私が盾になって守った息子が、状況を理解しないまま、腕の中から顔を出す。妻だったものは答えない。目をらんらんと開き、ふらふらとすり足で近付いてくる。私は息子を抱きしめたまま、まるで人形のような”それ”から目を離さず、壁まで急いで真っ直ぐに下がる。


「お父さん、お母さんどうしちゃったの?」


 息子は一切分かっていないようだ。小さな手で私の袖を握りながら不安そうな目で私を見上げている。幸か不幸か、どうやら私の右腕の傷に気付いてもいない。


「なんでもない。少し、目をつむっていなさい」

「うん」


 息子は素直に従い、顔を私の右腕に押し付けた。その素直さに、少しだけ心が和んだ。


 私は再度妻――いや、妻だったもの(・・・・・)()めつけ、スーツの左ポケットから眼鏡のような機械を取り出し、かける。






   □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □


 V,R,起動確認。


 「システムチェック・シークエンス」 →スタート


 脳波⇒GREEN

 座標⇒GREEN

 三次元演算⇒GREEN


 シークエンスの正常起動確認、システム ALL GREEN。




 『電脳世界(サイバー・ワールド)』への干渉状況の許可を発行致します。


   □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □






 眼鏡を通した視界全体に、電脳世界が広がる。発光回路が現実世界の壁をなぞるように、細い軌跡を残しつつ、90度の角度変更を繰り返しながら走る。

 妻の目元には、ウィンドウが開いている。そしてそのウィンドウには、本来詳細データが表示されているべき吹き出しが浮いているはずなのだが、残念ながら全てモザイクがかかっていて見えない。


 これはウィルスの仕業だ。


 V,R,、つまり先程の眼鏡のことだが、それの脳波を読み取る機能を逆手に取り、人間を操り人形化させるものの総称で、過去の世界的な大事件『エレクトリック・パニック』から未だに増加の一途をたどっている。


 ウィルスは乗っ取りをするものだが、その際に干渉者の脳を停止させてしまう機能がある。ウィルスを取り除こうが、ロボットのように命令を欲するがごとく、脳が脳波を受信する状態で停止――つまりは人としては死んでしまうということだ。

 そして私の妻は――いや、もう言うまい。




 気付けば妻は、もう数歩先にまで迫っていた。


 出血している右腕をゆっくり妻に突き出し、銃のグリップを握ってトリガーに指をかける仕草をする。


「ベック、インストール」


 そう呟くと、大量の細かい0と1が手元に集まってハンドガンの形に表示され、次第にハンドガンそのもののような黒い金属の色彩を構成してゆく。




 妻は足を引きずってゆっくり近付く。私は焦らず銃口を妻の頭に定め、ジッと構える。


『ベック構成完了、弾薬装填クリア』


 電子音がベックと呼称される銃の構成の終了を告げる。


 トリガーに力を込める――。




 だが私はトリガーを引けない。


 いや、引ききれない。


 彼女を――殺したくない。




 右手が震え始める。


 曲がりなりにもこれは殺人だ。法律上許されても、それで解決できない何かがある。この傷は、今の右腕の裂けた肉の痛みとは違う痛みを背負わせることになる。手と額に汗が滲み、恐ろしさに生唾を飲み込む。


 ――違う。私は怖いだけなんだ。

 愛した妻を失うことを、息子の未来を守るために自分の手を汚すことを。


 右手は段々と震えが増してくる。あまりの自分の弱さに嫌気が差す。


「――クソッ!」


 分かっている、もう私の知る妻は死んだ。それでも人を、家族を殺す罪の意識が私を邪魔する。

 気付けば妻は眼前に立ち、すでに包丁を振り下ろす構えを取っていた。






「クソッタレ……ッ!」






 私はついにトリガーを引いた。目の前に包丁と、妻の死体だけが転がっている。

 私は妻を、息子の母親を――。




    ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「よぉ、親父。目ェ覚めたようだな」


 大汗をかきながら目を覚ますと、そこには響也がいた。

 私のたったひとりの、大切な息子。


「――あぁ、最悪な悪夢だったよ」


 右の二の腕をさする。

 痛みはないが、ぞくりと何かが背中を走り、身体が震える。

 身体の芯でも冷えたかのような気分だ。


「あのいつもの教えてくれない悪夢かよ。いい加減少しでも教えてくれてもいいんじゃねぇか?」

「断る」


 少し強い語調で突き放す。

 妻を自らの手で殺したことなど、伝えたくはない。

 母親を殺したのが自分であることを伝えることなど、できやしない。


 私は――。






 私は絶対に許さない。


 妻を殺したウィルスを。


 妻を殺さなければならなくなった理由全てを。


 絶対に許さない。




 これは私の『復讐』だ。

ご覧になっていただき、ありがとうございます。


更新スピードは保証できませんが、今後もちゃんと不定期でも更新できるように尽力しますので、どうか宜しくお願いいたします。


それではまた、次のエピソードで。

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