に
あれから、一週間がたった。
あのスーパーの休憩所には行きづらい。
あんなにハッキリ言われたんだ。
辛いこと極まりない。
…名前くらい知りたかったなぁ。
やっぱり諦めるしかないのかなぁ。
完全にウザがられてたもんなぁ。
今日は土曜日だ。
たまたまスーパーに買い物にきている。
あの人は土曜日も来てるのだろうか?
私の頭の中はまだあの人で占拠されている。
「諦めなきゃ!」
そう、本当にかなわない恋は終わらせるのが…
「あ。」
私は聞き覚えのある声に後ろをむいた。
終わらせたいはずなのになぁ。
「…」
彼は無言で立ち尽くしてこっちを
見ている。
「あ、あの…なんですか。」
「来なくなったよね。」
「そ、そりゃそうですよ、その…えっと…」
彼はまた無言になる。
また散々貶す言葉を考えてるのだろうか。
「あの、私はこれで…」
「いや、まって。」
「え?」
まさか、止められるとは思わなかった。
「それ。」
「……!!!!!!!!」
指差した場所が、私の腕だと気づき、私はぞっとした。
「いや、見ないでください、お願いです!失礼しました!!」
私はとにかくこの場から逃げるため、走った。
「ちっ、まてって言ってんだろ!」
無理!無理無理無理!
だって、腕をみたら気持ち悪がられるよ、お願いだからやめて!
「待てよ!」
あっという間においついた彼は私の腕をつかんだ。
そこで、ばれる。
「やっぱり、腕、なんか他の人より長いよね。」
終わった。
ストーカーという印象に、
化け物が追加された。
「ごめんなさい、もうかかわりません、許してください!」
不安で胸がいっぱいになる。
だからこそ、彼の言葉は響いた。
「素敵。」
予想だにしない言葉が彼の口からでる。
きっと、これは憐れみだ。
彼がこんな腕を素敵と言うはずがない。
腕が長いから、私は全体的に見られると酷いバランスで、その長い腕は見れば見るほど化け物みたいに気持ち悪く思えてしまう。
それを、素敵?
「ねぇ、なんで腕長いの?」
彼の目は、これまでに見たことないくらい見開いてる。
その目を避ける事などできるわけが無い。
「生まれつき…だからわからないです。」
そしてずっと掴まれてる腕は恥ずかしくて熱をもちだす。
そして彼はそんな私を気にせず立ち尽くしたまま腕に目を釘付けにしている。
近い距離に私は感激を覚える。
「あの…」
そこでやっと彼は私の存在を思い出した。
すぐに腕をはなし、距離をとる。
その行動はいたって冷静で、マンガでよく見る恥ずかしがったり頬を赤くする行為は全くなかった。
「あぁ、ごめん。」
「なんでそんなにこの腕が…その、気になるんですか?」
「珍しいからじゃないかな。」
「え、それだけですか!?」
「じゃあお前はどうして本を読むんだ?」
「…面白いからです。」
そう、面白いから夢中になって目がはなせなくなる。
単純でいて、それで、とても…
「バカみたいって言いたいの?」
まるで、心を見透かされてるみたいだ。
「あ、その…私は、ちょっと親に頼まれてますし、帰ります!」
振り切って逃げたい。
嬉しさが嘘に感じてしまうから。
「逃げないで。」
「今度はもっと話そう。」
これは振り返る事を許されるだろうか。
何も言えない私はやっぱり逃げるしかできないみたいで。
それでも、足を止めた。
振り返る事はできないけど、言いたい。
「ありがとう、ございます。」
今度はちゃんと言おう。
気持ち悪がられてもいいから。