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物理法則もあったもんじゃねえな

 ギルド長が戻ってきたのは10分ほどしてからのことだった。

 もうすっかり落ち着いたのか、皮肉そうな笑みを浮かべている。


「さて、次の試験を始めるぞ、童貞」


「どっ……失礼ですね!」


「やかましいわい童貞! 人の下着盗む奴にはそれくらいがお似合いだ!」


「フッ……ギルド長、いい事を教えてあげましょうか?」


「なんだ」


「世の中には娼館ってものがあるんですよ」


「なにおう……お前、娼館にいった事あんのか。ちっ、からかうタネが一つ減った……」


「フッ……俺は存在の話をしてるんですよ」


「行ってねーのかよ! やっぱ童貞じゃねーか!」


「うるせー! 娼館行ってハズレ引いたり病気もらうくらいなら童貞の方がマシじゃ!」


「童貞の理論振り翳してんじゃねー!」


 ギャアギャアと低レベルな喧嘩を始めるギルド長と光輝。

 そしてあきれたような顔でそれを眺める受付嬢。


「この童貞童貞童貞!」


「うるへー! ギルド長なんか永遠に幼女じゃねーか!」


 さて、醜くどうしようもない争いはさておき、試験の開始である。


「よし、弓術試験だ。驚くようなものを見せてみろ」


「はぁ」


 手渡された弓の弦をビーンビーンと弾いて光輝が調子を確認する。軽く引いてみると、随分と素直な調子だなと頷く。

 恐らくこう言う用途に特別素直に造ってあるのだろう。威力はあまりない。


「んじゃま、軽く」


 ぎっ、と弓に矢を番えるとそれを放つ。

 射られたのは最大射程から幾分離れた120メートルほどの距離にある的。

 これでも随分といい腕だとポーレットはうなずく。

 が、真に驚くべきはここからだった。


「よっ、ほっ」


 コウキは続けて2射、3射と立て続けに矢を放ち始めたのだ。

 それが都合6射行われたところで矢は止まる。


「どうです?」


「文句なしに合格だな。普通に冒険者やってても何ら問題ないだろうさ。レンジャーギルドに行けば諸手を上げて歓迎されんぜ?」


「さようで」


 コウキの放った矢のうち、的を外れたものは一本もない。

 しかしながら、的に突き立った矢は僅かに2本しかない。

 なぜかといえば、先に突き立った矢をぶち割って突き立った矢が4本もあるからだ。

 つまり、1射めはともかく、残る5射はしっかりと狙いを狙い直す間もなかったのに皆中させるどころかピンポイントに矢を放って見せたのだ。

 驚嘆すべき腕前だ。


「よし、次だ次。次は剣だ」


「はいな」


 そう言ってすぐ傍に地面に突き立っている杭に、鎧と盾をくっつけた的の前に招待される。

 べこべこにへこんでいるところからすると、これに打ち込みをするのだろう。


「適当にやってみろ」


「うわっと」


 投げ渡された剣をあわてて受け取り、軽く確かめる。

 ろくに刃もない練習用の剣だ。剣と言うより鈍器と言う方が正しいだろう。


「あと、その鎧はぶっ壊して構わん。どうせ買い替えの時期だからな。ぶっ壊しでもしないと予算をくれんのだ」


「さようで」


 つまりぶっ壊してくれた方が助かるからぶっ壊せよと言外に要求している。

 ならしょうがないとコウキは気合を入れると、全力で剣を振るった。


 響いたのは澄んだ金属音。


 その一撃で鎧と杭を一刀両断して上部が地面に転がった。


「こんなもんでどないです?」


