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ダメだ、ゲッター炉心のパワーが上がらない

 結論から言うとバスとは乗合馬車のことだった。

 その馬車に乗って近くの町まで向かうが規模はさほど大きくなく。乗り継ぎを繰り返し、数日をかけて首都オウカまで辿り着いていた。


 移動の代金に関しては唸るほどの金貨が物を言った。

 全キャラクターの銀行、場合によっては手持ちまで浸食している金貨は総額で3億6000万金貨となる。

 これがどれくらいの額かと言うと、一等戦列艦が金貨10万枚ほどで購入可能だというと分かりやすいだろう。現状、世界で最も高価な兵器でその値段なのだ。

 光輝の所持金は一国の国家予算をも軽々と超えているという事になる。

 この莫大な金貨を用いて馬車を購入……したのではなく、心づけとして金貨を払って首都に向かう馬車に同乗させてもらっただけだ。


「ふぅー……さて、どうするかなぁ」


 身分を証明する物も何もないため、門番に金貨を数枚握らせて町に入った光輝は凝り固まった首を巡らせてほぐす。


「どこで邸宅でも買うかな。それとも、なんかしらのギルドに入るかな?」


 道中乗り合った馬車で積み込んであった彫刻を褒めたところ、石工ギルドに来てくれれば歓迎するとまで言われるほど気に入られてる事もあり、職人として生きるのも悪くないかと考える。

 スキルに関して殆ど確認してはいないが、少なくとも彫刻くらいなら出来そうだという自信はあった。


「まぁいいか。さて、行こう」


 とりあえずは首都を見回ってみようと思い、あちこちを歩き回る。

 時折、スリらしき少年にぶつかられたりするのだが、懐には何も入っていない。ブレスレットに関しては何をどうやっても取り外すことが出来ない。

 公衆浴場に入るときに邪魔だから外そうとしたのだが、力いっぱい引っ張っても手首から外れなかったのだ、不思議なことに。


 そうしてしばらく歩き回ったところで、広場らしきところで宣伝をぶっている連中を見かけた。

 簡素な作りの木製の台に乗って喋っており、よく声が通っている。


「――――剣士ギルドでは初心の者にも丁寧な教えを与える事を約束し……」


 どうやらさまざまなギルドのお偉いさんが出張ってきて人を集めているらしい。

 首都であるだけに人も多く、外から来る者も多い。そう言った人物を勧誘するためなのだろう。

 聴衆も山ほどおり、この調子なら人集めも楽なのではないかなと思う。


 職工系のギルドも出てくるのだろうかと期待して待つ。

 どうやら戦闘系のギルドが先らしく、いかにも職人然とした連中は居るが全く壇上に上がる事は無い。


 剣士ギルド、槍士ギルド、拳士ギルド、弓兵ギルド、短剣ギルドなどなど……ポールウェポンギルドなどもあり、お前それ他ギルドと統合しろよと言いたくなるようなギルドも数多い。

 そうしていつまで戦闘系ギルドが続くんだよ、と思った頃に、銀髪の少女が壇上に上がった。

 純銀のように輝く髪。白い肌。幼げでありながら怜悧な美貌。透き通るような印象のある少女だった。


「我が諸兵科ギルドでは、単独であらゆる行動をこなせる優秀な人材を期待している! 我がギルドの一員として活躍するには厳しい条件を乗り越える必要があろう。だが、その代価として得られる栄光は途方もないものだ! 我こそはと望むものは我がギルドの門を叩くがいい!」


 朗々とした幼げな声。諸兵科ギルドの具体的な話は全く聞けていないが、これはよほど人材が集まらないのだろうか。それとも集まりすぎていて期待していないのだろうか。

 ただ、既に光輝の腹は決まっていた。


「よし、諸兵科ギルドにいこう」


 職工ギルド? そんなもん知ったこっちゃねえ! 俺は諸兵科ギルドに入るぜ! そしてあのかわいい子と仲良くなるんだ!

