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意気地なし



 昼から何も食べていない。


 部屋に閉じこもり、腹の虫を聞きながら宿題を片付けた。そろそろお風呂に入ろうと、そっと部屋を出る。

 居間からはテレビの音とともに父と玲子さんの声がする。それに混じって、鷹也の品のない笑い声が聞こえた。


「ふんっ」


 居間の前をすり抜ける。脱衣所のかごに衣類を放り込みながら、イライラした。


 自分だけがのけ者にされているみたいだった。

 ここは僕のうちなのに。

 どうしてこんな目に遭わなきゃいけないんだろう。それもこれも全部、鷹也と玲子さんがうちに来たからだ。

 父の再婚をろくに反対もしなかった僕が悪いのかも知れないが、やるせなかった。


 イライラした気分のまま、お風呂に入って僕は立ち尽くした。

 めちゃくちゃに散らかっている。タイルには石鹸の泡が飛び散り、そろえてあるシャンプー、リンスも倒れてあった。

 鷹也だ。こんな事をするのは、あいつ以外にいない。

 他人と生活する事がこんなに苦しいなんて。


 むしゃくしゃした気持ちのまま、肩までお湯に浸かると、そういえば、鷹也も入ったんだよな、と思った。

 朝も入ったのにずうずうしいやつ。


 ぶくぶくとお湯の中に埋もれてから、他の事を考えようと思った。けれど、やっぱり鷹也の顔が思い出されて苦しくなった。


 本音を言えば、もっと優しくしてくれたらいいのにと思う。

 そしたら、僕だって少しは素直になれるのに――。

 お風呂から出て、パジャマに着替えた。

 この間、父と買い物先で見つけたドット柄のパジャマは、ちょっとかわいすぎて嫌だったが、父が気に入って、僕が渋っている間に買ってしまった。


 こんな姿見られたら、恥ずかしくてたまらない。

 鷹也に見つからないように、脱衣所を出ると、廊下が水浸しなのに気付いた。


「あぁ……」


 まただ。


 犯人は鷹也に違いない。足跡は南側の鷹也の部屋に続いていた。

 文句のひとつでも言ってやろうと思ったが、鷹也には見られたくないので仕方なく部屋に戻った。

 ベッドに座って髪を乾していると、


「翠、ちょっといいかい?」


 と父がやって来た。父もパジャマ姿だった。


「何……?」


 食事の事を言われるのだろうか。身構えていると、


「玲子さんと鷹也くんにプレゼント渡した?」


 と全く別の事を言った。


「あ……」


 忘れていた。


「鷹也くん、裸でうろうろしているから、気になってさ」

「えっ?」


 父の言葉に驚かされる。


「見ていて、いたたまれないんだよ」


 早めに渡しておくんだよと、それだけ言って部屋を出て行った。




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