ドキドキ
目を覚ますと、僕は鷹也の腕の中にいた。
あまりに驚いて声を上げそうになったが、かろうじてこらえた。
眠っている鷹也は、粗野で乱暴者の男じゃなく、かっこよく見えた。
僕はドキドキしながら、鷹也の頬に手を伸ばした。触れてみると温かい。
「起きたのか?」
息が止まりそうになる。鷹也が目を開けてじっと僕を見て言った。
「い、今…何時かな…」
どうにか声を出すと、鷹也は息を吐いて僕を抱き寄せた。
「夜中だろ」
熱い吐息が額にかかる。僕はドキドキしながら鷹也のぬくもりを感じた。でも、六月に抱き合っていると、暑くてたまらない。
僕は眉をひそめて鷹也を見上げた。
そういえば、お風呂に入っていないことを思い出した。
「お風呂に入りたい」
「明日にしろよ」
鷹也が面倒くさそうに答える。
その顔を見ながら、最初と全然違うな、と気付いた。
初めて会った時は、ボサボサで汚かったいのに、ちょっと小奇麗になった気がする。
この前も仕事明けだというのに、お風呂に入って髪まで切ってさっぱりしていた。
と、ここまで考えた僕はうっかり大事な事を思い出して血の気が引いた。
「翠?」
急にかちこちになった僕に気付いて、僕の顔を覗き込んだ。
「どうした?」
「何でも…」
「ないじゃないだろ、その顔。隠し事はなしだ」
「うん…」
僕は頷くと、鷹也にぎゅっと抱きついた。
「真由葉って……誰?」
「……へ?」
鷹也は一瞬、呆けた顔をしたが、笑いをかみ殺すように口を噛んだ。
「な、何がおかしいんだよっ」
「あ、ああ。お前、まさか、真由葉に嫉妬していたのか?」
「そんなんじゃ……」
「そうか。やきもち焼いていたのか、かわいいなあ」
ニヤニヤして僕の頭を撫でた。
「義妹だよ」
「えっ?」
「真由葉はまだ五歳だよ。幼稚園に行ってる」
「嘘…」
「嘘じゃねえよ。俺の親父の再婚相手の娘。まだ五歳になったばかりだぞ。今度、会わせてやるから、あ、それと昨日、遊園地に行く約束したのにすっぽかしたからな。あいつも誘って三人で行くか」
気が抜けた。真由葉が幼稚園児だったなんて。
今まで嫉妬していた自分を思い出して恥ずかしくなる。そうならそうと、早く言ってくれたらよかったのに。
僕は照れ隠しに話題を変えた。
「と、ところで、鷹也は何の仕事をしているの? お父さんの新しい仕事って何?」
矢継ぎ早に聞くと、鷹也は、それはまた今度な、とはぐらかした。
「今、教えてよ」
「今、それどころじゃないんだよ」
言うなり、ベッドから出ようとした。
「どこに行くの?」
「部屋に戻るよ」
「僕も行くっ」
「翠…」
鷹也はベッドの端に座ると、深いため息をついた。
「一緒にいてよ」
「いたいのは山々なんだが…」
鷹也はそう言うと、はだけたパジャマに気付いてボタンを留めてくれた。
「あ、ありがとう」
あれ? いつパジャマに着替えたんだっけ。
不思議だったが、鷹也は目を逸らした。
「鷹也」
「ん?」
ボタンを留めてくれた鷹也が顔を上げる。
「大好き」
そう言うと、鷹也は複雑な顔をしてから、ははっと笑った。