 今、光輝は激しく欲望に燃えていた。

 ロリコンと罵られてもしょーがない有様だが、そのくらいかわいかったのだ。


「よっしゃあ! 入る入る! 俺、諸兵科ギルドに入る! 入りまーす!」


「よかろう! 歓迎するぞ! ではさっさと書類を書いて諸兵科ギルドの受付に提出してこい!」


 ぺいっ、とおざなりに紙を一枚投げつけられて受け取る。

 そして光輝に続いて何人もの男たちが俺も入る俺も入るとこぞって手を上げる。


「よっしゃー! やるぜー! 俺はやるぜぇ!」


 そして書類が読めなくて撃沈した。




 途方に暮れて、何とか読めるようにならないかと書類を親の仇の如く睨み付けていると、なぜか突然読めるようになった。

 なぜ読めるようになったのかと首を傾げたが、どうやら解読スキルの効果のようだった。

 元は宝の地図を解読するためのものだったんだけどなぁ、と思いつつも、読めるようになったので必要事項を記入する。

 名前、年齢、そして出来る事。

 出来る事はチェックシート式だった。


 それらを書き込み終えると、さっそく諸兵科ギルドに赴きそれを提出する。

 受付嬢は大変引き攣った顔でそれを受理した。


「ギルド長がお戻りになるまでしばらくお待ちください」


「りょーかいっすー」


 依頼に来る人間のためであろうか、置かれていた椅子に適当に座るとしばらく待つ。

 すると、あの時朗々と演説をした銀髪の少女が戻ってきた。なにやら機嫌よさげに笑っている。


「戻ったぞ、どうだ、誰か来たか?」


「はい。1人だけですが、既に提出されています」


「どれ、見せてみろ」


 どうやら彼女がギルド長らしい。

 そして、その少女は書類をじっくりと眺めると爆笑した。


「あっはっはっはっはっは! どこの汎用人型決戦兵器だ! この書類を書いた大馬鹿野郎はどこだ? ツラを見てやる」


 笑いながらそう言うと、受付嬢は光輝を指差す。

 ギルド長が振り向くとそこには悲しげな顔でたたずむ光輝が居た。


「うん? なんだ、お前は真っ先に手を挙げた奴じゃないか。ふむ……ふんふん。ふーむ……よし! お前の試験を執り行うぞ!」


「あのう、ギルド長、これから志願者の訓練では?」


「ばかたれ。貴族のクソボンボンだの莫迦どもを英雄様に仕立て上げるくらいなら、こういう奴を指導するのが私の好みなんだよ」


「と言いましてもギルド長……」


「やかましい。才能がかけらもございませんとでも言っておけ。実際に才能はかけらもない。うちでやっていくにはだがな」


「ギルド長の基準が厳しすぎるんですよ……」


「ふん、それくらいでなければ我がギルドではやっていけないんだ。さて、コウキ・スノハラとやら。ここに書いてある通り、お前はあらゆる技能を一流の領域でこなせるんだな?」


 コウキが記入した書類には、様々な技能に「一流の自信がある」とチェックが埋められていた。

 これに関しては、コウキがほぼすべてのスキルを最大値の100に近い水準で所有しているためだ。

 最も低いスキルでも、あまりの面倒くささに挫折した盗みスキル90.2くらいなものだ。


「はい! 自信があります!」


「では手始めに私から何かスリ取って見せろ」


「スリ、ですか?」


「当然だ。スリはとても重要な技能だぞ。使い道はとても多い。ムカついた野郎の財布をスリ取ってうっぷん晴らしも出来れば、勅使の秘密文書を盗み取ったりもできるんだからな」


「なるほど」


「見事スリ取れたらその時点で合格にしてやる」


「スッた物はもらっていいですか?」


「ふふん、スリ取れるものならな。さ、やって見せろ。なんでもいいぞ? それこそこの剣でもいいし、髪飾りでもいいのだぞ? 私の身に着けているものは全て一級品だからな」