「完璧だ。練習用の鎧の申請ついでに矢と弓の代金も紛れ込ませてやる。よし、次は棍棒でも振ってもらおうか」


 小賢しくやってるなぁと思いつつもコウキはうなずく。

 と言っても棍棒を渡されて、今度は横に立ってる同様の杭と鎧の前に立たされる。


「それもぶっ壊せ」


「はいはい」


 言われた通りに今度も全力で棍棒を振るった。

 鎧が鉄板に成り果て、杭は圧し折れた。


「よし、次だ。槍を使ってみろ」


「はいはい」


 今度は一息で5連打ほど繰り出し、鎧を穴だらけにした。


「よし、今度は素手でやってみろ」


「ギルド長、俺のことをびっくり人間か何かと思っちゃいませんか?」


「そんなわけなかろう。いいからやってみろ」


 鎧は乱打を撃ち込まれてぐしゃぐしゃの鉄塊になった。


「次、銃だ」


「OK!」


 ズドンッ! と何の躊躇もなくコウキが銃をぶっ放し矢を命中させた的を吹っ飛ばした。


「初めて使う銃でそれなら完璧か。次は投擲でも見せてもらおうか。ほれ、ナイフだ、好きなだけ投げな」


「はいはい」


 さすがにこればかりは射程に限界がある。

 15メートルほど先の的にカツカツと次々ナイフを突き刺し、見事な円を描いて見せた。


「よーし、武器は完璧だ。次は魔法だ。適当に攻撃系魔法を使って見せろ」


「メガフレイムー」


 おざなりな調子で放たれた魔法が鎧を吹っ飛ばした。


「景気がいいな。次、治癒。ついてこい」


 どこで何をするのかと思ったコウキだが、何の事は無い。連れてこられたのは病院だった。

 入院施設も整った立派な病院である。


「山ほど怪我人が居るからな。おい、今日も試験だ。適当に怪我人を出してくれ」


「いつもありがとうございます」


「なに、ちゃんとくれるなら構わん」


「ええ、ええ、もちろんですとも。なにしろ相場の半分ですからね」


 なにやら黒い話をしているが、努めて聞かなかった事にしてコウキは次々とけが人を治した。

 ほくほく顔の院長に見送られ、重そうな革袋を手にしたギルド長と共に病院を立ち去る。


「次は補助魔法だ。何が使える」


「リミットブレイク」


「おっ、強化系の奥義じゃないか。これが使えるだけで完璧だな。次だ次。変性系を使って見せろ」


「テレポートでもやりますか」


「それならコイツを使ってやれ」


 ぽい、と投げ渡された石を受け取るコウキ。

 転移する際の座標が魔法的に刻まれた石だ。これを用いることで望みの場所に向かえる。

 ならばと複数人用の転移魔法を使用してみると、のどかな農村に転移した。


「ちょっと待ってろ」


「はいはい」


 十数分ほどして、酒樽を背負ってギルド長が戻ってきた。あの重そうな革袋はどこにも見えない。


「よし、次だ。開錠技能でも見せてもらおうか」


「どこでやるんですか?」


「そうだな、いったんギルドに戻れ」


 言われた通りに転移し、ギルド長が案内したのは実に立派な大邸宅だった。


「開錠のついでに隠蔽だとかその辺りも見せてもらうとしよう。私にもちゃんと指示とか魔法使って隠すんだぞ」


「はいはい」


 なんか犯罪の片棒担がされてるような……と思いつつもコウキは鍵をピッキングして開け、内部に透明化の魔法と純粋な技量で忍び込み、指示通りに書斎に忍び込む。


「あったあった。おーおー出る出る。二重帳簿まであるじゃねえの。こんだけあればあの豚野郎の首が飛ぶな。国庫に入れられる資金があったら可哀想だから持っていくとしよう」


