ぼちぼち
背中を撫でていた鷹也の手が止まった。
「翠」
「な、何?」
「池内さんの事は心配するな。次に働くところは決まっているから」
「え……。そうなの……?」
すとんと気が抜けた。
「何だ…」
自然と笑顔になる。
「よかった」
鷹也がぽんぽんと僕の頭を撫でてくれた。そして、撫でながら唸った。
「翠……」
「何?」
見上げると鷹也が大きくため息をついた。
「その…、さっき言った言葉なんだけどさ…」
「え?」
「俺の事、お兄ちゃんって呼んだだろ…」
「あ、う、うん……」
顔から火が出そうなほど熱くなる。必死だったから、つい、ポロリと言ってしまった。
「あれ、やめてくれ」
「え?」
一瞬、頭が真っ白になる。
「な、何で?」
「嫌だから」
「そん……な…」
僕は鷹也から離れようとした。
「翠っ」
次の瞬間、僕は腕をつかまれて抱きしめられた。
「鷹也…っ」
顔を上げると、真っ赤な顔で鷹也が呻いた。
「翠の事は、最初から義弟だなんて思っていない」
「僕が……嫌いなの?」
「違うっ」
鷹也は怒鳴ってから、後悔したように首を振った。
「違う、そうじゃない。嫌いじゃなくて、お前が好きなんだよ。抱きしめてキスしたいって言う意味だ…」
くそ、と鷹也は小さく言う。
「犯罪者だろ、これじゃあ…」
「僕を…好きなの?」
「ああ」
「本当に?」
「ああっ」
吐き捨てるように言ったが、瞳は優しかった。
「好きだよ」
僕を見つめるとはっきりと言ってくれた。
「お前が、俺の事を兄貴として見るんなら、それでもかまわない。ただ、俺がこういう意味で、お前を好きだと言う事を知っておいてくれ」
「鷹也…っ」
僕は離れていきそうな腕をつかんだ。
「待って、僕も…僕も鷹也の事、好き。大好きっ」
「翠…」
鷹也は目を見開いたが、肩で息をついた。
「それは兄貴としてだろ?」
「ちが……」
きちんと好きだと言いたかった。
でも、鷹也の顔は何かを悟りましたって感じでしおらしい。
僕は唇を噛むと、思い切って背伸びをした。
鷹也の唇にチュッとキスをすると、鷹也が驚いて仰け反った。
「お、おま…っ。何をっ」
「好きだって証明」
「お前、本当にかわいいな…」
頭を撫でる手つきが優しい。
僕はうとうとしながら、懸命に目を開けようと努力した。
「寝ていいぞ」
「鷹也……」
「ん?」
「今度は…もっと長いキスをしてくれる?」
「…まあ、ぼちぼちな」
「うん…」
お願いだよ、と僕は言った。
それから、後の記憶はない。