 その言葉を聞いた瞬間、既に光輝は行動を開始していた。

 そも、スキル値とはその人間がどれほどまでにその技能を習熟しているかを意味している。

 本来、人間の限界とはほんの70程度。それを特殊なアイテムを用いることで解放していく――――。

 ならば、90を超えたスキルとはどれほどの領域にあるのか。

 それはもはや、歴史上における至上の天才と言われるほどまでの領域にあり……盗みの極意、それを理解した時――――。

 パンツは既に――――その手に握られていた……。


「貰ったぞ!」


「な、にぃ……!? 馬鹿な……! この私に盗まれたことすら気付かせ……って何をスリ取ってるんだ馬鹿もの!」


 ギルド長のグーが光輝に炸裂する。


「おぐっ……で、でも、なんでも取っていいって言ったし……」


「確かに何をとってもいいとは言ったが下着を盗む奴があるか! そもそもどうやって取った!?」


 肌に密着していたものだし、そもそも下着は足を上げなければ脱げない。本当にどうやって盗み取ったのだろうか。


「それは企業秘密です」


 そう言って光輝は懐にパンツをしまい込むフリをしてブレスレットの中にパンツを収納した。

 このブレスレット、インベントリ枠と銀行枠、そして特殊アイテムバンクを兼ねているらしく、アイテムの収納が可能なのだ。

 と言っても銀行枠は大半が埋まっているし、インベントリ枠は1キャラ分なので全く余裕はないのだが、パンツ1枚くらいなら保管は可能だった。


「仕舞うな! 返せ!」


「でもギルド長スったものくれるって言ったじゃないですか! 言ったじゃないですか! 言ったじゃないですか!」


「ぐっ……! 確かに、言ったが……! そ、それでも返せ!」


「くれるって言うたやないですか! くれるって言った! くれる言うた!」


「ぐぐっっ……うぐぐぐぐ……! わ、かった! くれてやる! くれてやるさ! ああくれてやるとも! この変態め!」


 変態の汚名(正当な評価ともいう)を着せられながらも、見事にパンツを手に入れた光輝は嬉しそうに笑った。


「じゃ、返します」


「は!?」


「いえ、ギルド長の狂態が見たかっただけですので」


「お、おまえ……性格悪いな!」


「知ってます」


 ニッコリ笑って光輝は肯定した。


「クソッ、まぁいい。それくらい性格が悪くなくては海千山千のヒヒジジイどもとはやりあえんからな……よし、次は他の技能を見る。ちょっと待ってろ」


 気を取り直したのか、ギルド長はパンツを受け取ると歩き出す。履かないのだろうか。


「ところでギルド長」


「なんだ」


「パンツ履かないんですか」


「人が触った下着が履けるか馬鹿者! 着替えてくるからちょっと待ってろ!」


 そう言ってドスドスと足音も荒く歩き去るギルド長。

 どうやら着替えるために歩き出したらしい。


「怒ってるギルド長もかわいいですね」


「えー……あの、あんまりギルド長を怒らせると後が怖いですよ?」


「もうあんなことはしませんから大丈夫ですよ。それにギルド長ってなんだかんだで義理堅いタイプでしょ?」


「そうですけど、ご存じなんですか?」


「いえ? 単にパンツを渋りつつもくれるって言いましたから。なんでも盗んでいいと言った以上、パンツを盗まれたのもしょうがないと納得してくれますよ」


「なるほど……でも、感情面で納得しませんよ?」


「そこらへん構わず当り散らすほど子供じゃないでしょう? ちゃんとした大人の女性ですからね」


「はぁ」


 あのギルド長は人間ではない。子供かと思っていたが、そう言うわけではなく、単にそう言う種族なのだ。

 手先の器用さに定評のあるハーフリングと言う種族なのだ。元ネタと違って身長は男性で140センチ、女性で130センチ程度まで伸びるが。

 ちなみに、ハーフリングはかつての大戦争で巨人族を絶滅寸前まで追いやり、巨人族に恐れられているという設定がある。


「ところでギルド長っておいくつなんですか?」


「確か、40歳くらいだったと思いますけど、それが何か?」


「いえ、ちょっと気になっただけです」


 40歳と言うとまだ結婚適齢期前かと光輝はうなずく。

 基本的にこの世界の種族は人間も含めて寿命が長い。もっとも短命な種族の人間でも、100年くらいは生きるし、最長寿は206歳だという。

 我々の知っている人間とは根本から異なるのだろうと設定集では結論付けられている。


 ハーフリングは比較的短命な方だが、それでも人間の倍は軽々と生きる。最長寿は529歳だ。

 そのため結婚適齢期も遅く、50歳半ばくらいが適齢期と見られている。結婚可能年齢は人間に合わせてどの種族も14歳なのだが。


「ま、時間はあるしね」


 10年やそこらは大した問題でもないさと光輝はうなずく。

 人間であれば10年は長い年月だが、恐らく光輝はすでに人間ではない。

 現在光輝は三十路手前のはずなのだが、見た目は10代後半と言ったところだ。身長は180に少し届かない程度だろう。


 若返ったのかと思っていたが、そうではない可能性の方が高い。

 と言うのも、彼のプレイしていたゲームのプレイアブルキャラクターに、人間と言う種族は無かったためだ。

 代わりにダッチヒューマン(人間モドキ)と言われる種族が居る。人間に似ているが死ぬまで老いない種族だ。

 と言っても、人間と同様に好戦的で野心的なので、老いる前に片っ端から死んでいくに過ぎないのではという見解もあるが。

 まぁ、少なくとも200歳くらいまでは若いまま生きるらしい。最長寿が200歳なのでそう言われている。伝説上では800歳まで生きたダッチが居るとのことだが、本当かは分からない。


 このダッチであれば、光輝が三十路手前の年齢でも、18歳くらいにしか見えないのは何もおかしくないのだ。

 つまり、光輝には時間的猶予が最低170年ほどある。

 ギルド長にも最低でも170年はある。

 それだけの時間があれば、10年待つくらいはなんでもないという事だ。


「さて、これからがんばるかぁ」

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