「…………」


 一応不正してる人の証拠らしいからいいのかな……と思いつつ、コウキは言われた通りに金庫やらも片っ端から開錠して転移でギルドに戻った。


 その後も試験は続き、鉱山で金を掘らされたり、手当の技能を見せたり、木を叩ききる手際だの、暗号化された地図の解読だのまでやらされた。


「うん、大体終わったな」


「何と言うかまぁ……凄い結果ですねぇ」


 ギルド長がコウキのテスト結果を記入していた用紙を受付嬢に手渡すと、呆れ返ったような声を出す。


「あれ、でも半分白紙ですよ」


「そんなもんやるまでもないだろ?」


「でも一応規則ですし……」


「あーはいはい。ま、一応な。よし、コウキ、お前あれだ、料理は出来るか?」


「出来ますけど?」


「私等の晩飯作ってみろ」


「ええっ!? ちょっ、ギルド長!?」


「いやほら、コウキのことだからなんかすごいもん見せてくれるんじゃないかな、と」


「う、うーん……」


「そういうわけだ。つーわけでコウキ、支度金はコイツだ。うまいもん作れ」


 どさっ、と白金貨を渡される。これだけあれば相当なものが造れるだろう。


「いいんですか、こんな大金」


「うーん、お前が下手くそなら素材の味で誤魔化せる。お前が上手いなら素材の味がより引き立つ。ほれ、完璧だろ」


「下手くそなら素材の味を台無しにして最低のものを作る可能性も……」


「あー……まぁいい。ほれ、早く材料調達して作れ!」


「はいはい」


 言われた通り、コウキが市場に赴いてあれこれと材料を調達し、ギルドに備え付けの調理場で調理を行う。

 その最中、ギルド長のポーレットと受付のマティルダは食堂で仕事を片付けている。

 その2人の前に、透明感あふれる料理が並べられる。


「野菜のジュレです」


「おっ、おいしそう!」


「わぁ、ほんと。これ期待以上かもしれませんね!」


 嬉々とした調子で2人がスプーンを手にとって野菜のジュレを口に含んでみる。


「ふんふん、豆にセロリ、キャベツにニンジン、ホウレンソウか」


「へぇ、サッパリしてておいしい。これ前菜?」


「まぁ一応。続々持ってきますね」


 その後、オードブル代わりのジュレに続き、メインのスープとなるフカヒレのスープ。

 メインの前の箸休めに近い調子でキノコのカップパイ。

 魚介のメインディッシュに白身魚とホタテをワインとバターで蒸した酒が進む一品。

 調理がやたら面倒くさいと嫌がられるドラゴンのステーキ。ドラゴンとは思えないほどに柔らかだった。

 デザートにはプリン・ア・ラ・モード。

 そして最後にはコーヒーまで出る至れり尽くせり具合だった。


「はぁー、久しぶりに上等なもん食ったー」


「美味しかったですねー」


「それで、試験の結果はどうなんですか?」


「あっ」


 そう言えばこれ試験だったなとポーレットが思い出す。あんまりにもうまい料理を出すもので忘れていた。


「まぁ、料理は合格だな。よし、次はなんかカクテルを作ってみろ」


「なにが好きですか?」


「甘い奴だ」


「グラスホッパーでいいですか?」


「よく分からんから任せる」


 ギルドに備蓄されているリキュールや、買ってきていた食材を適当に流用してコウキが手早くグラスホッパーを作って供する。


「む、んまい。いい腕してんな。よし、次は適当になんか鍛冶でもしてみろ」


 なんでそんな施設あんの? と首を傾げつつも地下の鍛冶場に連れていかれ、ギルド長の体にあった剣から鎧まで作らされる事になった。

 それが終わると今度は開錠技能を使った屋敷で手に入れた宝飾品でアクセサリーを作らされ。

 受付嬢に夜会用のドレスを作らされ、スクロールの模写をやらされ、木材と繊維だけ渡されて弓を作らされたりとさんざん色々やらされた。


「全部終わりましたね」


「そーだな」


「で、この技能評価……ちょっと……」


「武器はなんでも使えて、魔法もなんでもござれ。斥候技能がへぼかと思えば男爵様の屋敷から帳簿に財宝盗み出せる。なら生活無能者かと思えばこの町の料理人が軒並み廃業しなきゃなんねえ料理を作るわ、うまいカクテルも作る。鍛冶屋が裸足で逃げ出し、職人が土下座で教えを乞うくらい生産技能もあって、お貴族様が喜んで買い漁るようなアクセサリーも作りやがると来た。試しに歌わせてみりゃカストラート顔負け、歌って踊れるアイドルにだってなれんぜ。肉体も優良、魔力も強大……この報告書を作った大馬鹿野郎が居たらぶん殴ってやりたいところだ」


「作ったのギルド長ですけどね」


「わからいでか。こんな人型決戦兵器がいやがるとは思ってなかったぜ」


「せいぜい、武器全般に秀でてるとか、魔法全般に秀でてるとかですもんね」


「そーだ。ったく、文句なしで合格だ! ギルドランクもしょっぱなからAにしてやるぜ!」


 笑顔のギルド長に太鼓判を押され、コウキは破顔する。


「ありがとうございます! これから頑張ります!」


「おう! うちの総合ギルドの看板背負って立つことになるんだ。嫌でも頑張ってもらうぜ」


 こうしてコウキの異世界生活の第一歩が始まる。

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